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◆第一週 三日目?◆


 ――そんな悪夢を見た後なので、三度目の目覚めが爽快である筈もなく。

 パチリと目を覚ます。

 不思議な事に、瞳に映る景色は悪夢で見たものと全く同じものだった。


 あれは本当に夢だったのか?

 あまりにもリアルだった痛み。

 それを確認すべく右腕を見てみるも、そこには切断された筈の見慣れない右腕があった。

 まるで赤ん坊のような、小さくてふっくらしたか弱い腕。

 動かしてみると、確かに俺の腕だった。

 感覚もしっかりある。


 なんだ、夢だったのか。

 そう思った矢先、まるでそれを否定するように右腕が勝手にプルプルと小刻みに震えた。


 ………。


 きっと疲れているのだろう。

 幻覚を見てしまった。


 とりあえず、生きているのが分かったので現状を把握する事に努める。

 暫く記憶を探り……。


 ………(回送中)。

 ………(回送中)。

 ………(回送中)。


 ほとんど何も分からない事が分かり、結論を出したところでこれからの方針を少し考える。


 どうやら俺は、ただの人間から悪魔に転生してしまったらしい。

 但し転生先は上級の悪魔ではなく、最下級っぽい悪魔の赤ん坊で、しかも混血。

 強いのか弱いのかまるで不明。

 なんとなく雑魚キャラの一体にしか思えないのは俺の気のせいではないだろう。

 幸先が悪すぎる。


 自身がこの世界ではどういう位置付けになるのかはこの際置いといて――考えるまでもなく明らかな気はするが。コレハ現実逃避デハナイ――周囲の状況を確認する。

 ざっと見回すと、六畳間よりちょっと狭いぐらいの密室である事が分かった。

 悪夢で見た光景とやはり変わらない。

 少し嫌な事を思い出したが、すぐに忘れる。

 スライムなんて存在は此処にはいなかった。

 スライムに喰われて死んだ男も存在しなかった。


 あるのは謎だけ。

 俺はモンスターなので、自然発生したと結論付ける。

 POPしたら出口の無い密室空間だった。

 そういう可哀想なモンスターだ。


 地面には俺の身体がスッポリ入りそうなデコボコしたボウルのような容器が転がっており、そのすぐ近くには崩れた石の山。

 夢で見た光景を重ねるなら、俺はあの石が積み上げられた山の上に置かれたボウルの中に、スライムと一緒に入っていたという事になる。

 俺が生まれ立てだとして、いくら夢の中でもスライムを産湯代わりに使うというのはいかがなものか。

 斬新な発想もいいところだ。

 どちらかと言えば俺をスライムで溶かして殺そうとしていたと考える方が正しい発想と言える。

 ぞっとしない話だ。


 もちろん、それは夢の中での出来事。

 現実と一致する部分が多々あるが、間違いなく偶然だ。

 たまたまこの光景を見た後で俺は眠りに落ち、寝落ちする直前に見た光景を材料に寸劇の夢を創り上げただけである。

 所謂、夢の妄想。

 妄想の夢。


 そんな妄想はそれとして――あくまであれは夢だ。いや、悪魔の夢だ――もう少し周囲をじっくり調べてみる。

 調べるために立ち上がり、活動を開始する。

 俺の身体は意外とすんなり言う事を聞いてくれた。

 どうやら夢の中のように金縛りもどきにかかっている訳ではないらしい。

 若干ながら右腕が重くバランスを崩して転けるという一コマが何度か繰り返されたが、概ね順調。

 動いていればそのうち慣れるので今は我慢の時。


 転生してしまったのは俺にはどうする事も出来ないから仕方ないと諦め、しかし二度とスミレさんと会えない事をつい考えてしまい涙がほろり。

 俺という存在は余程スミレさんに依存していたんだなと改めて実感しつつ、その事を惜しんでいてももはやどうにもならない状況だというのは分かりきっているので、今は目の前に立ち塞がっている窮地をどうにかする事に意識を傾ける。

 昔を偲ぶのはもっと余裕が出来てからだ。

 何故がどうしてこうなったのかは神のみぞ知る。

 とりあえずこの新しい生をとりあえず生きていこうと決意する。

 誰かに依存してしまわないように心を強く持つ。

 心の中の半分以上を占めていたスミレさんへの想いをそっと封印し、心の宝箱へと閉じ込める。


 コツコツと壁を叩きながら部屋の中をぐるっと一周。

 壁を叩くのに使っているのは左腕だ。

 何故だか右腕で叩くと感触がいやに柔らかく、探っている音の響きも芳しくない。

 その理由は考えないようにして、ようやく一周するかといったタイミングで音が変わった。

 逆回りに調べていけば良かったと思うところだが、結局は慎重を期して全周を調べていた筈なので問題なし。


 逸る気持ちを抑えて、今度は高さを変えてもう一周。

 更に高さを変えてもう一周。

 俺の身長でギリギリ届く高さまで調べた結果、やはりその一部分だけが他とは違っていた。

 見た目は同じなのに……いや、手探りで更に周囲を調べてみると、左右に溝のようなものが上下にはしっていた。


 思わず小躍りした。

 悪魔(インプ)の踊りなど怪しさ抜群だが、周りには誰もいないので無問題。

 右腕がプルッと震えるが、俺は何も見ていない。


 俺がインプだというのは、意識すれば――




[種族:《魔物(モンスター)悪魔系(タイプ・デーモン)》]

[個体種名:《小悪魔(ベビーインプ)混血種(ミクスブラディ)》]




 ――という謎の言葉が頭の中に現れてくれるので、そう思う事にした。

 インプなのに背中に翼が生えていないのは、仕様の違いだと思っておく。


 左右にはしる溝を発見した。

 恐らくこれがこの部屋の唯一の出入口であり隠し扉。

 ならば、あとはどうにかしてこの隠し扉を動かすだけなのだが……まさか、この重たそうな壁を力尽くで動かさなければならないとか、そんな事は無いよな?

 きっと何処かに開閉スイッチがある筈だ。

 自動で開閉してくれるドアである事を望む。

 どう見ても分厚い土と岩の塊であり、ごく一般的な軽い扉には思えない。

 そんなものを人の手で動かすなど面倒かつ億劫すぎる。


 スイッチがあるとすれば、俺の身長では届かない場所にある可能性が高い。

 部屋の中央に転がっていた積み石を運び、隠し扉付近にえっちらおっちらと積み上げる。

 赤ん坊サイズのこの身には重労働だ。

 しかし背に腹は変えられないので、休み休み労働に精を出す。


 小一時間も働いたところでそこそこ満足の出来る石山の道が出来上がった。

 少々危なっかしいが、不安定なその石山を足場にして更に付近を調査する。

 すると、大人の腕でも入りそうな横穴を発見した。


 地面にいた時には身長と目線の角度の問題でまるで分からなかったその穴の深さはどうにか俺の手でも届く程度。

 覗いてみると奥に謎の紋様が刻まれていた。


 そんな訳で、とりあえず押してみた。

 ……動かない。


 反対に引いてみる。

 ……指で掴める様な部分が無く、どうやっても無理だった。


 叩いてみる。

 ……反応がない。

 ここは爆発しなくて良かったと思うべきか。

 それとも、爆発すらしなかった事に落胆すべきか。


 ならば最後の手段。

 ひらけゴマ!

 ……返事がない。

 どうやらただの紋様のようだ。


 そんな訳がない。

 きっと魔力とかで反応するタイプの仕掛けなのだろう。

 

 ふむ。

 俺にどうしろと?



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