2-13
◆第六週 四日目 星源日◆
新しい一日が始まる。
まったく眠った気がしなかった。
徹夜した後で気絶したためコンディションは最悪。
それでも気丈に振る舞ってフォルとクズハに別れを告げ出発。
あっと言う間に午後になり、しかしこんな場所で意識を手放す訳にもいかず、何が何でも意識を保って歩き続ける。
何故か後ろにスライムが2匹続いていたが、気にしたら負けだ。
普通はスライムが仲間にいたら例え弱くてもちょっとぐらいは嬉しくなる筈なのに、全然そんな気がしない。
襲い掛かってくる敵をやや危なげに倒しながら進む。
よく考えたら昨日から何も食べていない事に気付く。
しかしこういう時に限って食べられそうなモンスターが現れない。
ミミズ多すぎ。
ちなみに後片付けは後ろの二匹がせっせと頑張っていた。
◇◆◇◆◇
体感で3時のオヤツ時を越えたぐらいで、ようやく放棄された拠点に辿り着く。
ああ……昨日はまだ確かにあった筈の貝殻2つが消えている。
一眠りしようと思ったのに。
本当についてない。
不幸のスキルは凶悪過ぎる。
オフに出来ないものか……。
などと心の底から願うと、【不幸・弱】の表示が半透明になった。
――おや?
その後の調査で、他のスキルも半透明――つまり無効化する事が出来た。
常時発動のパッシブスキルだろうが、任意発動のアクティブスキルだろうが、ほとんどのスキルが自由自在にオン/オフ出来る。
本当に無効化になったかどうかはアクティブスキルを使ってみて分かった。
例外は【ライフスティール】や【運命改変】など、一部のスキルだけ。
どうやら俺は最初にそれを試すスキルを間違えたらしい。
あの時は【ライフスティール】でしか確認しなかった。
なるほど、思い込みは禁物という事か。
とりあえず、不幸を無効化に出来ただけ良しとする。
まぁ、だからといっていきなり幸運がやってくる訳ではないが。
いや、むしろ不幸の影響はまだ続いていた。
というか、これまでで一番の不幸がそのタイミングで舞い降りる事になる。
武装した蛇女鬼の集団に襲い掛かられた。
[リトちゃんはスキル【弓術】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【弓技・射】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【壱ノ矢】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【魅了の魔眼】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【妖艶ノ香】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【部分変化】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【破邪の癒し手】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【呪歌】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【竪琴】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【発狂】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【叫声】を対象よりスティール]
[――隠匿されているスキル【修羅の因子】の成長を確認しました。
――《子悪魔・希少種》〝リトちゃん〟に能力ボーナスが与えられます]
◆第六週 五日目 風源日◆
どう考えても手加減出来るような相手、というか数ではなかったため、不本意ながら俺は全員を殺さざるをえなかった。
戦いは夜通し続き、敵は最後の一人になっても戦いを止めようとはしなかった。
綺麗だった池の水はラミアの血で真っ赤に染まり、狭い室内にラミア達の死体が積み重なっている。
彼女達は話し合いにすら応じてくれなかった。
逃げ場の無い部屋にいた俺は、入口から次々と現れる鬼の形相のラミア達を殺す以外に生き残る術は無かった。
いや、最初は出来る限り殺さないようにしていたのだが、徐々に意識が狂い、気が付けば全力無双。
落ち着いた後、彼女達から得たスキルを確認して納得する。
耐性の無い俺にはどうしようも無かった。
彼女達が何故問答無用で襲いかかってきたのか?
バグ族の住処で彼女達の仲間を見ていなければ、その答えは分からなかっただろう。
俺のいる場所へやってきたのも偶然では無い筈だ。
ラミア独特の香でも追って此処に辿り着いたのだと思われる。
そう考えると、俺が単身でいた所を襲い掛かられたのはむしろ幸いだったかもしれない。
フォル達と一緒の時であれば、間違いなく2人は死んでいる。
3種族の集落にいた時でも、ほぼ全滅に近い被害が出ていただろう。
それぐらい彼女達は強かった。
種族の強さがまるで違う。
たまたま俺が勝てたのは狭い室内で数の利が活かせず、弓矢も存分に振るう事が出来なかったからだ。
これを幸運と言わずして何と言えば良いのか。
運良く【不幸・弱】のスキル無効化に気付き、この部屋で少し時間を潰した事で俺は生き延びる事が出来た。
無効化に気付かなかったりスキルの調査をせずに出発していたら、俺の方が死んでいた可能性が高い。
そして同時に思う。
彼女達はとても不幸だったと。
俺さえいなければ、少なくとも彼女達の最低限の目的は間違いなく達成出来ていただろう。
血の涙を流したまま息を引き取っているラミア達を埋めていく。
モンスターとはいえ、人の姿を象っている彼女達を俺はそのままにしておけなかった。
そして全ての処理が終わった頃、水汲みにやってきたコボルト達がやってくる。
そこでようやく朝であることに気付く。
また徹夜か……。
コボルト達は真っ赤に染まった大地と池と俺の姿に物凄く驚いたが、説明する気力も沸かなかったので、俺は終始無言で彼等と共に集落へと戻った。
道中、いつの間にか何処かへと出かけていたスライム達が現れ、俺の身体に貼り付いて血を舐め始めるという一抹も起きるが、もはやどうでもいい。
集落に帰るとすぐに寝た。
家には預けていた子供達6人の姿があり、全員が物凄くお腹を空かせているという更なる追い打ちの状況が待っていたが、俺はスライム達に『頼む』と言って意識を手放した。
蛇女A「む、無念……まさか一個大隊が全滅なんて!」
蛇女B「あの~、全滅する前に何で誰も逃げなかったんでしょう?」
蛇女C「あれ、そういえば……」
蛇女D「(【叫声】【発狂】【呪歌】【妖艶ノ香】、全部無差別範囲技なんですけど……それを開幕で全員が行使すれば、いくら耐性があったとしてもそりゃあね)」




