2-11
最長老との会談が終わった後は、ゴブリン達――以降はゴブ族とでも呼ぶ――が住んでいる集落へと向かう。
コボ族の地から出る際に、最長老とは別の老人コボルト衆からお土産にコボルトの子供2人を押し付けられてしまったが、考えるのは後。
フォルに面倒を見るよう言い渡して、そのまま4人でゾロゾロとゴブ族の地へと入る。
ゴブ族の住処に入ると、まるで同じ頭文字であるあの伝説のGのようにワラワラと集まって動いているゴブリン達の姿がまず目に入った。
そしてやはり蜘蛛の子を散らすように慌てて逃げていく。
その拍子に誤ってゴブリンの一人が篝火にぶつかり、その下にあったボロ布の山に引火。
あわや大惨事になる所だった。
咄嗟に【水飛沫】の魔法を多重連続発動させたのだが、思いのほか水量を確保出来て消化に役立ったのは僥倖か。
【水飛沫】は少量の水をパシャッと飛び散らすだけなのだが、20回も使えばそれなりの水量にはなる。
その分、ごっそりと身体の中から何かが抜けていったが、まぁ火事になるよりは良いだろう。
それに悪い事ばかりではなかったしな。
一気にゴブ族との距離が縮まった。
お礼にゴブリンの子供2人を貰った。
…………。
いや、別に俺が強権を発動させてお強請りした訳では無い。
俺の後ろにコボルトの子供2人の姿があった事で、彼等はいち早く状況を理解したのだ。
3種族は互いに競い合っているらしいので、コボ族が子供を差し出したなら自分達も子供を差し出さなければ今後不味いことになると考えたのだ。
献上品として選ばれてしまったゴブリンの子供2人には悪い事をしてしまったが、まぁ悪いようにはしないから安心してくれと言ってニカッと笑う。
こらこら『どうかお命だけはお助けを!』とは、いったい何でだ……。
ゴブ族の住処はコボ族よりもこじんまりとしている上に数が多いので、人口密度はかなり窮屈そうだった。
基本、一部屋に十数匹が雑魚寝しているといった感じで、個室の類はありそうにない。
加えて部屋には武器防具道具食糧が散乱し、ほとんど整理整頓されておらずしかも汚いという至れり尽くせりの状況。
コボルト達は頻繁に水を汲みに行き、布で自分の身体を拭うぐらいの事はしている様だが、ゴブリン達にはその習性はないようだった。
だから何処に行っても臭いがかなりきつい。
鼻が曲がる。
フォルも随行するコボルトの子供2人も鼻を押さえて口呼吸に切り替えている。
よく近隣住民から苦情が来ないなというぐらいやばかった。
そんなゴブ族の得意分野は、取得したスキルからも分かっていたが、加工。
武器防具の製作場らしき場所やその道具が散乱している箇所が幾つか見受けられ、実際に加工している者達もいた。
本当なら鍛治と言いたい所なのだが、彼等が行っているのは金属を必至に叩いて伸ばしたり、削ったりして形にしているだけなので、加工である。
それでもまぁまぁの物が出来るのだから一芸と言えよう。
他の特徴といえば、食べれるものなら何でも食べる悪食あたりか。
何の調理もせずに何処かで見た事のあるミミズを生のままむしゃむしゃと食っていた。
随分と逞しい種族である。
いや、もしかしたらこれだけ数がいるので、そうしなければならないほど食に困っているというところか。
ならばもう少し子作り計画をたてろと言いたい。
が、俺の知っているゴブリンの知識だと、まぁまず無理だろう。
そっちの欲は制御し難いし、死亡率は高いが成長のしやすさはダントツの種らしいし。
だからこそゴブリンはいつまで経っても駆逐しきれない。
伝説のGです。
そして問題の区画にやってきた。
はぁ……。
コボ族よりも酷い。
しかも隣の部屋からはただいま真っ最中といった粘着質な音とか細い悲鳴の連続とかが聞こえていた。
一応は死んでしまわないように大事に扱っているようだが、そんなのは本人達にとっては何の慰めにもならないだろう。
というか、これのどこが大事に扱っている光景なのか分からない。
とりあえず、コボ族と同様の指示を出しておく。
ただ、彼等のそういう欲に対する頑張り様からして、その改善が行われてもほとんど一時凌ぎにしかならず効果は期待出来ないので、もしかしたらいつか強引な手段をとらざるをえないかもしれないと覚悟しておく。
◇◆◇◆◇
最後はバグベア達――以降はバグ族とでも呼ぶ――の住む集落へと向かう。
既に彼等も俺が各集落を回っているという情報を掴んでおり、早速だが子供達を差し出された。
これほど貰って嬉しくない賄賂はないな……。
まぁ戦国時代の大名達の様に、人質を取ったと思えばいいか。
バグベアはゴブリンと熊を足して2で割った様な容姿だが、普段から重たい装備品を服代わりに身に着けており、3種族の中では比較的狂暴で知られている。
その所感は他2種族からのものだったが、俺を前にしても逃げる素振りは見せなかったので多少はあっているのだろう。
ただ俺としては別の思惑があるようにも思えてならない。
何故なら、昨日彼等から手に入れたスキルの中に【被虐性欲】というものがあったからだ。
被虐性欲――マゾである。
バグベアという名前は俺も前世の知識で何となく知っているが、ゴブリンの一種という以外にはよく知らない。
あまり有名でもないし、諸説あるとは思うのだが、流石にそういう趣向を持っている種族だとは思えない。
だからきっとあれはあの個人特有の趣向だろう。
そうに違いない。
一族全員がそんな訳が――あ、何か虐めて欲しそうな目で見ている気が――そんな訳がない……筈だ。
事実はどうあれ、今はバグ族の暮らしぶりや特徴を確認していく。
その暮らしぶりからして、一番お金持ちの様な印象だった。
装備がとても充実しており、鉱物の類がゴロゴロと転がっており、食糧の備蓄もしっかりしている様に見受けられる。
どうやら彼等は洞窟内でせっせと採掘を行い、取れた鉱物等を取引材料にして装備を得ているらしかった。
狩猟にもある程度力を入れており、コボ族では狩れない強固なモンスターでも力の強い彼等ならば狩る事が出来る。
ならばもっと数を増やしていてもおかしくないのだが、種族の特性上、彼等は数が他2種族に比べて増え難いのだとか。
ただ、頑張ってはいると。
あまり抱きたくはないが、種族の女もきちんと毎日抱いていると言う。
いや、そういう情報はいらない。
そんな話の流れから奴隷のいる区画へと案内される。
するとそこで、全く予想していなかった女性を見る。
奴隷はコボルト達が囲っている数よりも少なかったが、一人だけ異色の存在がそこにはいた。
死んだ魚の様な濁った瞳を浮かべている女性達とは別に、ただ一人だけ個室にいた青い肌をした美女。
その下半身は魚の鱗のようなものがビッシリと生えており、そして足がなかった。
まさか、魚女鬼……?
答えは否。
彼女は蛇女鬼だった。
まさかモンスターを繁殖用奴隷にしているとは……などとついそんな言葉を呟いてしまったら、まだ彼女は繁殖用としては使えないという謎の説明が返ってきた。
いったい何で人間の中に彼女だけが混じっているのかと聞くと、幸運にもダンジョンの奥で行き倒れていたのだと言う。
バグベア達はたまにフル装備PTを組んでダンジョンの奥へと遠征に出かける事があるらしく、その際に偶然拾ったらしい。
拾ったのだが、うまく扱いきれず、今はこうして牢屋に閉じ込め心が折れるのを待っているのだとか。
うーむ、美女がダンジョンの奥で倒れていたから即行で奴隷にするというのは俺も男なので理解出来なくもないが、どうにも危険なフラグが立っていそうな雰囲気。
[リトちゃんはスキル【締殺】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【蛇女鬼族言語】を対象よりスティール]
かなり物珍しい光景だったので、とりあえず友好関係を結んでおこうとラミアと握手。
その際に『肌が綺麗だな』みたいな御世辞を言いながらツンツンつついてスキル搾取。
妖艶な笑みと獲物を見るようなギラついた瞳が返ってきたが、もしこのラミアと殺りあっても勝てる自信はあったので物怖じするような事はなかった。
折角なので、そのまま少し話をさせてもらう。
すると予想通り、まず驚かれた。
まぁそうだろう。
先程の世辞はバグベア語だったので伝わらなかったみたいだが、運良くラミア語を手に入れられたので俺は彼女と意思疎通が出来る様になった。
牢屋に閉じ込められていても妖艶な雰囲気を醸し出していたラミアのお姉さんの名前はラミーナと言うらしい。
ラミーナは彼女は退屈そうな目をしているだけで、身体の方はピンピンしており悪戯された形跡が影も形もない。
まさかサキュバスのように好きモノ……という可能性は彼女の怒りによって消滅。
怒った顔も溜まらなく美しかった。
ただその怒りを最後に、ラミーナは口を聞いてくれなくなる。
甘い言葉で色々褒めてみるがまるで効果無し。
むしろ怒りゲージがどんどん溜まっている御様子。
もしかしたらスキル熟練度が低すぎて、会話が稚拙になっているのかもしれない。
仕方なく、別れの挨拶を最後に、バグ族の住処を後にする。
これで3種族の大まかな情報は手に入った。
簡単にまとめると、こんな感じか。
犬鬼は、速度タイプの人鬼種。
掘削が得意なので、居住区を広げる場合に大活躍。
同じく得意の採集と狩猟で、食糧は潤沢。
子鬼は、あまり戦闘には向かないタイプの人鬼種。
知能は3種族の中で一番下。
人数はダントツの一位。
成長速度が半端無いが、その分死亡率も圧倒的。
いつでも食糧難。
加工が得意という事だが、何となく数を養うために手を出した感が否めない。
数だけはいるので、人海戦術を必要とした時には大活躍するかもしれないが。
妖子鬼は、力タイプの人鬼種。
しかし防御は低いのだろう、重装備で身を固める安全思考の気来が強い。
人数は最も少なく、繁殖用奴隷の数も少ない。
唯一、蛇女鬼の奴隷ラミーナを持っている、というか飼わされている?
採掘が得意で、鉱物の類を大量に所持。
そんな3種族が同じ場所でコミュニティを作り、互いに足りないものを補いながら此処では暮らしていた。
コボ族は潤沢な食料を取引材料に、バグ族は鉱物と嗜好品を扱い、ゴブ族は労働力が基本。
正直言ってコボ族もバグ族も自分達だけで十分暮らしていけそうだが、ゴブ族の数の利があるだけで外敵から攻め込まれる確率は低くなり、また生き残る確率は高くなる。
なので意外に彼等は釣り合っているとも言えた。
とはいえ、所詮は下位種族の集まりなので、それなりに強い冒険者達に攻め込まれれば簡単に蹴散らされてしまうのは間違いないだろう。
そんな事になっていないのは、この階層から最も近いダンジョンの入口が人里からかなり離れているからだった。
人里に行くにはまだまだ色々と乗り越えるべきものが多そうだな。
さて、俺はリーダーとしてこれから何をしようか?
――などと考えながら家路につくと。
クズハが家出していた。
子狐「新キャラがいっぱい出てきたね」
子狼「うん。でも、僕達の出番、少なくならないかな?」
子狐「私は絶対に大丈夫だと思う。だって私、ヒ□インだから」
子狼「伏せれてないんだけど……なら、俺はヒー□ーだ!」
悪魔「(可哀想に。まだ知らないんだな……)」




