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デモンズラビリンス  作者: 漆之黒褐
第二章
19/73

2-4

◆第五週 三日目 水源日◆


 まずった。

 源日特性をもう少し考えるべきだった。

 目を覚ますと、見渡す限り一面がミミクリーアクアリウムによって占拠されていた。

 どこの樹海ダンジョンだ此処は。


 今日は雨だった。

 それで察して欲しい。


 頑丈な蔓を大量に確保出来たのは良いが、起き抜けにこの重労働はきつい。

 フォルとクズハも頑張ったが、やはり多勢に無勢。

 全身を雁字搦めにされ池の方へとズルズル引き摺られていく2人が必至に助けを求めてくる姿に思わず哀愁を感じてしまった。

 ホロリ。

 俺の姿が見えなくなるとなんか暴言まで飛んできたが、まぁその辺りはあとでキッチリOHANASHIさせて頂くとして。


 お腹が空いていたので、襲い掛かってくるミミクリーアクアリウムを食ってみた。

 意外と美味かった。

 過酷な環境下で育った御陰か、水の中で育った奴よりも美味い。。

 美味いというより味が少々濃いというべきか。


 出汁でも取れそうな濃厚な味わいに少し頬が緩む。

 これなら息の根を止めた後にお湯に入れれば本当に出汁が取れるかもしれない。

 気分は昆布出汁。

 復活する可能性も否めないが、その時はその時だな。


 などとミミクリーアクアリウムの躍り食いに興じていると、何やら焦げ付く臭いが。

 少し遅れて、急にミミクリーアクアリウム達の元気が無くなっていく。

 どうやらようやく気付いたらしい。


 暫くして、クズハとフォルが部屋に戻ってきた。

 相手が草なら【狐火】との相性は最悪に近い。

 しかもミミクリーアクアリウムは自分のフィールドではなく壁に根を生やしていたので、少し乾燥状態にあった。

 雨が降って湿度が上がっていたこと、この《宝瓶之迷宮》が多少じめじめしていること、そして水源日で活性化されていたこと。

 これらの御陰で水の外でも生き永らえているようだが、本調子には程遠い。

 頑張って池まで腕を伸ばしたのだろう。

 種の保存本能で眷属を必至に増やしていたなどの涙ぐましい努力の跡――枯れている一帯を見た時、ちょっと可哀想な事をしてしまったかなと反省した。


 涙目になった2人に『おかえり』と言うと、ポカポカ殴られた。

 何で助けてくれなかったんだ、と。

 いや、もちろん助けるつもりだった。

 【反響定位】で2人の現在位置はきちんと把握していたので、まだ大丈夫だと思い放置し続けていただけである。

 2人はもう少しで水の中に引きずり込まれる所だったと言うが、恐怖で距離感覚ほか諸々があやふや状態になっている被害者の妄想だな。

 まだ池のある部屋にちょっと足が入ったぐらいだったぞ?


 残念ながら、俺の言葉は2人の耳には届かなかった。

 うん、それ以上強く殴ってきたら反撃するからな?

 その一言で無事話し合いは終了した。




◇◆◇◆◇




 引っ越しのために荷造りをする。

 最初に作ったのはロープだ。

 貝殻(ベッド)3つは絶対に持っていくつもりなので、少々引き摺っても問題無さそうな頑丈で太い蔓を選んで結っていく。

 綱引きで使うような重くて太い長いロープが出来た。

 クズハの【狐火】で軽く乾かしたあとに水を含ませる事で紐同士がしっかり食い込み強度が上がった事を確認。

 ようやくまともな道具が手に入った様に思える。


 持ち運ぶのはベッド用の貝殻3つと、食料庫にした貝殻1つ。

 それらをロープでしっかり縛り、繋げていく。

 最初は1人一個ずつ背負っていこうかと思ったのだが、フォルに背負わせてみたところ、振り向いた瞬間に背負っていた貝殻がクズハを吹き飛ばすという惨事が発生したので止めた。

 そのあとフォルが大惨事というか大火事になり、折角作ったロープもおじゃんになってしまった。

 まぁ材料はいっぱいあるから別に良いが。

 俺が作り直す訳じゃないし。


 荷造りが終了し、細かく千切ったミミクリーアクアリウムをふりかけた〝ウォーラビットの石焼きステーキ〟を食べていると、急にフォルが『そう言えば……』と言って何かを思い出す。

 俺が眠っている間にあった〝とある事〟を思い出したらしい。

 何でも、ここから近い場所にある部屋がちょっと奇妙な状態になっているのだとか。

 一応対策は取っているが、出発する前に確認して欲しいとのこと。


 分かったと言うと、何故か心配された。

 意味不明。

 俺がそんじょそこらのモンスターに遅れを取ると思っているのだろうか?

 心外である。


 (くだん)の部屋は、これから引っ越そうとしている部屋とは逆方向にあった。

 なので、荷物は一度置いて先に確認する。

 フォルに案内されるまま通路を進む。

 そうすると通路の先に土が胸ぐらいまで盛られ、通行止めになっていた。

 対策と言っていたから、防波堤だろうか?

 壊したり飛び越えたいしないでね、という忠告を聞いた後、とりあえずその防波堤まで近づく。

 何だか物凄く嫌な予感がした。


 通路の先は闇に染まっているので何も見えない。

 【空間視】で把握出来る距離は限られており、その範囲内には特にこれといった何かは視えなかった。

 【反響定位】を使うも、何だか反応が鈍い。

 パッシブスキルらしい【集中】で俺の集中力は多少あがっているのだが、現状俺が持ち合わせている能力ではそれをハッキリ認識する事は出来なかった。

 出来なかったのだが、物凄く嫌だという感じだけは何故か良く分かった。


 クズハが俺に確認の言葉を投げ、【狐火】を飛ばす。

 【狐火】は使用者から離れすぎると、徐々に炎が弱くなり最後には消える。

 しかしその特徴が、あのおぞましい光景をよりおぞましいものへと変貌させていた。


 うぞっ。

 うぞうぞっ。

 うぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞっ。


 ほんの少しだけ見えただけでもう十分だった。

 俺はそれを見た瞬間、石化した。


 いや、別にバジリスクとかメデューサとかがいた訳ではない。

 あの最強のGがいた訳でもない。

 いたのはSである。


 スライムがっ……!?

 その通路の先にあった部屋の中にスライムがっ……!?

 部屋の地面を覆い尽くすほどの大量のスライムがっ……!?

 みっちりと詰まったスライム達がっ……!?

 行き場が無くて乗ったり乗られたりを繰り返すスライム達がっ……!?


 混ざっているようで混じり合わない個を保ち続けるスライム達の、ぐにょぐにょと、うぞうぞと、うじゃうじゃと、ぐちゃぐちゃした姿がっ!?


 俺の精神は会心の一撃を受けて死にました。






◆第五週 四日目 星源日◆


 気が付けば引っ越しは終了していた。

 はて、いつの間に引っ越して、いつの間に眠ってしまったのだろうか?

 あと、貝殻(ベッド)は3つあるのに、なんで2人とも俺と一緒のベッドで寝ているのだろうか?


 狭い。

 フォル退場。

 少し楽になった。

 では二度寝をば。




◇◆◇◆◇




 記憶があやふやのまま狩りに出かける。

 同時に、拠点を移動したので周囲のマッピングも行う。


 戦果はシザーバットにモスビートル、ラビリンスワーム、それとレイククラブを少々。


 ラビリンスワームからスティール出来る【掘削】はどうやら打ち止めの様だった。

 恐らく対象が持つスキルの熟練度を上回ってしまうとか何とかの条件を満たしてしまったためスティール出来ないのだろう。

 ちなみにウォーラビットにも遭遇しているのだが、位置関係が悪く逃走を許してしまった。

 出会ったらすぐに逃げるので、最近なんだか奴等がメ○ルなアレに見えてくる。

 狩っても大量の経験値は入らないので、逃げられてもメ○ルなアレほど悔しくはないが。


 それにしても、俺がこの世界に来てもうすぐ1月も経つのか。

 カレンダーがないので誕生日も分からぬ身だが、たったそれだけの期間で俺は随分と成長してしまったものだ。

 既に前世の肉体スペックを凌駕してしまっている気がする。

 まだまだ使い慣れない身体なので前世の俺と今やりあっても間違いなく負けるだろうが、単純な攻撃力や防御力なら上回っているだろう。

 何しろ、何の技も使わないで石割が出来るし。

 痛みもそこまでない。

 しかもそれがまだ『存在進化』仕立ての低レベル状態なのだから、この世界に住んでいる生物達のパワーバランスは前世のそれとはまるで比べものにならない筈だ。


 この世界の面白い所は、レベル以外にもまだまだある。

 俺は魔物なので『種族レベル』が限界値まで達すれば種族が『存在進化(ランクアップ)』する。

 しかし獣人や亜人には『職業レベル』があり、そちらは限界値まで達しなくても条件を満たせば『職業昇格(クラスアップ)』する事が可能なのだとか。


 どの種族にも一長一短あるが、俺的には2つ以上のレベル項目が存在する獣人や亜人が少し羨ましい。

 種族一択より複数の成長枠がある方がワクワクするだろう?

 特に亜人。


 今の俺がどこまで『存在進化』し続けるのかは分からないが、何れ限界はやってくる。

 しかし亜人は複数の職業を取得出来る――つまり、基本的に成長の限界が存在しない。

 その分、成長速度が遅いというデメリットはあるものの、鍛えれば鍛えるほど強くなっていくという無限の可能性は、強さを求める者にとっては喉から手が出るほど欲しいものである。


 とはいえ俺には【ライフスティール】という強奪技があるので、フォルから事故で奪ってしまった職業の使い道次第では、必ずしも魔物の成長枠に縛られる訳ではない。

 ああ、何処かに殺しても良さそうな悪党でも転がっていないかな。

 いや、殺人の趣味はまったくないが、それでも殺すべき存在は間違いなくいる。

 しかも大量に。

 あのGよりも多く。


 以前の世界では色々と制限があって実行に移す事はなかったが、さてこの世界ではどうだろう?

 きっと戦争も頻繁に起こっている。

 少し期待を膨らませた。

 なにせ俺は悪魔だし。


 人殺しは悪魔の身体に染み付いた習性の様なものです。

 今は理性でしっかり抑えているので何事も起きていないだけ。

 気を抜くと勝手に右腕が動くぐらいなのだから、きっとそういう事だ。

 ああ、この右腕がうずく。

 時折プルンプルンと。


 そう言えば俺は『存在進化』して《子悪魔(リトルインプ)希少種(レアイクス)》になった訳なのだが、他にはどのような可能性があったのか?

 流石に基本となる悪魔族の成長ルートは分からないらしいが、派生先を分かる範囲でフォルとクズハに教えてもらった。

 例としては――。


 まず何の捻りもないノーマルな存在。

 後ろは何も付かず、ただの《子悪魔》だ。

 その種族の特徴を最も色濃く受け継ぐのだが――まあどノーマルなので、他のどの派生種よりも弱い。


 通常とは異なる強力な存在は《亜種(ヴァリアント)》と呼ばれている。

 滅多に現れない特殊な存在だが、間違いなく同種のボス格になる素質を秘めている事は確かだろう。

 稀に弱くなる事もあるが、それは能力が尖ってしまう影響らしいので、必ずしも弱体化したという訳では無い。

 長所が伸びる半面、短所が落ちてしまうといった具合だ。

 魔法特化型のモンスターが存在進化後に身体能力を著しく下げてしまうような感じか。


 特定の属性に偏った場合は、その属性の名前が付く。

 火炎属性に愛されているなら《火炎種(イグニート)》。

 水氷属性に愛されているなら《水氷種(アイシクス)》。

 他、割愛。


 但し必ずしもノーマルより強くなる訳ではなく、弱点が増える事で弱くなってしまう場合もある。

 元々が火炎系種族なのに水氷種となってしまい、自慢の炎が弱体化して火炎耐性も消えてしまうといった具合に。

 同様に、火炎系種族の火炎種となっても、弱点も一緒に強化されてしまった場合にはあまり喜べない。

 まぁ普通は良い方向に働く事が多いので、そういう弱体化現象は亜種になる可能性より低いらしい。


 『存在進化』とは関係ない派生種も存在する。

 『存在進化』する前の最初の状態、つまり生まれたばかりに付く場合である。


 俺とクズハが該当していた《混血種(ミクスブラディ)》。

 そのまま字の如く、異なる種族同士で子供を作った場合に低くない確率で現れる派生種だ。

 但し《混血種》は獣人か魔物にのみ現れ、亜人の場合は《半魔》《半獣》《半妖》などという様な名が付く。

 所謂ハーフである。


 《混血種》の場合は、血の力が強く出た方が種族名となる。

 俺ならば悪魔の血が強く出たので《小悪魔・混血種》。

 クズハの場合は狐獣族の血が強く出たので《狐獣族・混血種》。

 これが亜人の場合は、《森の民(エルフ)半人(ハーフ)》と言った風に、弱い方の血が派生種名に出てくる。

 そしてそのままだとちょっと呼びにくいので、ハーフエルフと呼ばれるそうな。


 《混血種》ではなく、先祖の血が色濃く出た場合――つまり先祖返りしてしまった場合には、《隔世種(ディファージ)》という派生種となる。

 この《隔世種》は非常に稀なケースなのだが、運悪くこのケースを引いてしまった場合には、子供は親とは異なる種族になってしまう。

 父親は猫獣族、母親も猫獣族、なのに子供は《混沌の民》として生まれてしまうなどなど。


 この世界では異種族同士で子供を作る事には何の問題無いらしく――モンスターとの間にも子供を残す事が出来るのは、先程までの説明で何となく理解してくれているだろう――稀なケースとは言ってはいるものの、実はそれほど珍しくはなかったりする。

 百人の子供を集めても見つからないが、千人の子供を集めれば見つかるかもしれない、そんな確率。


 フォルがこの《隔世種》だと聞いた時には、ちょっとばかりフォルを見る目が変わってしまった。

 レアモノが、俺の奴隷(もの)……いや、この考えは危ないから止めよう。


 尚、この《混血種》と《隔世種》は、俺がそうだったように、『存在進化』した場合には消えてしまう。

 なので、この2つの派生種になってしまった子供は、特に強く『存在進化(おとなになりたい)』という思いを持つ傾向にあるらしい。


 但し亜人の場合は『存在進化』が出来ないので、一生悩まされ続ける。

 ただそう言った者が時代の申し子となり、英雄や覇王として名を馳せる事も多いとか。

 現に、この国の建国王は《混沌の民・隔世種》らしい。


 その影響かどうかは知らないが〝混沌の民至上主義〟がこの国には根付いていると2人は言う。

 色々苦労してきたのだろう。

 まだ7歳だがな。


 ――と言った具合で、とりあえず2人が知っているのはこのぐらいだった。

 もしもし、《希少種》の話が出てきませんでしたが?


 知らないそうだ。


 この世界における生物の進化過程は随分と異常だが、身を以てその異常性を体験した俺にはもはや否定なんて出来る訳がなかった。

 しかし、これからも続くだろう弱肉強食の世界で生きていく事を受け入れるしかない魔物(おれ)は、悪魔で矮小な存在(こども)


 早いところ、もっと『存在進化(せいちょう)』しなければ。






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