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◆第五週 二日目 火源日◆
あらかた現状を理解したので、今日から狩りを再開する。
ただ、久方ぶりの3人トリオでの狩りに、フォルとクズハのテンションがちょっとおかしい。
フォルの場合は、きっと強くなった自分を見て欲しいと言ったところか。
昨日は一方的だったしな。
男の子でもあるし。
バトルジャンキーの気質をしっかり持っていらっしゃる。
それでなくとも狼なのだから、血がたぎるのだろう。
今日はしっかり見てやる事にする。
クズハは俺の腕に抱き付いてニコニコしている。
まるでデート気分。
状況的にクズハの相手はフォルだと思っていたのに、どうやら俺が成長してしまった事でクズハの好意は俺に傾いているらしい。
約十日間も会えなかった事も関係しているのかもしれない。
あとは出会った時の吊り橋効果?
まぁ互いにまだ子供の身なので、これは恋愛ごっこだな。
それにしても、暫く見ない間に2人の装備は何と言って良いのか分からないモノになっていた。
フォルの武器はキラーフィッシュの小骨剣から、レイククラブの足爪に変わっている。
指にトンガリコーンよろしく足爪を付けた殺人鬼スタイル。
戦士なのに武闘家というか盗賊というか暗殺者みたいな見た目の変貌に、ちょっとだけ悪魔的な影響を感じてしまった。
いや、フォルは獣人なので爪で戦うスタイルは至極真っ当な筈なんだが、自分の爪ではまだ思う様に切れないためレイククラブの足爪を利用するのは悪い考えではない。
だが、ビジュアルが問題すぎる。
爪だけでなく、顔にも仮面を付けているのは何故だ。
レイククラブの甲殻に穴を開けたモノをミミクリーアクアリウムの蔓で支えているだけの簡素なお面。
全身にもレイククラブの甲殻を頑張って組み合わせて作ったのだろう鎧を着ているのだが、ハッキリ言って笑い転げてしまいそうな格好だった。
鎧が重くて獣人のウリであるスピードを殺しているし、防御力を高めているのは分かるが要所要所に大きな隙間があったり、武器の爪にもあまり攻撃力があるようには思えない。
これはあれだろうか?
男の子に良くありがちな〝俺様超絶格好いい!〟スタイル?
フォルのあの格好についてクズハとコショコショ話で少し盛り上がってみる。
何でも最近は狩った素材が余っているので色々と作って遊んでいるのだとか。
もっと分かりやすく要約すると、暇だから。
とりあえず2人でフォルの姿を褒めて調子に乗せておいた。
クズハが持っている武器も、実はちょっと感想を言うのが難しい。
以前と同じキラーフィッシュの大骨から作った骨棍棒を持っているのだが、トゲトゲしてます。
大骨から伸びている小骨を根本から折らず、少し離れた部分で折った後、尖るように加工している模様。
何というか、釘バットと七支刀の中間みたいな棍棒だ。
そのビジュアルに、ウォーラビットの毛皮から作った片掛けのワンピース(原始人の服?)を着ているので、見た目の野獣度が……。
髪の件もそうだが、もう少しオシャレを気にして欲しいと思った。
一緒にいるフォルが影響しているのかもしれない。
これは俺がしっかり淑女教育をしてやらねば。
光源氏計画ではないぞ?
そんな決意を胸に秘めながら、3人でサクサクとモンスターを狩っていく。
子供の拳ぐらいある虫が群れているラビリンススウォームは、クズハの【狐火】で牽制しつつ一匹ずつ石を投げて着実に仕留めていく。
穴掘りに夢中になっていた巨大土竜もどき、ヒハインドモウルがヤクザキックの一発でアッサリ気絶してしまい――可愛そうなので気付けした後に再戦。
ウォーラビットの死体に寄生してすくすく成長していた笑いキノコ、ラビリンスピルツの胞子攻撃が【狐火】で引火してしまい爆発した時にはちょっとばかし驚いた。
巨大カブトムシ発見!の報告に心を躍らせていると、やはりというかモスビートルという名のモンスターで、力比べした後は泣く泣く殺す羽目になったのは良い思い出である。
少し説明が簡素過ぎたか。
もうちょっと各戦闘を細かく述べると、以下の通りである。
ラビリンススウォームは身体を丸めてボールの様に襲ってくるうえにちょっと堅いので、カウンター攻撃では討ち負ける可能性が高かった。
しかし火が嫌いらしく、また突進してくる前の丸まっていない状態では防御力が低いので、フォルが盾、クズハが牽制、俺が投擲攻撃というフォーメーションで対応。
ちなみに、残念な事に陣形効果は得られなかった。
あると思ったんだがなぁ。
[リトちゃんはスキル【硬化】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【衝撃耐性】を対象よりスティール]
ヒハインドモウルは、ハッキリ言って正面から戦うとウォーラビットより弱い。
だが地中に逃げられると途端に厄介となる。
地中に空洞を作って落とし穴に相手を落とし、狭い地中で鋭い爪を振るって攻撃してくるからだ。
つまりヒハインドモウルは奇襲特化型で、地形属性の影響も大きいモンスターである。
群れで襲ってきたらと思うと少し怖いものがある。
だが、俺には【空間視】があるので地中で動いているモノがあると何となく分かる。
腕をズボッと地面に突き刺し、地上に引っ張り出して仕留めた。
[リトちゃんはスキル【集中】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【地の気持ち】を対象よりスティール]
ラビリンスピルツはというと、気が付けば燃え尽きていた。
クズハが【狐火】を常時使っている。
ラビリンスピルツがこちらを発見、胞子を飛ばす。
胞子が【狐火】で引火。
胞子爆発発生。
胞子発生源であるラビリンスピルツは爆発巻き込まれて炎上。
後にはキノコが焼けた香ばしい臭いが残りました。
いや、まだ何とか生きてたみたいだが。
美味しくいただいた。
うまー。
[リトちゃんはスキル【寄生】を対象よりスティール]
モスビートルは、とある部屋の壁に張り付いてなんか鳴いていた。
求愛活動中だったらしい。
近づくと飛んで逃げ、距離が離れた所でUターンして先端の角で襲い掛かってきた。
その大きな角をグァシッと掴んで止めようとしてみた。
すると、勢いに押されてそのまま壁際まで後退させられた。
おお、意外にも強い。
そこからは互いの力比べ。
勝敗は、2人の応援という後押しがあった俺の勝利。
いやはや、ちょっと危なかった。
モスビートルの角の先端は俺の心臓を正確にとらえており、押し込まれるとそのままブスリと殺られるところだった。
回避を選ばなかった事を少し後悔。
[リトちゃんはスキル【踏ん張り】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【一騎突貫】を対象よりスティール]
そんな新しく見るモンスター達は、予想通り聖水の影響が無くなってから出現するようになったと2人に聞く。
但し未知の敵なので、2人は安全第一を心掛け今日まで極力戦闘を回避し続けてきた。
なのに、初見の俺がまるで意に介さず挑んでいく姿を見てちょっと興醒めだとか。
もう少し命を大事にして欲しいと、あとでクズハに『めっ!』されました。
怒られたけどちょっと嬉しい今日この頃。
ご褒美です。
しかしそれにしても、以前に比べてスキルを強盗しやすくなっているのは、やはり『存在進化』した御陰なのか。
奪えるスキルの上限があがったのか。
強くなったからなのか、存在格の差が影響しているのか、スティールの成功率も気持ち高くなっている様に思える。
兎も角ウハウハ気分である。
[リトちゃんはスキル【吹弾】を対象よりスティール]
ラビリンスワームからは、新たに口の中に含んだモノを勢いよく吹き出せるようになる攻撃スキルが手に入った。
[リトちゃんはスキル【反響定位】を対象よりスティール]
シザーバットからは、自分が発した音が何かにぶつかって返ってきたものをキャッチし、そのぶつかったモノの位置を知る能力が手に入る。
と言っても、超音波を俺は発生出来ないので、精度はかなり低い。
反響した音波をキャッチする聴覚を強化するスキルも一緒に欲しいところである。
[リトちゃんはスキル【威嚇】を対象よりスティール]
ウォーラビットから得たのは、獣がよく行う威嚇行為。
今のところ効果が出ているのかまるで分からないので、今後の成長に期待。
などなど、これまで何度戦っても手に入らなかった相手からもスキルが次々手に入ってくる。
もしかしたらクズハからも例のスキルが……という淡い期待は脆くも崩れ去ったものの、この調子でいけばいつか俺は万能人間、いや万能悪魔になれるという確信を持つ。
ああ、早くアイテム空間などのチートスキルが欲しい。
モンスターを倒してもその全てを持ち運ぶ事が出来ないので、物凄く勿体無いのだ。
はぁ、仕方ない――そんな事を何度思ったか。
今もそう。
いつものように、倒したモンスターの死骸をその場に残して奥へと進む。
ちなみに、俺の名前が変わっているのは『存在進化』したことで名付け親?のクズハが名前を付け直してしまったからである。
子悪魔だから〝リトちゃん〟だね、と。
その名付けルールでいくと、俺はいつか〝デビルのデビちゃん〟とか〝アークデーモンのアクちゃん〟とかになるのだろうか?




