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EX# とあるスライムの物語

◆エピソード:

 とあるスライムの物語 第一週以前◆


 ……はれ?

 あれあれ?

 何ででしょう、とても暗いです。

 暗いです。

 真っ暗で何も見えませんよ?


 えっと……ここは何処なんでしょうか?

 あたし、確か学校で午後の授業を受けていたと思うんですけど?


 ――夢?

 夢なら早く覚めないと大変な事になってしまいます。

 授業中に居眠りなんてしたら丸めた教科書に頭を叩かれてしまうじゃないですか。

 一応、あたしは優等生という事で通っているらしいので、そんな事態に陥ったら後で友達に何て言われて笑われてしまう事やら。


 覚めてー。

 ねぇ覚めてよー。

 夢なら早く覚めてってば~。

 なんで夢の中なのにずっと真っ暗闇のままなんですか?

 せめて先輩とか先輩とか先輩とか出てきて下さいよ。

 あ、もちろん全部違う先輩ですよ?

 同じ先輩が3人も出てきてもらっても困ります。

 って、あたしは誰に説明してるんだろ……はぁ。


 う~ん、なかなか目を覚ましてくれません。

 暗いままです。

 困ったな~。

 もしかしてこれ、実は夢じゃない?


 夢じゃなかったら何なんだろう?

 そういうVR世界にいるとか?

 だったら簡単にログアウト出来るんですけどね。

 残念、意識してもウィンドウすら出てきません。


 というか、腕そのものがありません。

 いえ、なんか奇妙な感覚っぽいものはあるんですけど、それがどうも腕とか足とかそういう感じじゃないんですよね。

 何というか、手足と首を斬り落とされた蓑虫的な?

 自分で言っててとても怖いんですけど、なんか胴体だけしかない!って感じなんです。

 どういう事でしょう?

 やっぱ夢の中なのかな?


 事態が全くのみ込めないので、とりあえず何か思い出してみましょう。


 あたしの名前は如月(きさらぎ)種乃花(ほのか)

 16歳です。

 自分で言うのも何ですが、花も恥じらう可愛い女の子です。

 当然、処女です。

 彼氏いない歴は年齢と同じ。

 恋をした経験はありますが、あれって本当に恋って言うのかなぁ?


 誕生日は2月7日の水瓶座。

 血液型はC型。

 ……ツッコミ無しっと。

 何でC型って無いんでしょうね?

 ちなみにAB型です。


 趣味は絵を描くこと。

 人物画です。

 2次元じゃなくてリアルの方です。

 ただ、1年前から異性を描く事が多くなっているんですけど、これはやはり思春期だからでしょうか?

 いえ、もしかしたらあたしが恋をしてしまったからなのかも知れません。

 だって、描いている人ってだいたいあの人ばかりだし……。

 でもまだこれが恋とは思えないんですよね。

 気になっている事は確かなんですけど。


 ちなみに、さっきの授業でもコッソリとノートの端っこに描いていました。

 パラパラとノートをめくると、モノクロチビキャラ化した先輩がコミカルに動きます。

 所謂パラパラ漫画ですね。

 授業中にいったい何をしているんだと自分でも思います。

 でも手が勝手に……。


 それなのに、部活は空手部に入ってマネージャーをしていたりします。

 絵はただの趣味なので、美術部に入ろうとは思いません。

 それ以前にこの学校の美術部ってあたし以上に(ヽヽヽヽヽヽ)腐っているし……。

 あたしも人物デッサンでラフ画は描きますけど、それを漫画仕立てにして何処かしこで売り捌くというのはちょっと。

 なんで漫画部という名前に変えないんでしょう?


 あたしの趣味の話は置いときましょう。

 今は早く目を覚ます事が重要です。

 あたしは学校では優等生です。

 授業中にパラパラ漫画を描いている時点で首を傾げてしまうかと思いますが、あたしの趣味はまだ誰にもばれてないので問題ありません。

 もしばれたら開き直るだけです。

 でもそれはなるべく避けたいですよね?


 ……これだけ頭が冴えているのに、何であたしは目を覚まさないんでしょうか?

 夢の中なのに手がありませんし、足もありません。

 首を動かす事も出来ませんし、瞼を開ける事も出来ません。

 植物人間というのは、こういう状態の人の事を言うのでしょうか?


 でも、ゆっくりとですが身体っぽいものを動かす事は出来るんです。

 徐々に徐々に身体が動いている感じがします。

 あたしは蓑虫になってしまったと言っていたように、胴体だけが地面との接触を僅かに感知していましたし、動くと若干ながらズズズと擦れている感じも伝わってきています。


 でもそれだけです。

 熱いとか寒いとかもありません。

 痛みもありません。

 と~っても不思議な感覚です。

 でも不思議と居心地は良いんですよね。

 無駄な情報(ざつねん)が一切含まれてないからでしょうか?

 これが瞑想の境地?


 こう、自分の身体がドロドロ~っと溶けているような、そんな感じ。

 お風呂に入った時に身体がまるでとろけるようにぐにゃ~ってなりません?

 そう、ぐにゃ~ってです。

 ぐにゃーって感じです。

 ああ、溶ける……。


 ………。

 ………。

 ………はっ!?


 あぶないあぶない。

 あたしの意識(こころ)までぐにゃ~って溶けるところでした。

 いっそ溶けてしまえばこの夢から覚醒したかも知れませんが、何だかそうなるととても恐ろしい事が起きそうな気がします。

 自分が自分じゃなくなってしまうような?


 一向に目が覚める気配がありません。

 もう億劫です。

 気が狂ってしまいそうです。

 あたし、いったいどうなってしまったんでしょうか?


 僅かながら身体が動かせるので、ひたすら動いてみました。

 地面っぽい平坦が延々と続いていただけですよ。

 ここって何も無いのかな?

 いくら夢の中でも、これは余りにも夢が無いですよね……。

 何もない空間にただポツンといるだけの夢って、何だか寂しすぎます。

 想像力なさ過ぎです。


 そう諦めかけた時……。

 壁にぶつかりました。

 人生の壁じゃないです。

 そんなモノにぶつかる予定はありません。

 ぶつかったのは正真正銘の壁です。

 何故そんな事が分かったのかと聞かれれば、これ以上進めなくなったからです。


 ここで注意です。

 何かに接触しているという感覚はあるんですけど、それが何なのか分かりません。

 形とかも全然分かりません。

 但し、身体を動かしていると擦れている感触があったので、あたしはそれは自分が動いているものだと推測していました。

 それがある時を以て感じられなくなりました。

 動いているのに擦れている感覚がない、つまり壁にぶち当たったと推測しました。


 ――うん、あんまり深く考えたくないなぁ。

 夢の中で感覚があるって可笑しいですよね?

 錯覚ならまだしも、触れている事がしっかり分かるのって、全然夢っぽくないですよねぇ。

 人にもよるんだと思いますけど、あたしの記憶では夢の中で触った感覚は全然ないんですよ?


 夢なのですぐに朧気になって霧散してしまうから覚えている訳ないんですけど、この感覚は確かに『触れている』です。

 身体の場所とかは分かりません。

 でも触れているのは分かります。


 はぁ……。

 あたし、ここではどんな存在になってるんだろう?




[種族:《魔物(モンスター)無形系(タイプ・ノーシェイプ)》]

[個体種名:《はぐれスライム・火炎種(イグニート)》]




 ………。

 ………。

 ………はい?

 今の、何?

 頭の中に妙なメッセージが浮かび上がってこなかった?


 ええと、もう一度もう一度。

 あたしって、どんな存在?

 はい、どうぞ。




[種族:《魔物(モンスター)無形系(タイプ・ノーシェイプ)》]

[個体種名:《はぐれスライム・火炎種(イグニート)》]




 どうもありがとうございました~。

 んで、最初の感想です。

 メタルが良かったな……。


 そ、れ、は、兎も角!


 そうなんだー、あたしってば今スライムになっちゃってるんだー。

 ということはやっぱりここってVR世界?

 しかもゲーム中?

 あ、もしかしてあたしが寝ている間に弓槻(いもうと)健司(おとうと)のどっちかがVRゴーグル被せてログインさせた?

 もう、はた迷惑な……。


 色々と釈然しない事も多々あるけど、少し気が楽になりました。

 スライムなら仕方ないよね?

 最弱だもんね?

 でも火の属性を持ってるっぽいから、ちょっと強いのかもかも。

 燃えろ、あたしの身体(コスモ)

 なんてね……。




[火炎系第拾級魔法【ミニファイア】を発動。

 攻撃対象:自分]




 わ~っ!?

 今のなし今のなし!

 って、身体が縮んでる!?

 スライムだから蒸発してる!?

 緊急待避!!


 ……ふぅ、危なかったー。

 危うく自滅するところでした。

 火炎種なのに火に弱いのね、このスライム(あたし)

 むしろ弱点っぽいです。

 恐ろしい勢いで『身体が減ってる~』って感じが伝わってきました。

 メタルならきかないのにな~。


「……リディ、この辺りか?」


「ええ。さっき見えた光はたぶんこの辺ね」


「ビックス、恐らくモンスターだと思われます。慎重に行動致しましょう」


「分かったルルー。リディも剣を抜いておけ。俺が探る」


「了解」


「気をつけて下さい」


 でも、魔法が使えるんだ!

 これは大きな発見です。


 正直、触れているモノがある/なしだけだと何も出来ません。

 触れているモノ以外はほとんど何も分からないので、自分に危険が差し迫っている事もまったく分からないんです。

 スライムだから触れたモノにひたすら絡みつき、そのまま溶かしていくというのは何となく分かります。

 せめてうにょうにょっと身体を変化させて触手攻撃とか出来れば良かったんですけど、相手が見えなければ宝の持ち腐れです。

 触手は人類の夢なのに……。


 でも、魔法が使えるだけ良かったのかな?

 目がなくて何も見えなくても、耳がなくて何も聞こえなくても、ひたすらに魔法を撃ち続けていれば、もしかしたらラッキーパンチならぬラッキーマジックを引くかもしれません。

 大火事になって巻き込まれてしまう可能性大ですけど……いやいや、今はポジティブ思考でいきましょう!

 この世界がゲームならきっと経験値やレベル、そして成長というシステムも当然あるはず。

 どうやったらこの世界(ゲーム)から脱出出来るのか分かりませんが、きっと死んでもまた復活するだけですよね?


 とりあえず今は他にやる事ないので、まずはこの魔法を何発まで撃てるのか試してみようと思います。

 とりあえず前方に向けて、うりゃ~。


「ビックス、回避だ!」


「なにっ!? くっ!」


 もう一発です。

 呪文の詠唱っぽく、なんちゃらかんちゃら~……ミニファイア!


「二度も同じ手をくらうか!」


「敵は……スライム、だと?」


「なに? 今の魔法はスライムが撃ってきたのか? ちぃ、亜種か」


「ビックス、下がれ。ルルー、回復を」


「はい」


「すまない」


 更にもう一発いきます。

 燃~えろよ燃えろ~よ~、炎よ燃~え~ろ~。

 あ、来週の音楽の時間は歌のテストでしたね。

 週明けに友達とカラオケ行って練習しようかな。


「……うん? 正面に向けて魔法を撃ってるだけか?」


「なんだ、経験を積んだ上位のスライムかと思ったら、このスライムが気紛れに使った魔法の斜線軸上にたまたま俺がいたってだけか?」


「相変わらずビックスは運が悪いですね。はい、回復終了です」


「すまない、ルルー」


「いえ。これが私の仕事ですから」


 あ、魔力が切れたっぽい。

 う~ん、これっぽっちしか魔法撃てないのか~。

 なら次に撃てるようになるのは何秒後かな?

 とりあえず5分くらいまで数えてみよっと。

 いーち、にぃ、さーん、しぃ……。


「ったく、人騒がせな。だが、急に遠くで光が見えた理由がこれで分かったな」


「どうする? 退治しておくか?」


「当たり前だろうが。リディ、そいつ斬っとけ」


「あいよ」


 にじゅうさん、にじゅうし、にじ……っ!?




[《はぐれスライム・火炎種》〝名称未定〟の死亡を確認しました。

 一定時間後に魂を回収し、記憶(データ)を初期化した後に『輪廻の環』に送ります。


 ―――。

 ―――。

 ―――。


 魂を回収します。


 記憶を初期化します。

 ――問題発生。

 魂の種類がこの世界のモノとは異なるため記憶の初期化が行えません。


 例外発生により、このままの状態で『輪廻の環』に送ります。

 ――問題発生。

 魂の種類がこの世界のモノとは異なるため『輪廻の環』より拒絶されました。


 例外発生により、このままの状態で転生処理を行います。


 転生先の個体種を同種族よりランダム選定します。

 ――《スライム》が選ばれました。


 種族が《魔物・無形系》のため、該当の個体種をランダムで検索し分裂を促します。


 該当の個体種をランダム検索します。

 ――該当の個体種を発見しました。


 該当者に魂の予約を行います。

 ――魂の予約を完了しました。


 該当者に分裂を促します。

 ――該当者に分裂を促す事に失敗しました。


 該当者は分裂するための条件を満たしていなかったため、条件を満たすよう特殊措置が取られました。


 再度、該当者に分裂を促します。

 ――該当者に分裂を促す事に成功しました。


 分裂には暫く時間がかかるため、対象の魂を眠りに就かせ、該当者の魂に付属させます。

 ――魂の付属に成功しました。


 元《はぐれスライム・火炎種》〝名称未定〟は、《スライム・転生種(サムスサーラ)》へ転生します。


 ――問題発生。

 該当者が分裂準備のため特殊異界に入ってしまい『存在進化』しました。

 該当者が『存在進化』したため、《スライム・転生種》〝名称未定〟も『存在進化』します。


 元《はぐれスライム・火炎種》〝名称未定〟は、《宝瓶之粘液生物(アクエリアンスライム)転生種(サムスサーラ)》へ転生します]






乙女S「プルプルプル(取得経験値を教えて下さい)」

冒険者B「……ん?」

乙女S「プルル(1024でしたか?) プルプルッ(それとも10000越えです?)」

冒険者B「は?」

冒険者R「え? なに?」

乙女S「プルン(……は!) プルップルッ(まさか1なんてことは!?)」

冒険者R「え、ちょっ……何で死んでないのっ!?」

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