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批評家になろう  作者: 八雲 辰毘古
観察篇
6/13

文章を味わう3

「文は人なり(The style is the man)」という(ことわざ)があります。これは、文章を味わううちに作者の為人(ひととなり)がわかるということですが、英語は、多少違います。文芸批評のなかではもちろん「文体」が観察対象ではありますが、この言葉はしばしば誤解されがちだと思います。「文体」とは「style」の訳語でして、ただ文章だけに収まるものではないのです。文だけではなく、作風や様式、流儀、生き方までを含めてこそstyleというのです。「文は人なり」どころではないのであります。むしろ言い回し、仕種、癖、風格、気配、生活、……こうしたものをまとめてその為人を知るに到るわけです。「文は人なり」とは、その言葉だけでは計り知れない深さがあるのです。

 かつて文章が手書きによって行なわれた時代、文体を観るとは文字通り、文字そのものの姿を観ることでありました。書道のようなものです。『論語』や『伝習録』などを手習いし、書き写していたような江戸時代や、『史記』を(そら)んじるまで読んだ紫式部の時代など、かつて文字や本が貴重だったころは、文字そのものをよくよく吟味するようなことをしていました。ヨーロッパの方でも、活版印刷以前は写本と云うものがあり、それはもはや職人の技の一つでした。しかし(悪く言う積りは毛頭ございませんが)、活版印刷やラジオ、テレビ、インターネットとメディアが拡大するにしたがって、吾々は文字に対する価値観を弱めてしまったように思われます。活版印刷、タイプライターやキーボードのために文字の形は殆んど一定化し(ただしその気になればパソコンでもアレンジはできる)、文字そのものから個性が漂うようなことはあまりなくなったのかもしれません。せいぜい、吾々は或る人の文章を読んで、その言い回しや語彙(ごい)の選び方からその為人を推し量ることしかできません。そうでなくても、文字があまりにも多過ぎます。人が文字をなにげなく粗末にしても仕方ありません。ですが、やはり私は作者たるものはある程度言葉に敏感であるべきだと思うのです。「そんなのライトノベルには要らない」なんてことはないと思います。やはり吾々が小説を読むとき、文章からしか物語を想像することができないのです。とびきり美しい必要はありません。しかし乱雑な言葉で描かれた小説は、読者にとってあまりにも失礼ではありませんか。私はやや古めかしい文体や、格調高いものをどちらかと言うと好みますものの、破天荒な文体や洒脱な言い回しも好きです。たぶん私には真似できないと思うから好きなのでしょうが、読み手に好い感じを持たせるためには、ただ砕けてさえいればいいわけではないのです。人はお(かゆ)ばかり食べるとは限らないのです。どんな形であれ、書かれた言葉にそれなりの信念がなければ、やはり読み手は信じないでしょう。そういう意味で、書き手は言葉をもっともっと大切に扱うべきなのです。

 さて、まあ文章を味わうことについては以上で一先ず了えることとします(まあ後ほどまた書く気がしますが)。これは多読というより重読、熟読、遅読の為せるわざです。小説は走って読むものではありません。歩いて読むものです。現代では移動手段がすばらしく発達したため、目的地にさえ着ければなんでも構わないと云う風潮がなにげなくありますが、そんなことはないと思います。しかし一方で「プロセスが大事」とか云う一般論にも落ち着いてはいけないと思います。私が申し上げたいのはそうした「答え」をばかり求める人たちへの疑問提起です。結論から云えばどこもかしこも粗末に扱ってはいけないのですが、これもしょせん結論なのです。結論、答え、なんでも、とにかく要点をまとめようとするのは、せっかちこの上ないと思います。本を読む楽しみとは、そんなものではないと思うのですが、違うでしょうか? 私がこの「文章を味わう」に多く言葉を費やしたのはこのためであります。くどくなったのなら申し訳ございません。

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