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批評家になろう  作者: 八雲 辰毘古
観察篇
3/13

コンテクストで物を観る

 文脈(コンテクスト)と云う言葉があります。要は全体と部分の関係で文章を観ることですが、わかりやすく言うと「文章全体の流れ」のことを「文脈」と言います。

 ここで大切なのは「流れ」ということですね。音楽にリズムと云うものがあるように、文章には文脈と云うものが息づいております。これを理論的に説明することはむつかしいのですが、


「今日暑いですね」

「美味しかったです」


 という受け応えがあまりにも不自然であることは誰の目にも明らかでしょう。ここまで大げさでなくても、文章の流れや言葉と言葉のつながりが断ち切られたとき、人はそこに違和感や不調和を感じます。作者になんらかの意図があって、これを狙って書いたのなら話は別ですが、たいていの読者はこのリズムを狂わされると読みにくいと感じることでしょう。それを調えるのも、ある意味では作者の果たすべきところであります。

 文章を調える方法論はあとで述べるのでさておき、読者として作品を観るとき、ある単語がどうしても浮いて「見え」たり、文章からいまいちイメージが浮かばないことがあるかと思われます。そういうとき、文章全体に流れているリズムが(読者自身の感性のリズムと)上手く合っていないと考えることができます。具体的に言うと、どこにでも居そうな現代的な男子高校生の一人称で、突然「鞠躬如(きっきゅうじょ)として」だとか「光彩(こうさい)陸離(りくり)たる」などと云う言葉が表れたら、読者は怪しむ筈です。もちろん、むつかしい本を読む習慣があったり、やたらと物事をこむつかしく考える癖があったりなどの性格が背景としてあるなら別ですが、おそらく平均的な読者の常識には合わぬと感ぜられるでしょう。やはりこれも大げさな例ですが、「日本語として間違ってはいないのにも(かかわ)らず、全体として著しく不調和を感じる」ということを、是非ともみなさんに知ってほしいのです。これは文脈と用語のすれ違いによって起こる一つの例なのです。

 他にも、(これは私の体験談なのですが)中世ヨーロッパ風の世界観を演出しようとして、服装描写に「シャツ」と書く、などという例も見ました。これも人によってはなんら違和感なく受け止められるところですが、私にはどうも浮いて「見え」たのです。それを(たと)えて云うなら、吾々を圧倒するべき舞台演出のなかにピアノ線が見えて、白ける気分に似ています。もちろん目の肥えた人間にはそこにピアノ線があることを、いくらばかりか推測することができますが、それは邪推というものです。それを考えると物語が(たの)しむ心が死んでしまうのでお勧めできません。ところが、作者側の不手際で望まぬ馬脚を見せられてしまうと、読者は(意識的にも無意識的にも)作品に不信感が沸いてしまいます。それは作者の目論むところでなければ、なんとしてでも避けねばなりません。

 文脈と云うと、さらに広い枠組で捉えることも必要です。例えば漫画やアニメでは通じる表現が、そのままだと小説のなかでは通じないということがあります。これは、漫画の場合だと絵そのものや、台詞の書き方、吹出しのサイズ、画面の切り貼りなどが、アニメの場合だと加えて声優自身の演技力、声のトーン、声の大小、動画としてのキャラクターの動作や表情などの細やかな要素が、一気に迫って来るからなのです。これは吾々が日常生活でふだん受け取っているものと同じで、吾々は会話のなかで、言葉だけではなく上記のような要素を(ことごと)く(しかも無意識的に!)見聞きしています。それに会話全体にも流れがあって、昨日のバラエティ番組や地上波映画放送の内容などを前提として、会話が弾んでいるのです。それを総て文章にするところに小説のむつかしさがあります。本当は総てではありません。しかし、読者は、例えば与えられたキャラクターの性格や心理などを、ストーリーの流れのなかで想像していきます。そのうえで会話中の受け応えが活き活きと想像されるのです。これを描く方法はまことに多岐にわたりますが、巧妙な台詞の受け応えは、文面からドラマの一場面を連想させるほどに劇的なものへとなり得ます。そういうものを発見できると、作品がより楽しめることでしょう。優れた作品とは、場面の雰囲気のなかにキャラクター同士の関係や性格を書き表しているのです。

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