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批評家になろう  作者: 八雲 辰毘古
観察篇
2/13

「直観」でものを捉える

「絵や音楽を、解るとか解らないとかいうのが、もう間違っているのです。絵は、眼で見て楽しむものだ。音楽は、耳で聴いて感動するものだ。頭で解るとか解らないとか言うべき筋のものではありますまい。先ず、何を措いても、見ることです。聴くことです。」

   ──小林秀雄『美を求める心』

 導入部(イントロダクション)で方法論、とは書きましたものの、実はそのようにまとまったものではありません。その最たるものとして、私は、批評には「直観」が要ると最初に申し上げておきます。直観とは、つまりうがった見方をせず素直に「見える」ものを観よ、ということです。作中の表現や、物語をじかに触れて、そこから得られたものをこそ、批評では大事にしていかねばなりません。なぜかと云うなら、作品からものを受け取れないうちは、それは批評ではなく感想文になってしまうからです。完全に受け身になるのはまあ良くないにしろ、真摯(しんし)に作品から受け取らなければ、何も始まりません。そういう意味で、「直観」と云うものは大切なのです。

 この直観とはいかにも、ややこしいものであります。要は作品に対してピンと来た感覚をどう信じるかということに尽きるのですが、ここに雑念が混じるとたちまちにして台無しになります。このことを知らないで、よく人は「作品を語るに足る知識や教養や、()してや観察眼がない」と理由をつけて辞退するのですが、むしろ逆で、知識や観察眼なぞを取り払って、つまり頭を空っぽにしてものごとを観ることから、本当の批評感覚というものが得られると思うのです。

 知識や分析などというものは、後からで良いのです。大切なのは、そうしたもので目を曇らせないことです。注意深く観察することこそが大事だ、としばしば云われがちですが、私はそうとは思えません。「作品を批評しよう」と思って読むと、自然とものごとを(はす)から眺めてしまい、普段平生から面白く受け取っていたものがまったくわからなくなってしまうからです。それは虫眼鏡をかざしながら道を歩き回るようなもので、もちろん細部は見えましょうが、細部しか見えなくなります。よく、失くし物を探しているあいだは見つからないけれど、何気ない、ふとした拍子に見つけるということがありますよね。批評に(おい)て大事なのは、このふとした拍子に見つかるものの方です。見よう、見ようと思って作品の良いところを探していると、評者の見たいものしか見えなくなります。批評に於て、一番危険なのは、そこです。なぜなら、それは作品を評者がわざと歪めて捉えてしまうことに繋がるからです。導入部で「読解」と「解釈」の話を書きましたが、この二者はどちらも先ず、作品をありのままに捉えることに始まるのです。

 ありのままにものを捉えられるようになりますと、全体と細部とが渾然一体となってやってきます。これら精いっぱい受け身になるというより、心を広くして鷹揚(おうよう)に構えるといったところでしょうか。とにかくそうなると、花を見るにつれ、鳥の鳴き声を聞くにつれ和歌を()んだという平安歌人たちの気持ちが分かるようになると思います。落ち着いた心には何事も面白く「見える」のです。こうした感覚になると、例え不適切な文章や、下品な言葉に出会っても「意外には思うけど、別に悪いとは思わない。むしろここに作者独特の趣きを感じる」と云う調子になります。ここまで行くともはや仙人のようですね。こういったことをやれ「日本語がおかしい」だの、「小説として不適切だ」と憤っているうちは、評者は作品の本当のところをわかっていないということになります。

 しかし、次の場合は例外に当たります。それは、先ず作者が表したい内容と、読者の受けた印象が全く異なる場合、そして、作者の表現に意図せぬ不調和があった場合です。こうした場合は、作品の善し悪しに(かかわ)らず、「指摘する」という形を取って、是非とも作者に知らせねばなりません。次回はそのことについて細かく書いていきます。

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