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ユウェル

「うえーん! ルーナがしんじゃうかとおもったよぉ!」


 必死に俺の胸に顔を押し付けて嗚咽をもらすジニー。


 泣き叫びながも彼女は俺の身体をしっかりと捕えて離そうとしない。


 まあ、俺も死ぬかと思ったよ。


 ジニーは俺が守る! キリッ!


 とか決意した手前で結局ジニーに救われるとはなんとも情けない。


 もっと強くならなければ……。 


 とにかくいまはジニーをあやすのが先か。


「また泣いちゃって。ほらほら、私はちゃんと生きてるから」


 人間って一日に二度も泣けるほど涙にストックがあるんだなー、などと若干ずれたことを思いながら、なるべく優しい手つきでジニーの髪を撫でる。


 くせの少ないジニーの髪質のおかげで手触りが最高に滑らかでたいへん気持ちがよろしい。


 首元までのショートカットはジニーの子どもっぽさを強調しているように思われた。


 嗚咽おえつがやみ終えたのを見計らってジニーは自分から俺の身体を解放した。


 目元が真っ赤にかわってしまっている。


 さて。


 ジニーの顔をよく見てみると、通常ならなにもあってはいけない場所になにかがあった。


「あれ、ジニーちゃん。これって宝石?」


 初めて気づいたことなのだが、ジニーの額には大きな桜色の宝石らしきものが埋め込まれていたのだった。


 ライトグリーンの前髪の隙間すきまからのぞくそれは、しっかりと己の存在と誇りを顕示けんじしているように感じられた。


「あっ……フードとれちゃってた」


 イタズラを見つかった子どものようにジニーはうろたえはじめる。


「どぉしよう」


 この世界には様々な人種が存在する。


 そして俺は知識として宝石を持つ種族のことも知っていた。


「ジニーちゃんは、ユウェルの一族ってことだよね?」


「……うん」


 顔色を失ったジニーは一歩、また一歩と俺から距離を取りはじめる。


 彼女の足はがくがくと震え、杖を持つ手もおぼつかない。


「……ルーナ。わたしのこと、ころすの?」


 その言葉を聞いて、やっと俺はジニーがなぜ動揺しているのかを悟った。


 ゲームの設定で聞いたことがある。


 ユウェルという種族は、身体のどこかにひとつ宝石を身につけて生まれてくる。


 それもただの宝石ではなく、絶大なアニマを秘めた魔法の宝玉である。


 ついさっきゴーレムに壊されてしまった俺が使用していた杖についていた宝玉とは比べ物にならないほどの超強力なアニマの結晶体である。


 ユウェルは宝石がある限りは永遠の命を約束されているかわりに、自分の宝石を奪われると絶命してしまう。


 それにもかかわらず、装飾品としての完璧な美しさと魔法道具としての汎用性の高さからユウェルの宝石を求める人間はあとを絶たない。


 さらに悪いことに、第一次魔法大戦以降は各国が軍備拡張のためユウェルの宝石狩りを積極的に推奨するようになった。 


 ユウェルと普通の魔法使いでの魔法戦闘能力は差がつくことが多いが、あくまでそれは一対一での話である。


 多勢に無勢。


 ユウェルは徐々《じょじょ》にその人口を減らしていった。


 やがてユウェルの隠れ里は崩壊し、ユウェルの血を継ぐ者たちは世界に散らばって行くことになる。


 今では己の命を守るためにユウェルは自分がユウェルであることを隠して生きていかざるをえなくなっていた。


 一族の尊厳を失い、一種族としての誇りを失い、死の恐怖に常におびえながら孤独に世界を放浪する。


 それがユウェル。


 哀しき運命を背負ったものがここにいた。


「私はジニーちゃんをを殺したりしないわ、絶対に」


 本心からの言葉を届ける。


「ほんとうに? ぜったいのぜったい?」


「もちろんよ」


 俺の言葉を聞いたジニーの目の色から、だんだん警戒が解けていく。


「そっか。ルーナがそんなことするわけないもんね!」


 元気を取り戻したらしいジニーは可愛らしく笑顔を浮かべる。


「あっ、でもロイ兄ちゃんに怒られちゃう」


 おっと。


 フードが取れたいまジニーの顔をよく見てみると、彼女が類まれなる可憐さと愛らしさをもっていることに気がついた。


 特にジニーの大きな瞳は明るい緑色がかかって美しさに拍車をかけていた。


 軽い緑の髪色とあいまってさらなる魅力が相乗されている。


 まるで森の精霊が具現化したかのようだ。


 いや森の精霊なんて見たことないけど。


 たぶん、いたらそんな感じにちがいなかった。


 そうなるとあれだな。


 もう『ジニー=森の精霊』でいいんじゃないかな?


「どうしたの、ルーナ?」


 小鳥のようにジニーが首をかしげる。


 ずっと見つめていたのを怪訝けげんに思ったらしい。


「ううん、なんでもないわ。ジニーの眼と髪がきれいだなって思ってただけよ」


「そお?」


 ジニーが自分の髪の毛先をいじくる。


「でも、ルーナの金髪もきれいでかわいいよ!」


 そういえばいまは金髪だったな。


「ありがとう。ジニーは将来もっともっとかわいくなれるだろうね」


「えー、ほんと!?」


 この少女が大人に成長した姿は想像しがたいが、さぞべっぴんになるだろう。


 それはそれで嬉しいような哀しいような。


「えへへ。ルーナ、だーいすき!」


 不意にジニーに抱きつかれる。


 厚めのコート越しだが、ジニーの体温はしっかり伝わってくる。


 ふんわりとした穏やかな髪の香りが安心感を誘う。


 ヴォ―ジニア。


 この少女の存在を確かめながら、こんどこそジニーを守りきろうと。


 人知れず再び俺は決心した。


 べ、べつに! ジニーが可愛いからそう決心したとかじゃないんだからね!



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