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ゴーレム

 やらなければ、やられるだけだ。


 心臓の鼓動こどうが常時より激しい。


 まるでコンガが鳴り響くような振動までも感じられる。


「うおおおお!」


 全力で距離を詰め、ゴーレムの左側にすばやく回り込む。


 ゴーレムは体の回旋かいせんが間に合っていない。


 大型モンスターとの戦闘において、セオリーはいくつもあるが、俺は当然それらを把握できている。


 基本は敵の機動力を奪い、そのうえで有利な状況下に持ちこんでから弱点らしき場所を狙い撃つ。


 ゴーレムの大剣はその右手に収まっている。


 だとしたらまず狙うのは、左足!


「マジックアロー!」


 杖から弾き出した蒼い閃光が一直線に空中を翔ける。


 狙いたがわず、直撃。


 片足をけずられ、石で造られたゴーレムの体は大きく傾いた。


 期待通りの結果に心の中でガッツポーズをする。


 しかしそのつかの間の歓喜は、ゴーレムが次に取った行動でかき消された。


 倒れそうになったゴーレムは残りの右足で大きく跳躍し、大剣を振り上げながら一挙に俺の方向に跳んできたのだ。


 おいふざけんな、どんな身体能力してんだよデバック班仕事しろ!


 およそゴーレムという分類のモンスターとは考えられない行動であった。


 やはりあの大剣に特殊な効果が付随しているのだろうか。


 さっきちらりと見えたのは、大剣の柄頭に埋め込まれた宝玉があかく光を発しているところだった。


 俺の持っている杖にも同じくアニマを増幅させる効果を持つ宝玉がはめ込まれている。


 アニマを込めれば宝玉によってさまざまな効果が現出するという寸法だ。


 魔法具による身体能力の向上といったところだろうか。


「って、こんなこと考えてても!」


 ゴーレムに背を向けて走るが、一足での移動距離が大きいゴーレムにみるみる追いつかれる。


 まずい、切られる!


 振り上げられた大剣は俺に向かって縦一直線に振り下ろされた。


 俺は真横にダイビングし、なんとかその強撃から逃れる。


 態勢を直そうとすぐさま立ち上がろうとしたが、再び剣が近づいているのがわかった。


 あくまで機械的なその攻撃動作は、恐怖を俺の脳髄のうずいに刻み込むのに充分であった。



 今度こそ切られる……!



 せめてもの抵抗として、反射的に杖を前に構えて待ち受ける。


 振り下ろされた大剣はいとも簡単に杖を切り裂き、その勢いのまま俺を真っ二つに断ち切ろうと迫る。


「くっ……!」


 俺は、死ぬのか。


 死を覚悟して両目をきつく閉じ、きたるべき瞬間に備える。


 と、その刹那。


 少女の凛々しい声がフロア中に響き渡った。


「バーストショット!」


 魔法名が叫ばれるのとほぼ同時に、前方から岩が爆裂する音が聞こえた。


 スローモーションの世界。


 おそるおそる目を開くと、ゴーレムは半壊し大剣が回転しながら宙に浮いているのが見えた。


「ジニー?」


 なんと、ゴブリンとの戦闘では貧弱なマジックアローしか見せなかった少女が、中級レベルの攻撃魔法を行使したらしい。


 鈍い音を立てて大剣が地面に落下する。


「ルーナ! 大丈夫?」


 駆け寄ってきたジニーはフードがとれ、今まで隠されていた髪の毛が露わになっていた。


 春の草原を思い起こさせるようなライトグリーンの髪を振り乱して、ジニーが俺の身体に抱きついた。


 あ、ちょっと。心の準備ができてないんだけど。


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