隠しボス
落下してきた際の衝撃波で身体が吹き飛ばされる。
宙を浮いている間にジニーも同様に飛ばされているのが視界に入った。
とっさに受け身をとってダメージを最小限に抑える。
学校の体育で柔道を選択していてよかったと思える瞬間だった。
「ジニーちゃん、だいじょうぶ!?」
起き上がって見たのは、ジニーがふらふら立ち上がってはすぐにばたりと倒れてしまうところだった。
だがジニーにだけ気をかけている場合ではない。
非常に緩慢な動作ながら、敵が接近してきている。
一歩一歩が重い。
「ゴーレムか。右手に持ってるのは、大剣?」
武器を装備しているゴーレムは見たことないが、当たらなければどうということはない。
幸いこのエリアは非常に広い。
動きの鈍いゴーレムから距離をとってのヒットアンドアウェイ戦法が定石だ。
ただ最大の懸念はジニーをかばいながらの戦闘になるということだ。
……だが、やるしかない。
「マジックアロー!」
多数のゴブリン相手のときのような細かい矢を何本も連射するタイプではなく、一本にアニマを集中させて貫通性を極限にまで高めた、蒼き槍だ。
かなりのアニマを込めたため、大きな損害を期待できそうな出来だったが、
「なっ!?」
ゴーレムにしては敏速に腕を振り、マジックアローは大剣で受け止められる。
それだけではない。
大剣にぶつかったマジックアローがいとも簡単に打ち消されたのだ。
「おいおいおいおい。どういう理屈だよ」
この世界では剣などの武器より、魔法が使えるのであれば魔法を用いるほうがはるかによいといわれている。
それは、魔法使いが人間の肉体の限界をこえるアニマを練るのが容易にできるからだ。
たとえば剣の達人が一振りで散らすことができる魔法攻撃は、見習い魔法使いのマジックアローが関の山といわれている。
それほどまでに魔法と武器の差は大きい。
ただ、それは普通の剣を使用した場合の話である。
そして、ゴーレムはアニマを持ち合わせてはいるが基本的に魔法を使用しない。
つまりカラクリはあの大剣にある。
思考している間に、ゴーレムは着実にこちら側に近づいてきていた。
「ジニー、ちょっとがまんしてね」
なんとかジニーをおんぶして、距離を保ちながらゴーレムの横を通り過ぎる。
ゴーレムはこちらの動きに対応して、体の向きを変える。
陶器を扱うようにジニーを部屋の隅に優しく横たえて、俺はゴーレムへ向かって走り出した。
遠距離攻撃が防がれてしまうのであれば、近づいてあの大剣が魔法を打ち消せない角度から確実に打ち込むしかない。
ヘイトを稼ぐ……つまりゴーレムの注意をこっちにずっと引いておければ、ジニーが狙われることはないはずだ。
首筋から汗が垂れる。
勝つ、必ず。
ジニーは俺にこう言ってくれたではないか。
――へっへーん。ルーナがやっつけてくれるからだいじょうぶだもんねー!――
ああ、その通りだ。
彼女のあの純粋な期待に答えられないで、なにが魔法使いだ。なにが冒険者だ。
見てろよヴォージニア。
冒険者ルーナの戦いっぷりってやつを!
……すいません、かっこつけすぎましたごめんなさい。
だが! ボス戦ではこれくらい気合いを入れるのが俺流なのだ!
これがゲームだろうと、現実であろうと。