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ヴォ―ジニア

 転移した先は荒野こうや


 辺り一面に岩石がごろごろころがっていて、植物はあまり見当たらない。


 陽の光はじりじりと肌を焦がすようだ。


 日焼けとか勘弁してほしい。


「もう大丈夫だね」


 手を握ったまま震えている少女に出来る限り優しく声をかける。


 とりあえず女言葉で話しかければ警戒心も薄れるだろう。


 どうやら泣いているらしい少女だがどうしたものか。


 しょうがないな、俺はいまは女だし多分受け入れてくれるはず……。


 無理やりに自分を納得させて、俺は少女のフード越しの頭を撫でた。


「よしよし、こわかったね。がんばったね」


 母が我が子をあやすのにはこんな感じでよいのだろうか。


 しばらくすると少女のすすり泣く声はだんだんおさまってきた。


「うう、おねえちゃんだれぇ?」


 まともに会話できる状態に回復できたようだ。


 っていうかだれって、何と答えるのが正解なのだろうか。


「えっと、ゆ――」


 っと、うっかりもとの世界の自分の名前を言ってしまうところだった。


 今の俺の名前はアバターネーム……、ルーナだったな。


「冒険者のルーナだよ。あなたの名前は?」


 少女はようやっと俺から離れて顔を見せる。


「ヴォージニア……」


 それだけ言うと少女は黙り込んでしまった。


「そっか、ヴォージニアっていうんだ。可愛い名前だね」


 言っているセリフが犯罪者のそれだった。


 いやいや、だいじょうぶ。


 外見的にはセーフだ、たぶん。


 言いつつ俺は無意識的に膝を折って少女と目線を同じ高さに調節する。


 少女はなぜかフードを、目がぎりぎり見えるくらいの深さまでかぶった。


「ロイ兄ちゃんはわたしのことジニーって呼ぶよ」


「じゃあ私もそう呼ぶね。ロイ兄ちゃんってジニーちゃんのお兄さんなのかな?」


「うん! いつもわたしのことまもってくれるの!」


 ジニーの声のトーンが先ほどまでと比べて三段階くらい上昇した。


 よほど兄が好きらしい。


 こんな可愛い妹にしたってもらえて幸せな兄ですね、ロイさんとやら。


「それで、いまロイ兄ちゃんはどこでどうしてるのかな?」


「えっと、ついさっきまで一緒にいたんだけど……」


 声のトーンがもとに戻ってしまった。


「はぐれちゃったみたい。きんきゅーじたいだから、ってわたしだけ逃がしてくれたの」


 さっと、太陽が雲に隠れる。


「ってことは、ジニ―ちゃんはランダム転移石を使ってさっきの森に移動したってことでいいのかな?」


 荒野の砂を一陣いちじんの風が運んでいる。


「うん。モンスターいっぱいでびっくり」


 おっと、これはまずいかもしれない。


 ランダム転移石の効果は持っている人とそれに触れている人を、どこかに無作為むさくいに転移させるというものだ。


 転移する範囲は決まっているがかなり広い。


 ジニーとロイが一緒にいれば当然転移して同じ場所に行けたはずだが、ジニ―は自分だけ転移したという。


 最悪の事態は、ロイが転移石をもっていないことだ。


 その場合、彼は1人危機に陥っているということになる。


「うーん、どこにいるのかな」


 しらみつぶしに探すのでは効率も悪かろう。


「あっち」


 ジニーは迷いなく小さく細い指をさす。


「……それは冗談じょうだんだよね?」


 この世には良い冗談と悪い冗談があるのだと俺は知っているが、現在の状況からするとジニーのそれは悪い冗談のほうカテゴライズすべきだと思われた。


 なぜならその方向には空間のひずみ、ダンジョンの入口があったからだ。


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