転換
目の前に迫っていた。
その姿は龍の如く、轟音を唸らせながら雷は目の前に迫っていた。
残り少ないアニマを掻き集めようと神経をとがらせようとした俺に、クラディウスは呼び掛ける。
≪必要ない。……喰らうだけなのだから≫
その直後、雷は避雷針と化していた大剣クラディウスに直撃した。
そして、喰らった。
『絶対吸収!』
それはもちろん食事をするとかいうそういう意味ではなくて、そんなことではなくて。
クラディウスは雷を我がものとした。
雷のアニマを喰らった。
「これは……!?」
身体じゅうにアニマが満ち溢れる。
金色のイメージが脳内を染め上げる。
すぐに理解できた。
クラディウスが言っていたことも、クラディウスがしたことも。
魔法を吸収してしまったのだと。
≪土属性のアニマに変えろ≫
ほとんど指示を受けたのと同じタイミングで俺は雷のアニマを土のアニマに変換し始めていた。
十分な量の土属性の魔力にするのに一呼吸する時間すら必要なかった。
すぐにそれを、それらをクラディウスに流し込む。
淡い光を反射させながら、刀身は透明さを得て変質してゆく。
『属性付加!』
その硬度、ダイヤの如し。
「やあぁぁ!」
廻旋。残像しか残らない180度の廻旋。
取り囲んでいたスケルトン・コボルトロードたちはみな大剣の餌食となり、上半身と下半身に別れを告げていた。
続けて雷神トールの左手に袈裟切りを叩きこみ、手袋ごと切断した。
今の剣ならばなんでも切れる。
そんな気がしていた。
≪そう。なんでも切れる。お前が望むものをなんでもだ≫
またも振り下ろされた大槌ミョルニル。
予見した上で、回避すべくひとっ飛びで雷神トールの顔面の前に移動する。
脳天から始まり、巨人の身体を縦にまっぷたつに切り離す。
切り口から、黄色いアニマが中空に流れ出ていく。
まもなく全身がアニマの粒に変わった雷神トールは、その姿を消していった。
そのアニマは再び結晶し、金貨や銀貨、宝石やアクセサリー類になっていった。
「やった……」
勝った。
ゲームのようにファンファーレは鳴り響くことはなくてちょっとさみしいけれど、勝利した。
思わずガッツポーズのようにしてクラディウスを高く掲げる。
その刃はなにもかもを透かしてしまうように透明で、それでいてどこか力強さを感じさせてくれるような、そんな印象を与えた。
ダイヤモンドのように美しい。
「やったねルーナ!」
助走をつけたうえで抱きついてきたジニーに重心をぶらされる。
危ないって。
「余の出番は一切なしで残念じゃ」
ちっとも残念そうでない口調でペローナもゆっくり近づいてくる。
「あはは……。ペローナ魔法使いたくなかったっぽいし、いいでしょ?」
「む? ……まあの」
とてもどうでもよい話なのだが俺の中ではノーダメージ縛りは絶賛継続中なのであった。
「東雲の宝玉はある?」
「ふむ……。これじゃの」
龍を模した台にすっぽり収まった宝玉だ。
宝玉のなかには霧がかかっていて、時おり雷が光っていた。
「ぺロりんが欲しいのってそれだけ?」
「そうじゃよ。これでこの塔は用済みじゃの」
その他の金銀財宝は目に入っていないらしい。
っていうかこれ袋詰めするのか。しんどいな。
「余はさきに出ておるぞ。外で合成して待っとる」
それだけ言い残してペローナはこのフロアの入口の扉に向かう。
ボスを倒すと入口は出口に変わるのだ。
ダンジョンの外につながっている。
「さてと」
改めてクリア報酬の品々を眺めてみる。
「へえ……」
報酬は現金と、合成素材の二種類にわけられる。
合成素材には級によってレア度が変わり、S級ともなるとダンジョンを何周もしないと手に入らないものもあるのだが……。
面白いことに今回は大当たり?
グロームの塔でクリア報酬となるアイテムがすべてそろっていた。
こんなことはゲームではみたことがない。
もしかしてこの世界ってレア度とかそういう概念はないのかね。
目ぼしいものを魔法の袋に詰めるだけ詰め込んで、ジニーと一緒に出口の扉をくぐる。
空間のゆがみを抜けたさきはもちろん外だ。
しばらく目にしていなかった青空にしばし目を奪われる。
視線を低い所にもどすと、ペローナの後ろ姿が気になった。
「ペローナ?」
呼び掛けに応じて振り返るペローナ。
「思い出した。思い出したぞ!」
珍しくトーンの高い声だ。
見れば彼女の手には虹色の宝玉があった。
あれが賢者の石なのだろう。
もう合成したのか、はやいな。
「それが賢者の石? もう使い終わったの?」
「じつはもう2回だけ使う予定じゃ。それが終わったらやろうぞ」
「いますぐじゃないの?」
「賢者の石は一度使うごとにアニマをそそぎこまねばならんのじゃ。余がやっても何日かはかかりそうじゃの」
充電とかいるのか。
「それで、結局誰が禁書を盗んだのかわかったのね?」
「しかり。王立図書館の同僚の仕業じゃ」
内部の裏切りか。
そういえば事件のあとに人間不信がちょと強くなったとか言ってたもんな。
同僚が犯人だったということは、記憶を消されたのはペローナひとりだけではなさそうだな。
やはり腕の立つ魔法使いなのだろう。
と、一瞬だけ辺りが暗くなった気がした。
「ユウェル……?」
ジニーが呟く。
不思議に思ってまわりを見渡す。
「うわっ!」
度肝を抜かれるとはこのことだろう。
俺が瞳に映したもの、それはドラゴンだった。
翼竜を力強くはためかせ、掻き爪は刃物のように鋭い。
しかしその姿はすぐに消失し、変わりに人がいきなりドラゴンがいたところに現れた。
2メートルの高さの空中に突如として出現したその人は華麗に地面に着地した。
即座に立ちあがり、髪をかき上げる。
自身の黒髪をかき上げる。




