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リフレッシュ

 視界は黒と黄色に包まれていた。


 黒は黒らしく、黄は黄らしく、それぞれがそれぞれの領域を保ちながらそれでいて決して反発しあったりもせず、ただそこに存在するだけ。


 存在するだけの二色は反発こそしないが時に混じりあい時に離れゆく。


 さながら空と雲のように。


 天空のなかに白雲がかかせないものであるように。


 金色の光のなかに影という名の暗闇が生きていた。


「ふあぁ。極楽じゃのう」


 あくび交じりの、ひとりごと、なのだろうか。


 それとも俺への振り、なのだろうか。


 おそらくどちらにしても正解なのだろう。


 湯につかるとき、思わずため息をこぼしてしまうように。


「ほんっと、さいこーの気分」


 その洗練された心地よさはあまりにも俗世から遊離しすぎているようでいて、どうにも現実味がない。


 ここはグロームの塔11.5階とでもいうべき場所だ。


 最後のボスを目前にした冒険者たちが手傷の回復やアニマの補充を外敵からの攻撃を心配することなく行うことができる空間。


 照明も日の光もなく、あるのはただ雷属性を帯びた光を発するアニマの結晶と影。


 床にはルーンのような、ヒエログリフのような、よくわからない文字やら幾何学模様やらが刻まれていた。


 アニマで、描かれていた。


「ふあぁ……」


 三人が三様に横たわってリラックスしていた。


 もらいあくびに抵抗できない。


 これ以上気を抜くと眠りの世界に落ちてしまいそうだ。


 ちなみにジニーはすでにすやすやと気持ちよさそうに寝入っている。


 天使を彷彿させるそのやすらかな横顔からしばし目を離せない。


 そしてしばらくすればジニーが持ち前の寝相の悪さを発揮してあられもない姿勢になったりすることになることを、俺は知っていた。


「んっ」


 ペローナの発した、というかこぼれ落ちた声に気をとられてジニーから意識を背ける。


 ペローナが伸びをして、また大きくため息をつく。

 

 目があった。


「ルーナ、聞いてもよいかの」


 なに、と短く答える。


「お主はなんのために旅をしておるんじゃ?」


 その語気には別段、強く答えを求めているといった様子は感じられなかった。


 世間話みたいなものだろう。


「ジニーの護衛と、そうだなぁ。冒険かな」


 実際、目的は特にない。


 この世界を見て回るだけで楽しいし、充実していると思う。


「ずいぶんとジニーに執心しとるようじゃが、別にお主はユウェルではないのだろうに」


 なぜ、と続けようとしたのだろうが、ペローナは途中で自分をさえぎった。


「いや、余計なことを聞いたの」


「遠慮なんてしなくっていいのに」


「では問おう。なぜジニーのお守なんぞしとるんじゃ?」


 お守と、ペローナは言った。


 何世紀も生きている彼女からすればたしかに適切すぎる表現だ。


 一周回って皮肉にすら聞こえるのは考えすぎだろう。


「んー、成り行きというかなんというか。ジニーの兄でロイって人がいるだけどね、その人に頼まれたの」


 ふむ、と一息いれる。


「これは聞いた話じゃが、ユウェルは人の心を読む能力があるらしい。じゃがどうもジニーを見たところデマのようじゃな」


 そんなことできるのか、便利だな。


「ただし火のないところに煙は立たん。これは推測じゃが、ユウェルは善人と悪人を見分けることくらいはできるのではないかの」


 それが誇張されていって読心能力といううわさになったと。


 どうなのだろうとジニーに視線を流すと、すごい寝相をしていた。


 完全に熟睡モードだ。


 まあ子どもだからな。


 ここまで泣き言言わずについてきたのだから大したものだ。


「もっと細かく言うなれば、自分への害意を察知する能力とかの。滅びゆく種族の境遇を考慮すればなんら不思議はなかろうて」


 本人に聞いてみるのが確実かつ迅速な解決法なのだが、無理に起こすのも気が引ける。


「たしかに説得力はあるかも。わたしからも聞いていい?」


「なんじゃ」


「クリア報酬はひとつもらえればいいって言ってたよね。なにが欲しいの?」


 ペローナは頬杖をついて、またすぐにもとの姿勢にもどりながら返答した。


「『霹靂へきれきの水晶』じゃ。それ以外はいらん」


 霹靂の水晶。


 S級のレアな素材。


 雷属性のアニマのかたまり。


 使い道としては杖や防具の合成材料になるのが一般的。


 水晶というくらいなのだから観賞用にも向いているかもしれない。


 水晶シリーズは属性ごとにひとつあり、ダンジョン攻略報酬のなかでもトップクラスの高級素材だ。


「でも、ほんとにそれひとつだけでいいの?」


「よいのじゃ。これでも余は最近4つのダンジョンを踏破しておるんでな。目的ももう少しで達成できるし、金にこまっとるわけでもない」


 4つのダンジョンを攻略したとなると、その見返りも相当なものだろう。


「ていうかペローナって冒険者なの?」


「食うために、金を稼ぐためにダンジョンに挑んでるのではないのでな。冒険者という呼称は必ずしも妥当とはいえんな。すべては目的のためじゃ」


 こう何回も「目的」を連呼されるともうこれ聞いてほしいんじゃん? という気になってしまうので、聞いてみることにした。


「目的って、なに?」


 くっくっく、と不敵にのどを鳴らしながらペローナは言う。


「3つある。1つめが汚名返上、2つめが記憶を取り戻すこと。3つめは……これは、あー。まあええじゃろ」


 仰向けに姿勢を変えて、ペローナは続ける。


「そのためにもなんとしても、賢者の石を手に入れなければならんのじゃよ」

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