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ゴブリン

 近場の街を目指して森のなかを彷徨さまよう。


 さて、これはどうしたことか。


 つい先ほどから数回の戦闘に渡ってなんなく勝利を収めてきた俺だったが、どうにも納得できない事案が浮上した。


 魔法がマジックアローしか使えないのである。


 初級攻撃系魔法マジックアロー。


 その効果はアニマを一点に集中させ貫通性のある魔法の矢を射出し、敵を射抜くことにある。


 ネトゲ時代では相当やりこんでいたこともあって数多くの魔法を習得してきたはずだったのだが、全くと言っていいほどこの魔法以外は効果を現出げんしゅつさせることができない。


 そのわりには身体にはあり余るほどの魔力が堆積たいせきしているのはなんとなくだが感じることができていた。


「だから、アニマが足りないわけじゃないんだよな」


 アニマとはオンラインゲームで魔力の別称べっしょうとして用いられていた言葉である。


 魔法を発現はつげんさせるには一定のためをつくってから、つまりアニマをめてから魔法名を発すればいいらしいことはすぐに理解できたが、なぜか初歩魔法しか用いることができない。


 もともとのこのキャラクターであればもっと派手で強力な魔法を使うことができるはずなのに、完全に俺は行き詰っていた。


「廃ゲーマーの名がすたるな」


 幸いこの地方のモンスターは弱小であることで有名であり、初心の冒険者御用達ごようたしの狩場でもあった。


 ただ、今の今まで自分以外の生き物はモンスターしか見かけていない。


 ネトゲであればいつもこのあたりは経験値をもとめる駆け出し冒険者たちであふれていたのだが。


 とりあえずここいらの魔物たち相手に戦闘になれることにしたい。


 たまたまではあったが、この大陸に滞在しているときに異世界にこれてよかったと思う。


「なんかコツとかあるのかな――」


「きゃーー!」


 突如とつじょとして悲鳴が響き渡った。


 声の高さから判断するに、女らしきだれかがモンスターに襲われているらしい。


 声のした方向へと視線を向けると、ゴブリンの群れが円を描いて一か所にたかっているのが見えた。


 当然のようにそこへ走りながら、溜めていたアニマを一気に放出する。


「マジックアロー!」


 杖から次々と矢が繰り出される。


 さくっと小気味の良い効果音を立てて、十数本もの魔法の矢がゴブリンに命中する。


 襲撃者しゅうげきしゃである俺を目にするないなや、生き残ったゴブリンの半分が俺のほうへと突撃してきた。


 紫色のボディをした気味の悪い魔法生物ゴブリンはこの世界では最も弱い魔物であるが、数が集まれば戦闘慣れしていない人なら苦戦を強いられることもある。


「さあこい。強い魔法使えなくて、アニマならあり余ってるよ」


 充分に引きつけてから、右手に携えた杖を水平方向に薙ぎ払いつつ、


「マジックアロー!」


 先ほどの同じ魔法名を叫ぶ。


 前方にいたゴブリンぜんぶに蒼い矢が命中し、ゴブリンたちは前のめりに倒れこんだ。


 ゴブリンは再生能力も低く、一度戦闘能力を奪えばしばらくは戦えない。


 倒したゴブリンは放っておいて、俺は残りの元気なゴブリンが集まっているほうへダッシュする。


 走って行ったさきには多数のゴブリンと、頭をフードで覆った1人の子どもがいた。


 叫び声をあげた少女に違いない。


 少女も魔法が使えるらしくなんとか応戦しているが、一度の攻撃で小規模かつ低威力なマジックアローしか放てていない。


 アニマ切れを起こしているのか、それとも単に魔法使いといて未熟なのか。


 俺の接近に気づいたゴブリンが目標を少女から俺に変える。


「どけどけ!」


 片っぱしからゴブリンを射抜き、やっとのことで少女のもとへとたどり着くことができた。


 しかしすぐさま完全にゴブリンに囲まれてしまう。


 どうやら騒ぎを聞きつけた周辺のゴブリンがぞくぞくと集まって生きているらしい。


 ゴブリンのねぐらがすぐ近くにあるのかもしれない。


 俺一人ではとくに危険信号というわけではないが、この少女の身にもしものことがあっては何の意味もない。


 少女は足ががたがたに震えていて、もう戦闘どころではなさそうだ。


 どうするべきか思案していたらか細い声が聞こえてきた。


「転移石、ないの?」


 思い出した。


 緊急脱出用アイテムとしてゲームでは【ランダム転移石】というアイテムがあった。


 ランダム転移石!


 袋に手を突っ込んで叫ぶと、掌に感触を覚える。


 緑色を放つ球形の玉石ぎょくせきだ。


 転移石をみた少女は、


「……使うの? いいの?」


 なにを心配しているのかと思ったが、たぶん転移石の希少性を知っているからだろうと結論付ける。


 ダンジョンの攻略報酬くらいでしかお目にかかれないアイテムなので、買うとしたらかなり高額なのである。


 今は背に腹は代えられないが。


「どうやればいいんだろ。……わかる?」


 無言でこくりとうなずく少女。


 彼女に任せるとしよう。


 手渡すと、石が少女の小さな手の中におさまる。


 少女はもう一方の空いている手で俺の手をかたく握る。


 震えていた。


転移テレポート


 瞬間、あたりの風景は反転し視界は闇に包まれた。


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