会話
クラディウスがちょっと重くなった気がする。
最近太った? 違うよね、知ってる知ってる。
無機物なのにメタボリックシンドロームとかあり得ないし。
勝手に重量が増えちゃうってどういう剣なの?
とはいっても、別に困った事態に陥っているわけでは決してない。
むしろいい傾向と言える。
なにぶんついさっきまでのクラディウスはあまりの軽さで逆に扱いにくいことこの上なかった。
今くらいの重さがあればまともに剣として振るうこともできそうだ。
しかし一体どういうことなのだろうか。
「ペローナはこれってなんなのか分かる?」
ふむ、とあごに手をあててペローナは思案顔になった。
なんとなく大人びた雰囲気を出している。
「魔法具を繰り返し使用することで、お主の身体に馴染んできたのではないか?」
ほほう、そんなことがあるんですか。
「何度も魔法を使えばより強力になったりするのと同じ原理じゃ」
つまり剣のスキルが上がっているという見解らしい。
ゲームでは武器のスキルなどなかったが、便宜上そう解釈してもよいのだろう。
「魔法も魔法具も呪いも、使えば使うほどその効果を増す。よくある話じゃな」
クラディウスは呪いじゃないと思うんですが。
「呪いみたいなもんじゃ。魔法が使えんというデメリットはお主じゃなければ致命傷に違いなかろう」
まじかー、呪われちゃってるのかー俺。
でもアニマ操作はできるんだよな。
なんで魔法が発動できないかはよくわかってないけど。
「ジニーはなにか知ってることない?」
話を振られたジニーは、さっきのペローナの真似であごに手をあてる。
なんとなく背伸びして大人になろうとしてる感がして可愛い。
「中の人がルーナに心をゆるしてきたとか?」
あー、中の人ね。CVじゃないよね。
ジニーが言っているのは魔宝石の持ち主だったユウェルすなわちクラディウスのことだろう。
確かに、最初にクラディウスが俺に言った言葉は力を貸す的なニュアンスだった。
そして、力を生かすも殺すも俺次第だと。
ちなみにノーダメージ縛りを己に課したこともあって俺の志もちょっとは高くなっている気がする。
もしかしたらそれも関係あるのかもしれない。
やっぱ緊張感がないと人間だめになるからね。
「っていうか、ユウェルが魔法具にされることってそんなに頻繁にあることなの?」
ゲームではそもそも言うほどユウェルの存在が前面に押し出されていたわけでもないので、宝石も目にしたことはあまりなかった。
絶大な魔力を秘めていることを裏付ける設定程度のことと受け止めていた。
「どうじゃろうの。余は数人ほど目にしたことはあるがの。ちなみにそのどれもが杖の魔宝石じゃった」
青い髪を弄びながらペローナが思い出している。
「わたしはぜんぜんみたことないな。生きてるユウェルも、死んだユウェルも、ぜんぜん」
死んだユウェルと、ジニーはそう言った。
命の源たる魔宝石を奪われ、魔法具に利用されている彼らのことを、死んだユウェルと。
彼らは一体なにを思って魔力を与えているのだろうか。
クラディウスのように、自ら進んでという者ばかりではなかろう。
強制的にアニマを引き出されている者も、きっといるはずだ。
そのとき彼らは一体なにを思うのだろう。
クラディウスはなにを考えているのだろう。
なにひとつ、わからない。
「ロイさんも?」
「ん? どうだろ。もしかしたらわたしがもの心つく前に出会ったりしてるのかも」
ああ、もの心つく前ね。
幼いころのことってあんまり覚えてないよね。
でも親とかはこどもの失敗とかよく覚えてるから、親戚が集まるたびに決まってその話を出す。
あれ、まじでやめてくれないかな。
記憶になさすぎてもはや親の創作ではないかと疑うレベル。
妹が七五三のドレス着てるの見て「俺もあれ着たい!」って泣き喚いたという話があるんだが、一向に覚えてない。
「ジニーってそういえば何歳なの?」
「えっと、11だったかな。ルーナは?」
え、俺ですか。
一応高校2年生だったので17歳だったが、この身体だとどうなのだろう。
まあ、そこそこ同じくらいな気はするので問題ないか。
「17歳。ペローナは?」
魔王を自称するくらいなので実は世紀単位で生きてるかもしれない。
「くっくっく。小娘どもが」
いや答えろよ質問に。
「年なんぞいちいち数えとらんからの。忘れてしまったわい」
「ぺロりん、わたしと同い年くらいじゃないの?」
「そんなわけなかろう」
見た目はこども、頭脳は大人である。
もし同年代だったら早熟にもほどがあるぞ。
「余は魔法大戦の前に生まれとるからの。干支はペガサスなんじゃが」
干支!? この世界にも干支が存在するのか。
さすが日本原産ネットゲーム、設定が細かい。
そういえばあった攻略サイトの小ネタでみたことあったかもしれない。
馬じゃなくてペガサスってところが変にこだわってて面白い。
「まあまあ、この話は終わりじゃ。女性に年を聞くもんではないぞ」
話題の終了を宣言したペローナが先頭を切って歩きだす。
大切な回復職に前を任せるわけにはいかないので、俺はジニーの手を握って歩く速度を速めた。




