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ノーダメージ

 まるでギャグのような中ボス戦を経て現在地点はグロームの塔第二階層である。


 一階と比較して敵モンスターの数も強さもあまり変化がないようだ。


 まだまだ前半戦の前半なので当たり前といえば当たり前かもしれないが、戦闘がワンパターンになってしまうのが心配だ。


 というのも、ゲームでは基本は敵の攻略法はひとつのパターンを編み出して使い回せばいいのであり、今もその流用が効果を発揮している。


 だがそれはつまり慣れることによる集中力の低下を誘因するものでありうるのである。


 何が言いたいかというと、油断しすぎて痛い目を見ることもあるということだ。


 たとえば今の俺のように。


「いってて……」


 例の如く雷属性を備えているモンスターからもろに魔法攻撃を受けた。


 至近距離での接戦に持ち込んでいたこともあって半ば流れ作業のように敵を切り伏せようとしていた矢先の瞬間だった。


 調子に乗りすぎて普段よりもクラディウスを大ぶりに構えすぎたせいだったに違いない。


 やばいっ。直感した時には遅かった。


 右から水平に薙ぎ払おうとしていた俺に向かって、敵は避けようともせず真正面に魔法を放った。


 本能的にダメージを受ける範囲を最小限に抑えるために右に体重を傾けた。


 左腕から感覚が一瞬抜け落ちた。


 剣で敵を真っ二つに切り裂いた。


 敵の排除をかろうじて完了して地面に倒れ伏す。


 左腕が焼けるように痺れる。


 血は沸騰しているかのように熱く熱く流れ出す。


 と、灼熱の地獄のような苦しみのなかで不意に訪れるさわやかな感覚。


 薄らぐ痛みに治癒の水。


 中級回復魔法ヒールウォーターだ。


 ペローナの治癒魔法のおかげであっという間に傷はふさがってすでに傷跡すら見当たらない。


 初等回復魔法キュアウォーターと違い、ヒールウォーターは遠隔で効力を発揮するところが強みといえる。


 さらに、キュアウォーターが直接怪我人に水を飲ませなければならないのに対して、こちらは傷口に触れるだけで回復作用をもたらしてくれる。


「ペローナありがと!」


 目に入る範囲の魔物を一掃した後に、振り返って礼を述べる。


「油断は禁物じゃの」


 ぐっ、調子づいて戦闘してたから余計なダメージを負ったのだと見抜かれている……気がする。


 それにしてもペローナの回復魔法はすばらしい。


 患部は傷跡を残さないどころかもう手を握ったりぶんぶん振り回したりしてもまったく痛みを感じないように修復されている。


「ルーナよ。お主、余計な動きが多すぎるのではないか?」


「えっ?」


 やっぱりばれてたよ。


「余は武人の闘い方など心得てはおらんからなんともいえんのじゃがの。素人目に見ても、動きが大きい」


 まあ俺もそんな心得はないんですけどね……。


 とはいってもそんな甘えが許される状況ではない。


 なんといってもダンジョン内である。


「確かその剣はお主にとって重量はなきに等しいんじゃったかの?」


「えっ、まあ」


 実際、クラディウスの重さはほとんどない。


 しかもその重さのすべては柄の部分にしかなく、刃は重さを持っていない。


 これは刃がアニマの集合体によって構成することに由来する。


 が、どういうわけか俺以外には刃は相当の重量を感じさせるという不思議アイテムなのである。


 まさに僕が考えた最強の剣!


 ちなみにどれくらい軽いかって具体的にいうと、リンゴ3個分くらい軽い。


 嘘、もうちょっと重いかも。リンゴ5個分くらい。


 何が言いたいかっていると、軽すぎるがゆえに無駄な力がかかり余計な軌道を描いてしまうのである。


「そうか、ふむ……。さっぱり解決方法が浮かばん。自分でなんとかせい」


 丸投げかよ!


 そっちから切り出した話題なんだから適当なアドバイスの一つや二つくらい準備してると期待しちゃったよ。


 いやま、俺の問題なんだからペローナの言ってることは正論ではあるのだが。


「雑魚相手くらいにはノーダメージで何とか乗り切るくらいの気概を見せてもらわんことには先が思いやられるの」


「そのこころは?」


「微妙な手傷の回復するのめんどいんじゃよ」


 うわ、それ言う?


 回復するの面倒だとか言いだしちゃったよこの回復役。


「アニマめちゃくちゃ余ってるんでしょ? けちけちしないでよ」


「そういう問題ではないわ。ちまちま回復するのが余の性に合わんのじゃ」


 あれ? これ自分が楽したいだけじゃね?


「わかった。次はもっと大きな怪我してくるから」


「そうそう、心臓貫かれるくらいの致命傷じゃないとやる気が……って違うじゃろ!」


 なんかソロで旅してた雰囲気出してたくせにノリツッコミみたいな高度なコミュニケーション能力を会得しているペローナまじまないっす。


「冗談よ。でもわたしがピンチの時は身をていして守ってくれるって信じてるから」


「なんでわざわざ余がそんな真似しなきゃならんのじゃ。……怪我して痛みを感じる間もないくらい速攻で回復してやるから安心せい」


 いまのデレにカウントしていいと思う人手挙げて。


「それは心強い。これで心おきなく怪我を負える」


「お主なにも反省しとらんのではないか……」


 お主がアンデッドなら心を込めて回復魔法を叩きこんでやろんじゃがのぉ、と不穏なセリフが聞こえてきたところで新たなモンスターの出現を肉眼で確認。


「さってと、ペローナのためにノーダメ縛りでもしますか」


 クラディウスの刃を発現させ、俺は魔物の群れに飛び込んでいった。


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