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スケルトン・コボルトロード

【スケルトン・コボルトロード】


種族:ゴブリン


ランク:B


特徴:武器と魔法を操る


属性:雷


弱点:打撃系



 外見は骨だけになり果てたゴブリンだがどういうわけか戦闘能力は高い。


 手にしているスケルトンソードを片手に冒険者たちを翻弄する。


 ゲームにおけるランクは低い順にE、D、C、B、A、Sの設定がなされていた。

 スケルトン・コボルトロードはBランクモンスターなので中ボスとしては普通といえる。


 というか中ボスは一律Bランクだったような気がするが。


 ダンジョン外に生息しているただのゴブリンはEで、さきほど剣を交えたソルジャーコボルトはDである。


 一般的に言ってダンジョンの中のほうがモンスターのランクは高いように設定されていて、ゲームでのその仕様はしっかり受け継がれているようだ。


 扉を開いたその先には広々とした丸い空間が広がっていた。


 その部屋の奥、階段につながるこれまた大きな扉の真ん前で、骨が横たわっている。

 

 ああよかった、ゲームと同じだ。


 ここにきて俺はようやく本当の意味で安堵した。


 実はこの中ボス、攻略法が確立されている。


 一定の距離を保ちながら先制で大ダメージを与えるだけで戦況はこちら側に一気に傾く。


 スケルトン・コボルトロードがうつ伏せになっているのはやつの策略である。


 右手にはご丁寧に片手剣がすっぽり収まっている。


 あまりにばればれな手口なので、うかつに近づくものなど皆無に等しい。


 中ボス、楽勝だ……。


 と思ってはいたが、俺は侮っていた。


 子どもの純粋さを。


「ルーナ! だれかがもうたおしちゃったみたいだよ!」


 そうだねー、それじゃスルーして階段のぼっちゃおっかー。


 もちろんそんなわけがない。


「ジニー、いい? ああいうモンスターは私たちが油断しているところをいきなり襲ってくるの」


 俺の言葉に一瞬はっとしたジニー。


 半分開かれた小さな口がその驚きを物語っている。


「へー! あたまいいんだね、あのホネホネ! のうみそないのに!」


 納得したあとはひたすらころころと笑い転げる。


 ああ、またジニーが賢くなってしまった。


 一抹のさみしさを胸の奥に覚えながら、やっと敵の攻略にのりだす。


「というわけでジニー、一番強い魔法をドカンとよろしくね。くれぐれも外さないように」


「はあい」


 気の抜けた返事。


 さっきまでの緊張感がまるで嘘のようである。


 俺も正直びびりすぎてたが、ゲームと仕様が違うこともなくはないから油断はできないという理由からであるのは言うまでもない。


 おっと、忘れるところだった。


 冒険者としてジニーに教授する義務が俺にはあるのである。


「スケルトンに有効なのはなにかわかるかな?」


「だげき!」


 よろしい。


「くっくっく、教育が行き届いているようじゃの」


 そりゃあゲームの世界を知りつくしたといっても過言じゃないこの俺の専属家庭教育ですからね。


 英才教育の完成型だと自負しているのであります。


 ……実はロイさんがジニーに教えてた部分も多いから基礎はできてたんだけども。


 それはそれである。


 基礎・基本は大切なのである。


 もとの世界で、学校の先生が言っていた言葉を思い出す。


 曰く、「基本は簡単って意味じゃないからな」。


 含蓄のある名言だと勝手に思っている。


「よし、あれにしようそうしよう!」


 ジニーが使用する魔法を決定したようだ。


 どうなるかちょっと心配といえば心配だが、動かない標的など取るに足らないはずだ。


 三人で、ある程度敵との距離を詰め、そしてジニーが一歩前に出る。


 ジニーが杖腕を前にかざし、アニマを集中させていく。


 無属性のアニマは目に見えないが、感覚で流れを感じ取ることくらいは可能だ。


 万が一に備えて俺もクラディウスを準備しておく。


 大砲の点火の準備は整った。


 あとは撃つだけだ。


 一向に動く気配の見えないモンスターに向かって、それは訪れた。


「スピニングロック!」


 中級攻撃魔法スピニングロック。


 その効果は、高速回転する大岩を出現させ勢いをつけて射出することにある。


 初めに大岩を出す場所は一定範囲内かつ大気中であればどこでもよい。


 ジニーが選んだポイントは、未だタヌキ寝入り中の骨の真上。


 岩の形状は大まかに説明するとモアイ像の顔に近い。


 ただ、下側の先っぽが尖ってるのが地味に恐ろしい。


 それも高速回転しているのだからなおさらのことである。


「やっ!」


 あ、今のかけ声ちょっと可愛いかも。


 杖を振り下ろしたのと同時に、大岩が下に落下する。


 己の命の危機を(スケルトンなので一度は死んでそうなものだが)やっと感じとったスケルトン・コボルトロードは一瞬起き上がろうと動きを見せたが、もう遅かった。


 世の中には、気がついても間に合わないことが往々にしてある。


 大岩が直撃し、モンスターを地面と挟み撃ちする。


 削り、すり潰す。


 言及するまでもなく、スピニングロックの属性付与は土だ。


 そのうえ打撃系統付きである。


 こうかはばつぐんだ! 的なフレーバーテキストが表示されてもおかしくない。


 地面に激突した大岩は粉々に崩れ落ちる。


 砂煙に包まれて、スケルトン・コボルトロードの姿は確認できない。


「ん、いいかな」


 ジニーが杖を振るって魔法を解除する。


 たちまち壊れた大岩は砂粒ひとつも余さず消え去り、残っていたのは白い粉だけだった。


 スケルトン・コボルトロードだったものに違いないそれは、もはや生命の息吹など微塵も感じられない。


 最初から感じてなかったが。


「はいおつかれさま。よくがんばりました」


 百点満点の上に花丸をつけてもいいくらいの完璧な魔法だった。


 そして実にあっけない中ボスだった。


 扉の前でちょっと震えてた自分が情けない。


 ワンターンキルを果たしたジニーは安堵の表情。


 俺と同様に一切出番のなかったペローナは、落葉しきった樹木をみるような目で白い粉をみつめていた。


「はあー、緊張した」


 伸びをしてジニーが深呼吸をもらす。


 上半身を後ろに反らした時のジニーの胸部の双山など俺は見ていない。


 正確に言うと、少し気になって見ようと思ったけどほとんどなかった。


 いいんである。


 あれがジニーがジニーたるゆえんのものなのである。


 とりあえずジニーが可愛いので頭をなでておくことにした俺を誰が責められよう。


 艶の保たれた若緑色の髪に手を乗せる。


「えへへー」


 なんとも嬉しげな声をあげてくれる。


 ジニーの額のピンクダイヤモンドに指先がちょっと触れた。


 魔法石にはあまり触らないでおこう。


「ジニー、頼りにしてるからね」


「うん! もっとがんばる!」


 しかしこの時、このように仲睦ましげにコミュニケーションとスキンシップをしている俺とジニーを見つめるペローナの視線に、俺は気づいていなかった。


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