形質転換
壁も床もすべてレンガらしき物体で構成されているのがこのグロームの塔である。
ダンジョンに入るためには特定のフィールド上に存在する空間の歪みを通り抜ければよい。
空間の歪みに一歩足を踏み入れればそこはすでにダンジョンの内部である。
ダンジョンの外装を眺めることはできない。
グロームの塔は12階層から成っているのだが、外から見たらいったいどのようなデザインなのか気になる。
中は窓がないにも関わらず、きらきら光ってまぶしいくらいだ。
俺の周囲はすべて黄色か金色で覆われている。
光の正体は、雷属性を纏ったアニマの結晶体である。
無属性のアニマは目に見えないが、属性を付与されて凝縮されたアニマはこのように美しい輝きを発する。
そもそもアニマは世界のあらゆる場所に遍在している。
大気や海水、名もなき草花に至るまでアニマに満たされている。
もっとも量が豊富で利用する頻度が高いのは大気中のアニマだ。
空気の中のアニマはほとんど無属性である。
ほんの少しだけ風属性のアニマを纏うものもあるが、ほぼ誤差に過ぎない。
魔法を使うとき、アニマを身体の中に吸収する。
無属性の魔法を使用するならアニマを魔法のイメージに沿って練り直すだけでよい。
しかし、たとえば火属性の魔法を使いたいときにはもう一仕事しなければならない。
無属性のアニマを火属性のアニマに変質させてから、アニマを魔法のイメージに練ることになる。
だから、最初から火のアニマを吸収したほうが楽なのである。
通常の空気中のアニマは無属性が多いが、暖炉の近くでは火のアニマを直接取り入れることができる。
このアニマなら形質転換を行うことなくスムーズに魔法を発動させることが可能だ。
ちなみに海の上なら水のアニマが多いし、草木には土のアニマが豊富だ。
そして、グロームの塔はそれ自体で雷のアニマを帯びている。
よって魔法を発動するスピードという観点から考えれば、雷の魔法の使い手が有利だ。
さきほどのソルジャーコボルトも、圧倒的な速さで雷系の魔法を発動させたが、このような事情があってのことであった。
また、たとえば水の属性の魔法を使うには、まず雷のアニマを吸収し、無のアニマに変質させてさらにまた水のアニマに変質させなければならない。
無属性を経由させなければならないこともあって、雷以外の属性を使うのは時間が倍かかる。
もちろんアニマを変質させるスピードは人によって違うし、繰り返し練習や修業を重ねることで速くすることができる。
ゲームでのレベル上げのことである。
設定上は、一流の魔法使いはどんな状況下でも一瞬で属性のアニマを変えられるのだとか。
ちなみに魔法使いとしての格を決定づける基準として真っ先に挙げられるのがアニマ操作のスピードである。
戦況を左右するひとつの要因がアニマ操作の上手さ・速さというわけである。
「ふむ、ジニーは一発の魔法の威力はすさまじいがその分アニマを溜めるのに時間がかかるのが難点のようじゃの」
戦闘がひと段落した時にペローナがジニーの弱点を指摘した。
端的に言うと、ジニーは大砲である。
ジニーはアニマを練るのは遅いほうらしい。
しかも今はダンジョンの中ということもあって遅さに磨きがかかっているということである。
「ううぅ、ごめんなさい」
うすうす自分でも気づいていたらしいことをはっきりと言葉に出されてちょっと落ち込み気味のジニー。
「なにかいい方法はないかな?」
まだモンスターは俺ひとりでも対処できる数と強さだが、この先はどうなるかわからない。
「くっくっく、余が力を貸してやろうかの。根本的な解決にはならんがの」
くるくるっと自身の青髪を指に巻きつけてながら、ペローナが不敵に返答する。
「どうするの?」
「余が直接土のアニマをジニーに送る。ジニー、ちょっと手を出してくれんかの」
「うん」
杖を握っていない左手をジニーが差し出す。
その小さな手にこれまたペローナの小さな手が重なる。
「わあっ!」
ジニーが感嘆の声を上げた。
「これでしばらくは持つじゃろ」
「すっごいアニマ。ぺロりんありがとー! なんか力がみなぎってくる感じ!」
どうやらペローナのアニマがジニーに譲渡されたらしい。
今にもスキップしだしそうなジニーだが、
「もう一度いうが根本的な解決にはならんぞ、ジニー」
「はぁい……」
ペローナの注意を素直に聞き入れる。
「まあ。ジニーの場合、アニマの吸収速度はまだまだじゃが絶対容量は常人の域を軽く突破しているようじゃ。将来性はあるかもしれんの」
アニマを渡すだけでそこまでわかるものなのか。
ちなみにいったん吸収・蓄積した魔力は、意識してキープしておかないとどんどん体外に流れ出ていってしまうので要注意だ。
「ぺロりん、こんなにアニマわけてもらっちゃたけど、ぺロりんはへいきなの?」
「くっくっく、余を誰だと思っておる」
いや、ほんとに誰なんだよ。




