探索
【グロームの塔・一階】
白色の軌跡が俺の左肩を浅く抉った。
痛みを覚える間もなく俺は反射的に、右手に携えた大剣――クラディウス――を振り上げる。
重量においてはるかに劣る敵の片手剣はクラディウスの衝撃をもろに受けて空中に弾き飛ばされる。
得物を失った相手は大きくバックダッシュして俺から距離を取る。
だが、そのような隙だらけのモーションを見逃すはずもなく、俺は地面を蹴り突進動作に入る。
両手に持ち替えられたクラディウスの剣尖は魔物の胸部を貫き、銀色の破片が辺りに飛び散る。
もしも相手が人間であれば勝負は死をもって今決着がついたであろう。
しかし、奴はモンスターである。
名はソルジャーコボルト。
ゴブリンの一種だ。
特徴は、ただのゴブリンよりも知性がはるかに発達し、まるで人間のように武具を扱えることである。
どこで手に入れたのか、鉄製の兜や鎧に身を包んでの登場だった。
ダメージを与えても痛みを感じないのか、悲鳴をあげることもない不気味な魔物である。
ソルジャーコボルトは直撃した大剣をものともせず、己の右手の指先を俺に向ける。
まずい!
魔法攻撃の匂いを感じ取った俺は、胸に突き立てた大剣を抜きさる。
ソルジャーコボルトの指先から雷撃が放たれた刹那、クラディウスを構えて身体全体をガードする。
『再生破壊!』
電撃が剣に命中したそのとき、雷は消え去った。
「今だっ」
魔法攻撃後のわずかな硬直を見逃さず、大きく振り上げた大剣で真っ二つに敵を両断する。
クラディウスの前には如何なる装甲も役には立たない。
すかさず横に剣を払って、敵を四等分する。
いくら痛みを感じないといっても、身体を細かく分けられては動きを取ることができない。
まもなくコボルトソルジャーは絶命した。
と、不意に左肩にあたたかな感触が通り過ぎる。
一瞬の出来事であった。
すでに、傷ついていたはずの肩は元通りになり、かさぶたひとつ見当たらない。
ペローナの回復魔法だ。
「ごめーん、ありがとー!」
後ろを振り向いてお礼を述べる。
「いちいち礼など言わんでいいわい」
そっけなく対応するペローナである。
可愛くない。
「ルーナ! きず、だいじょうぶ?」
やたらハツラツしているこの声はジニーだ。
「さっきペローナが治してくれたからだいじょうぶ。心配してくれてありがとうね」
俺の身を気遣ってくれるジニー。
可愛い。
「そろそろフロアボスの部屋が見つかってもいいくらいなんだけどなぁ」
ダンジョンには各階層ごとに中ボスクラスのモンスターが待ち構えているのがセオリーだ。
現在の階層は1階。
困ったことに、ゲームとはダンジョンのマッピングが違うので地道に階段を探さなければならないのである。
やはりゲームとこの世界には差異が数多く存在しているようだ。
「よし」
迷宮探索はまだ始まったばかりだ。
だがソルジャーコボルトなど、手強い魔物も生息している。
まだまだ戦いなれていない俺は、もっと強くならなければならない。




