魔法講義
本格的にダンジョンの探索に挑むとなればそれなりの準備と対策が必要である。
さしあたって、この世界での魔法の相性を説明しておこう。
魔法の階級は大きく分けると三つある。
初級・中級・上級の三段階で、魔法によって割と厳密にクラス分けされている。
特に初級と中級の境目ははっきりしている。
というのも、初級魔法は魔法使いなら誰でも使うことができるが、中級魔法以上は、無属性魔法以外は適性をもっていなければ発動することができないからだ。
次に属性について。
火・風・雷・土・水の五大属性を基本とするが、闇・光という特殊属性なるものも存在する。
そしてさらに、それらのどれにも分類されない無属性の魔法も数多い。
無属性の魔法は具体例を挙げると「マジックアロー」や「バーストショット」だ。
ただ単にアニマの形質を操作するだけの魔法が大半である。
そして、無属性魔法は初級・中級・上級の階級のかかわらず、アニマ操作のコツをつかめば誰でも習得可能だということがポイントだ。
さて、五大属性には属性同士の相性がある。
火は風に、風は土に、土は雷に、雷は水に、水は火に優位する。
ここで加えて言うと、属性をもっているのは使用された魔法だけではなくモンスターや人間もである。
具体的には、風属性のモンスター(鳥獣型が主)には火属性の魔法が効果大で、土属性の魔法は効きにくい。
土属性をもつゴーレムには、水属性の魔法がよく通り、雷属性の魔法は効果が薄い。
水属性をもつ魚類系モンスターは雷属性の攻撃は被ダメージが大きく、火属性からはその逆といった具合だ。
ついでに言うと、無属性魔法はどの属性にも同程度に効果があることもおさえておきたい。
五大属性は、だれもが初級までならどの属性の魔法も使用できるが、中級からは先天的な適性にあった属性しか使えない。
闇と光も同じである。
ちなみに俺はゲーム時代では、雷属性をもっていた(適性はキャラクター作成時に自分で選べた)。
水属性を持つ敵に対しては優勢を維持して戦闘を行えるが、土属性を相手にすると途端に苦戦を強いられることとなる。
そういう場合は基本、無属性魔法を主体に攻撃を組み立てる。
ただし、パーティを組んでいる時は話が違ってくることも多い。
仲間が風属性を持っていれば俺は補助系魔法を使って援護に回ることになる。
無属性魔法を単体で発して加勢するよりも、風属性の人を直接支援するほうがダメージ効率がいいからだ。
それほどまでに魔法の相性は勝敗に直結しやすいのである。
「それで、グロームの塔のモンスターと相性が悪いってことは、ペローナは水属性よね?」
パーティの基本は、まず仲間のことをよく知ることだ。
「うむ、いかにも」
もったいぶって返答するペローナの態度はこの際無視する。
グロームの塔は雷属性のモンスターの巣窟だ。
水属性のペローナひとりでは雑魚との連戦で消耗が著しかろう。
ぺローナから与えるダメージ量は少なく、敵から与えられるダメージは大きい。
前線に出すメリットはほぼないといって差し支えないだろう。
そもそも単騎で突っ込んでいったあたり、魔法の相性を考慮しているのかどうかすらあやしいが。
「ペローナには後ろで回復に専念してもらうのがいいと思う。回復魔法には自信ある?」
水属性はもちろん攻撃魔法もあるが、回復用の魔法が全属性中でもっとも豊富である。
「まあの。片腕の再生くらいならよゆうじゃ」
それチート級じゃね?
「蘇生……とかは?」
俺の質問に怪訝な視線で返すペローナ。
「蘇生じゃと? そんな魔法ありゃせんよ」
そうか、なかったか。
ゲームでは蘇生魔法は確かに存在していた。
しかしこの世界では違う。
死んだら生き返らない。
ゲームとは違うことを改めて認識する。
「ルーナとジニーの属性はなんじゃ?」
ジニーは即座に右手を挙げ、
「わたし土だよ! 雷にこうかばつぐん!」
通常よりトーンの高い声。
自分が役に立てそうなのがうれしいのだろう。
「くっくっく、それは頼もしいの。して、ルーナは?」
「雷属性ではあるんだけど、私はいまマジックアロー一本も撃てないの。代わりに、これで」
俺が手に持ったのはいわずもがなクラディウスだ。
柄を握り締めてアニマを集中させると、突如として銀白の輝きを放つ刃が現れる。
「魔法具か。武器型はリスクの大きいものが多いと聞くが、初めて見たわい」
クラディウスを使うためにひとつ制約があった。
それは魔法の発動ができなくなることだ。
アニマの操作なら可能だが、いくらやっても魔法は効果を表さない。
とはいっても、マジックアローしか使えなかった俺にとっては大したデメリットではなかった。
それに、クラディウスを使用するメリットもある。
身体能力の飛躍的な上昇、すなわち敏捷性や反射神経の向上だ。
身体が羽のように軽くなる。
頭は冴えわたり、敵の動きが読める。
さらに、アニマをもっと刃に集中させれば、クラディウスの切れ味はどんどん鋭くなっていく。
最後に『再生破壊』だ。
相手の魔法攻撃は、同量のアニマを剣に込めることで打ち消すことができる。
「前衛は私に任せて。私が討ち漏らしたやつを中衛のジニーが担当。ペローナは支援と回復をお願い」
基本戦略はこれでよいだろう。
「ふむ。妥当なところかの。それにしても、変わったもん使うんじゃのぉ」
俺も、魔法の世界まで来て剣で戦うことになるなんて思わなかったよ。
ただし、クラディウスのおかげで守れた命もあるのだ。
そういえば最初にクラディウスと話して以来、一度も彼(?)は声を聞かせてくれていない。
また話せる時は来るのだろうか。
聞きたいこともないわけではないので、その時を楽しみにしている俺なのだった。




