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 暗闇の中。


 幽暗の世界に閉ざされた空間で、俺と少女はいた。


 俺はこの光景を知っているはずだった。


葉月はづき兄ちゃん!」


 だれかが叫んでいる。


 少女が叫んでいる。


 呼んでいるのは誰の名前なんだろうか。


 わからない。


 しかし、どこか懐かしい気がした。


「助けて!」


 少女は手を伸ばす。


 一縷の希望を俺に託そうとしている。


 俺を求めている。


真奈まな!」


 思わず俺も叫んだ。


 真奈とはだれなんだろう。


 俺は知らない。


 本当に、知らないのか?







「――ナ。ルーナってばぁ!」


 ここ最近でずいぶんと慣れ親しんだ声が、鼓膜を震わせる。


 その声色には少しの焦りが混じっているようだった。


「ジニー?」


 目を覚ます。


 まぶたを開いた先には、必死の形相ぎょうそうの少女がいた。


「そんなに取り乱してどうしたの? モンスターの群れでも近づいてるの?」


「ちがうよー。なんかルーナがすごいうなされてたからしんぱいになっちゃって。こわいゆめでもみてたの? あせびっしょりだよ」


「え?」


 指摘されて初めて、自分の全身に汗が浮かび服が身体に張り付いているのに気がついた。


 いちど意識してしまうと、生理的な不快感に神経が支配される。


「ちょっと変な夢みてただけ。だいじょうぶ」


「そーなの? それなら」


 ジニーが俺の右目付近を人差指でなぞった。


 指先に付着した水滴を俺にみせながら、


「なんでないてるの?」


 心の底から心配そうな、か細い声で問う。


「ほんとに、だいじょうぶ。うん。心配いらないから」


 左手で素早く己の涙をぬぐい、右腕でガッツポーズをして元気アピールをする。


 そんな俺を見てジニーは、自分の両手で俺の右手の拳をそっと包んだ。


「ジニー?」


「……なんだかルーナがとおくにいっちゃうきがして。もうやだよ」


 泣いてはいないようだが。


「わたしをひとりにしないでよ」


 顔を上げ、ほとんど懇願するような瞳で俺をみつめる。


「安心して。あなたは私が守るって言ったでしょ」


「それなら、ルーナがピンチのときはわたしがルーナをまもるからね」


 実際、ジニーにはすでに助けられたこともある。


「これならわたしもルーナもしんだりしないよね」


「そうね」


 短く返答し、ぎゅっと少女を抱きしめる。


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