自由
とつぜんだが、この世界に来てからもうしばらく経った。
異世界トリップ早々ゴブリンの群れから女の子を助けだしたり。
その兄を見つける手伝いをしたり。
その兄妹が絶滅危惧の一族の末裔だったり。
その兄妹をつけ狙う女盗賊と一戦交えたり。
剣がしゃべったり。
兄がいきなり別行動取るとか言い出したり。
最初こそドタバタしたものの、それ以降は大した事件事故問題課題はなくいたって平和な毎日だった。
ユウェルの魔宝石を収集すべく再び襲撃するみたいなセリフを発していたダニエラは、いまだその姿を見せない。
俺たちではなく、単独で動いているロイのほうを襲うことにしたのだろうか。
だとしたらロイは大丈夫なのだろうか。
自分のユウェルとしての力を制御できていないらしいロイは自ら1人で行動することを選んだ。
よほど暴走状態の戦闘能力に自信があるのだろうが、それでもその状態を目にしたことがない俺からしたらやはり気にかかるのだった。
ジニーに、ロイの実力はいかほどなのか問うてみたことがあった。
兄妹そろって命の危機があった、一度だけロイはジニーの前で己の力を解放したことがあったらしい。
そしてジニーいわく、
「お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃないみたいだった。わたしも、もしかしたらしんじゃってたかもしれない。うんがよかっただけで」
だそうだ。
ロイが能力を使ったのはそれきりだった。
さて、一方的にロイに別れを告げられた俺たちは今のところ目的がない。
ついでに言うと、いつどこでロイと再会するという話すらなかったわけで、そもそも彼が俺たちと再会する気があるのかすら疑わしいものだ。
この世界は広い。
前身またはモデル。
どちらかなのは確かである、俺が現実世界で夢中になっていたオンラインゲーム『ウィザード・エイジ・オンライン』の中では、五大陸と呼ばれる五つの大陸があった。
たとえ同じ大陸にいたとしても、国はいくつもあり、街や村は数多く点在している。
たまたま再会するということはほとんど奇跡といってよい確率である。
俺には目的も目標もない。
強いて言うなればジニーを守ることになっているが、それを除けばあとはすることなどなかった。
ひまだった。
自由だった。
自由というのは厄介だ。
一見聞こえは良くともその実、行動には責任が伴い、責任を背負うには覚悟がいる。
この世界でするべきこととはなんだろう。
冒険者としては、ダンジョンを攻略したり自分の魔法や装備を強化することがやるべきことと言えた。
正直に言うと、ダンジョンの探索をしたりしてみたいのだが、ジニーを護衛するという最優先事項がある以上はおいそれとは立ち入れない。
このようなことを考えながらジニーと放浪の旅を続けていた矢先、事件は起こった。




