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怪盗ダニエラ

「あの、ユウェル同士はテレパシーが通じたりするんですか?」


「ん? それは無理だが、近いことはできるな」


「というと?」


「ユウェルがちかくにいると、おたがいの石がはんのーするの!」


 ロイの代わりにジニーが返答を引き継ぐ。


「まあ、ユウェルがいることがわかるだけでそれが誰だとかはまったくわからないんだけどな」


「へえ。じゃあさっきジニーちゃんがロイさんだってわかったのはなんで?」


「だって、そもそもユウェルなんてそうそういないし。このあたりだったらお兄ちゃんしかいないかなって」


 なるほど、確証はもっていなかったということか。


 確かにさっきジニーは「お兄ちゃんかも」としか言っていなかった。


「そういえば、すぐ近くにもう一人ユウェルがいるはずなんだが、姿が見えないんだ」


「あっ! わたしもずっと探してるんだけど、いないみたいなんだよね」


「このフロアの中にいるってことですか?」


「存在だけは感じられるんだがな」


 ユウェル同士の反応はそれほど精度がよいわけではないらしい。


「ところで、なんでロイさんとジニーちゃんははぐれたんだっけ?」


 緊急事態でやむを得ずジニーだけを転送させたことまでは聞いていたが、やはり詳しい事情が気になっていた。


「ああ、やっかいな襲撃者に目を付けられたみたいでな。どういうことだか、おれとジニーがユウェルだということがやつにばれているらしい」


「それもなんどてんいしてもみつけられちゃうの」


 ふたりとも、もううんざりだという口調だ。


「――そう。このわたしから逃げ切れるなんて思わないでよね」


「なっ! いつのまに!」


 冷たい声がした。


 声がしたほうを向く。


 いつの間にかフロアの入口をふさぐように、黒髪の女が立っていた。


「ロイさん、あれが襲撃者ですか」


「ああ……くそっ! なんで居場所がばれたんだ!」


 ロイの声は焦燥に駆られているようだった。


 ジニーは無言で俺のローブの袖を握りしめる。


「あの襲撃者がユウェルだってことはないんですか? それならロイさんたちがユウェルだってばれてることも、居場所が特定されちゃうことにも納得がいきます」


「その可能性はおれも考えてみた。しかし、やつからはユウェルの反応を感じられないんだ」


 ロイは俺への返答をしながら、ちらちらとフロア中に眼を配っていた。


「ロイさん、だめです。このフロアはあの入口からしか出入りできないっぽいです」


 隠し部屋は総じてそうなのである。


「ちっ。あんた、転送石はもってないか?」


「さっきジニーと一緒にゴブリンの群れから逃げるのに使っちゃいました」


 転送石はそもそも希少なので、冒険者といえど何個も持ち合わせていることはない。


 ベテランと自称してもいい俺でさえ、ゲーム中には転送石を持っていない時間のほうが長かったくらいだ。


「仕方ない。おれがやつを仕留める。あんたはジニーをそばで守ってくれ」


「そんな。いままで勝てなかったから逃げてたんでしょう! 私も戦います!」


「その壊れた杖でなにができる。頼むから、ジニーを見ててくれ」


 断固としてロイは譲らない。


「……わかりました」


 たしかに、杖を失った魔法使いにできることなどない。


 足手まといになるくらいなら、後ろで見ていたほうがよいだろう。


「作戦会議は終わったかしらぁ? ユウェルのダイヤモンド、ピンクダイヤモンド。それに、ルビーかしら? 三個も手に入るなんてついてるわ」


 楽しむような様子で襲撃者は杖を抜く。


「あら、わたしの相手はダイヤの騎士だけなの? 怪盗ダニエラも舐められたものね」


「だまれ薄汚い盗賊が」


 杖を構えたロイとダニエラが対峙たいじする。


召喚魔法サモン! キマイラ! スフィンクス! 出てきないさい!」


 ダニエラが杖をふるうと、彼女の前方の地面にふたつの丸い魔法陣が形成される。


 妖しい紫色の光を発しながら、魔法陣の上にモンスターが出現した。


 ゴブリンなどとは比較にならないほどの野獣であった。


 二体とも、獅子のような胴体と鷲のような大きな翼をを持っている部分は共通しているが、左のモンスターの顔は人間の男性らしく、右のモンスターの顔は女性のように見える。


 男性の顔の魔獣がキマイラで、女性の顔の魔獣がスフィンクスだ。


 どちらもダンジョンで中ボスクラスの強さを誇る、強力な魔物である。


「趣味の悪い召喚獣だな」


 誰に聞かせるでもなくひとり呟いたロイ。


 現れた魔獣は、目の前にある獲物たるロイに勢いよく飛びかかった。


「マイティウォール!」


 ロイが叫ぶと同時に、魔獣の前にガラスのような壁が出現した。


 それも、俺の位置からから見てもわかるくらい厚い魔法の壁だった。


 キマイラとスフィンクスは自身の勢いをそのままに、壁に激突する。


 魔獣たちの顔は鼻からつぶれ、青紫色の血液が壁にべっとりと付着する。


 うーん、グロ注意だな。

 

 ロイが戦っているのに、俺だけなにもしないわけにはいかない。

 

 いま俺ができることはなにか考えよう。


「ジニーちゃん、アニマを溜めておいて」


「え、うん」


 次に、周囲を見回してあるものを探す。


 いまでは女である俺の腕力ではまともに扱えそうもないが、ないよりはましだ。


「ってあれ?」


 探していたのは、さきほどゴーレムが持っていた大剣。


 しかし、俺がいま見つけたの剣ではなく、剣の柄だった。


「こんな大事な時に。なんで刃だけなくなってんだよ!」


 思わず男言葉が出てしまう。


 とりあえずその剣の柄を拾い上げてみる。


 柄頭には紅い宝石がついてある。


「まさか、これはユウェルの魔宝石か?」


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