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俺氏、夜這いをかけられる

ああ、いいね。チートってのは。

俺はふかふかのベッドで眠りにつこうとしていた。宴は遅くまで続き、現在の時間は午前一時だ。なぜ今が午前一時と分かるかといえば、この世界にも時計があるからだ。古めかしい振り子時計がゆっくりと時を刻んでいる。


――ここに来てからいろんなことがあった。最初は女の子の部屋に転移してきたんだったか。あの女の子はどうしているだろうか。


いや、もう会えないほうがいいのかもしれない。このまま俺は適当に世界を救って、この異世界、エテルナから出るんだ。


『よお、元気だったかい?』


またあの声だ。


「あいにくと元気だよ。命の危険もあったけどな」


『はは、それはなによりだ。この世界を満喫しているみたいだものな』


「誰も満喫なんかしてねえよ」


『そうか、満喫できるように祈ってるぜ』


「余計なお世話だ。とっととどっかに行けよ」


『それもそうだ。ああ、あと忠告をしておくが、周りに気をつけなよ』


「どういうことだ?」


それっきり『彼』の声はしなくなった。本当にどういったわけだろう。と、何やら別の人の気配を感じた。


それは強い『殺気』が籠っていた。どうやら自分を殺しに来たらしい。レンの刺客か何かなのだろうか?


「よお、そんなところで何してるんだよ」


俺は声をかける。


「ッ!」


俺はその殺気の主がたじろいだ隙に、バッと布団をはねあげた。


自分の右手の単龍紋から光が発せられる。


「フォンシーヌ!」


思わず驚きの声を上げてしまった。なぜ彼女が? 彼女はダガーを右手に持っている。明らかに俺を殺すつもりなのだ。


「ばれてしまっては仕方ないわね。さすがは救世主って言ったところかしら?」


「どうして、君が」


「それはもう言わないわ。さあ、殺しなさい」


「どうして俺が君を殺さなきゃならないんだよ?」


「あなたバカ? あたしはあなたを殺そうとしたのよ? そんなやつを生かしておくの?」


「なんで俺を殺そうとしたか分からないままだと、気持ち悪いじゃんか」


「そうね、あたし、いや、私はかつてレン様にお仕えしていた、マダール五人衆が一人、蒼龍ツァンロンだったの」


そういえば思い出した。そういう設定のキャラを作ったっけ。


「でも、君は典型的なイクソニア人の容姿じゃないか」


「バカね。私は千変の蒼龍よ。姿はいくらでも変えられるわ」


そうそう、そういう設定でもあった。それでかつてはヴァルト宮殿に忍び込んでドディたちの邪魔をしようとしたという話を書いたっけか。


「そうか、それで救世主たる俺を殺そうとした、ということか」


「そうね、でもまさか私の部屋にいきなり現れるなんて、思いもよらなかったわ」


「俺も夢にも思わなかったぜ」


「さ、話すことはもうないわ。殺しなさい」


「……俺は殺さない」


「どうして?」


「君はレンに見捨てられたんだろ? 家族と思っていた朱雀は死んでしまって」


彼女は顔を悲しみで曇らせた。


「あの女がやってきてから、私は用済みになったもの……」


「あの女?」


「そう、マダールの『救世主』よ。彼女も異世界から転移してきたの。そしてその力によって、ドディとジャンヌは倒されてしまった」


まさか。自分と同じくここに転移してきた人がいるのか。


「その女はいったいどういう格好していたか分かるか?」


「そうね、不思議な格好、そう、あなたが転移してきたときの格好と同じくらい」


「年はいくつくらいだった?」


「あなたと同じくらいかしら」


間違いない。俺と関係のある女の子だ。だがいったい誰だろう。極力学校では女子との接触を避けてきたつもりだった。もちろんあちらから接触してくることもなかったが。


いや。


一人だけいた。


俺がぼっちを愛する男になった原因を作った女の子。


由比かがみ。間違いない。あいつだけは俺が嫌がろうと、話しかけてきたものだった。俺の厨二小説をみんなに晒したくせに。


「……分かった。その少女は俺が知っている人だ」


「そう……でもそんなことはもうどうでもいいわ。殺しなさい」


「殺さないって言っただろ」


「じゃあ私をどうにかしようって言うわけかしら? エッチなことがしたいとか?」


「そんなんじゃない。ただ、君を殺したくない。それだけだ」


「バカね。あなたって本当に馬鹿だわ」


「そうかもしれない。そうだな、さしあたり蒼龍、いやフォンシーヌ。君には、俺の手伝いをしてもらうかな?」


「どういうことかしら?」


「レンを倒す手伝いをしてもらいたいんだ」


彼女の顔が青ざめる。


「まさか。私に?」


「もう、君はあの男に振り回される理由はないぜ。例えレンに惚れていても、あの男にはもう君は見えていない」


俺ははっきりと言ってやる。そうでもしないと覚悟が決まらないだろうからだ。ひねくれたやり方だ。だけれども、これが俺のやり方なんだから仕方がない。


「……分かったわ。レン様、ううん、レンを倒すにしろ倒さないにしろ、真意を訊きたい」


「さ、とりあえずはあのアパルトメントに帰りな」


「うん……」


そう言ってフォンシーヌは消えた。


――俺氏、敵方の女性をてなづける。

更新するときはすぐに更新するときもあるんだなあ。みつを

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