俺氏、アケリアの王と戦う
やっと更新です。
なぜこういう状況に陥ったのか? 俺の膝はがくがく震えていた。
目の前にはいわゆるキメラ、もしくはキマイラと言われる生物が俺を食わんと、唸り声を上げている。もちろん厨二病だったころの俺は、この世界にゲームで登場するようなモンスターを登場させたわけだ。一般的にキメラの姿はライオンとヤギとヘビをごちゃまぜにしたような姿とされている。目の前のキメラはファンタジーゲームに出てくるようなキメラで、ライオンの頭とヤギの頭、ついでになぜかドラゴンの頭までくっついている。
ここはヴァルト宮殿から少し離れたところにあるコロシアム、いわゆる格闘場だ。重たげに剣を持ってキメラに対峙する俺を、アケリア王国の国王たるジェミニ=マッセリアが不敵に笑みながら、特等席から悠然と見下ろしている。その隣には不安げにアルティナ姫が座っていた。
「頑張って! ナオト!」
言われなくても頑張らなくては死んでしまう。今まで本気で頑張ったことは一度っきりしかない。この世界を舞台にしたライトノベルを書いたときだ。その時以上に頑張らないとこの世界に骸をさらすことになる。
だいたい、俺がやっとのことで両手で持っている剣、一番軽そうだから手に取ったんだが、やはり重いものは重い。そして着ているものはいわゆるくさりかたびらというものだ。他にも鎧があったが、これを着るのが精いっぱいだった。
こんなのでこの怪物に勝てるのかよ。このバケモンに食われちまうんじゃないか?
キメラはこちらが弱いと見るや、突然、躍りかかってきた! どこが救世主だか。俺はここで食べられて終わり、ジ・エンド。
だが。
俺の右腕の単龍紋から強い光が放たれた。その光にキメラはたじろぐ。俺の持っている剣が軽く感じるようになった。
おいおい、チートかよ。
俺は、片手で軽くその剣、多分ミスリルかなんかでできているであろう剣を持ち直し、キメラに斬りかかった。
まずは、ドラゴンの頭を切り落とす。
絶叫。苦悶の絶叫がコロシアムに響き渡った。
ちらりとジェミニ王のほうを見やると、意外にも驚いた風をしていない。俺が救世主だから当然だと思っているのだろうか?
手負いの獣をそのままにしておくのは危ういと判断した俺は、すかさず、ヤギの頭を切り落とす。
辺りは血の匂いに満ち満ちて、思わず吐き気を催した。
キメラは最後に残ったライオンの頭を振り乱し、俺に一咬みでも加えんと、突進してくる。だが、俺はそれをあっさりと避ける。そしてライオンの頭に一撃を加える。
悶え声を上げて、キメラはあっさりコロシアムの床に倒れ伏した。
パチパチパチ、と拍手が聴こえる。
「すごい、すごいよ、ナオト!」
アルティナ姫は興奮した様子だった。
「ふん、なかなかやりおる。だが」
アケリア王はそう言って、特等席から奥へと入っていった。
俺は自分が息を乱していないのに気がついた。この世界では俺はやはり最強万能なのだろうか?
そこへ、奥からマントを翻し、アケリア王が現れた。
黒髪の長髪、太い眉に強い意志を感じさせる黒い瞳。マッチョではないが、しっかりと鍛えられている肉体の様子。まさに威風堂々たる姿。
アケリア王、ジェミニ=マッセリア。アケリアを再興させたハーン王の孫であり、自らもホルジア王国との戦争を戦った勇士だ。まあそういう設定になっている。
「今度は余と戦ってもらおう」
「え!」
なんでこういうことになるのか。まあ確かにそういう設定にしたのはこの俺だった。
ジェミニ王は剣を構えた。どういう構え方なのかよくは分からない。俺がファンタジー小説を書くときに細かい考証せずに書いていたものだから。ただ、ジェミニ王は異様に威圧感があった。
「ふふ。お前が本当に救世主たりえるか、余が確かめん」
そう言って、剣を横薙ぎにして、俺を斬りつける。
だが、俺はやすやすとそれを剣で受け止めることができた。
「む、アケリア代々伝わる宝剣が?」
そこでやっと王の表情が困惑した。俺はそこであることを試すことにする。
この世界の『魔法』だ。五行を模したこの世界の魔法体系。フィフ・フォニムと言われる力だ。俺が救世主なら、魔法も使えるはず。
「我請い願う。火の力以て、我が敵を燃やせ! フィエ・ボーニン!」
英語に似せた適当な魔法をあのころは必死で考えていたものだ。それがこんなところで役に立つとは思わなかった。
俺の剣から炎が噴き出す。そしてジェミニへと向かっていく。しかし彼は、にやりと笑った。
ジェミニ王の宝剣が黒く光った。アックエ、水の力を剣に籠めたのだ。この世界で『魔法剣』と呼ばれるもので、戦士で魔法の才能があるものが多用するものだった。
俺の発した炎が弾き飛ばされた。ならば、と俺は次の魔法を撃った。
「土の力よ! 彼が力を吸い取れ! ソイレ・ステイユ!」
そう唱えて、ジェミニ王の魔法の力、水の力を吸い取った。そして。
「……もう、やめにしませんか」
俺はそう言って剣を床に投げ転がした。
「ふっふ。なるほど。そのほうがよさそうだな。よかろう。認めよう! 汝、このエテルナの救世主たり! さあ、宴だ、宴の用意だ」
ジェミニはどうやら俺を救世主と認めてくれたらしい。
――俺氏、必死の思いでジェミニ王に救世主として認められる。
ちなみにこの魔法設定は僕の厨二……げふんげふん!