表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

俺氏、アケリアの姫君に出会う

街は雑然としている。俺の創った設定では、ここはアケト・アケルナの旧市街。フォンシーヌのアパルトマンが十九世紀のパリのようだと形容したが、都市計画はしっかりされていないようだ。旧市街は雑然としていて、貧しい人たちもいるようだった。


「こっちが、駅よ」


俺の創った設定どおり、この時代には鉄道がすでに完成している。しかしこフォンシーヌは電車に乗る金は持っているのだろうか?


そこへ、一人の男が駆けてきた。それを年配の女性が追いかけていた。


「その男を捕まえてー!」


どうやらスリらしい。


さて、ここで俺には二つの選択肢がある。


一 スリを捕まえる。

二 ほっとく。


迷わず選ぶのは二だ。俺が救世主と言われようと、こういう小さい厄介ごとに関わるのは御免こうむる。


俺の目的は何か? 世界を救うことじゃなくてこの世界を出ることだ。それにたとえ、俺が世界を救うぜ、と思ったとしても、こういう小さな事件を解決することがきゅうせいしゅ、とやらの仕事ではないと思うんだ。


…………


俺なんか間違ってるか?


フォンシーヌがこちらを見つめている。じっと見つめている。どうやら俺になんとかしてほしいらしい。こうも期待されると困る。


…………


仕方ない。現状俺に何ができるか分からない。救世主と言われても、俺にあるのは創った設定としての魔法くらいなものだ。魔法も相当中二で、中国の五行を西洋っぽい言葉に変えて作ったものだった。今考えると恥ずかしすぎるだろ。


とにかく、前を駆け去ろうとする男に対して、魔法を唱えることにした。そもそも俺、剣とか持ってないし。


そこへ、一人の少年が、そのスリを蹴り飛ばすのを俺は見た。ニーキックだ。膝が完全にみぞおちに入っている。これはエグイ。


「ぐええええええっ!」


男がもんどりうって地面をのたうちまわっている。少年はこともなげに、落ちている財布を拾って、その持ち主に渡す。


「本当にありがとうございます!」


深々と頭を下げて、例を言う年配の女性。年配の女性というと聞こえがいいが要するにおばさんだ。


「礼なんかいいよ。ボクが好きでやってることなんだから」


少年はそう笑顔で答える。容姿はといえば黒髪の短髪、みょうにちびっこい。年は十四歳くらいか? いや、これはもしかして。女の子?


俺の創った厨二設定では、ボーイッシュで活動的なアケリア王国のお姫様がいたはずだ。そして彼女もドディたちと一緒に戦ったはずだった。なのにこんなところでどうしてるんだ? アケリアの姫君は。


「あのさ、あんた、アケリアのひ……」


「ああああああああ!」


彼女は突然叫んで、路地裏に走って行った。


「フォンシーヌ、追うぞ!」


「あ、はい!」


フォンシーヌとはここで別れてもよかったが、勢いで呼んでしまった。まあいいか。


俺たちも路地裏に入っていく。


路地裏にはアケリアのお姫様が立っていた。


「なんでボクのことを知ってるんだよ?」


仏頂面で様子で彼女は尋ねてきた。彼女がアケリアのお姫様ってことは、このアケト・アケルナの人たちにはばれてはいないのだろう。


だが、俺はこの世界を創った男だ。とりあえず、どうするか。


「あ、あのっ」


フォンシーヌが突然口を開いた。


「この人、救世主なんです! だからあたしはともかく、あなたが誰か知ってておかしくないと思うの!」


アケリアのお姫様は、怪訝な顔で俺を舐めまわすように上から下まで見て、一言。


「こんな変なかっこのやつが救世主なわけない」


そうだ、俺はTシャツに短パンという姿だった。寝たときそのままの格好。このファンタジー世界では変と言われて当然だ。


「だからだよ。異世界から召喚された救世主が普通の格好してるわけないだろ」


そう言って俺は、右腕の単龍紋をはっきり見えるようにアピールした。もちろんアケリアのお姫様の表情が驚きに変わった。


「ま、まさかぁ、こんなのが救世主?」


「まさかでもなんでも救世主らしいぜ、俺は」


「名前は?」


「直人。比企屋直人」


「ボクはアルティナ。まあ、確かにアケリア王の第一王女だね」


「おまえ、ドディやジャンヌを助けて戦ったんじゃないのか? それがこんなところでつまらない人助けかよ」


むっとした表情のアルティナ。まったく表情がころころ変わるやつだ。


「もう、どうしようもなくなってるんだ。街の人も不安で……ちょっとでも不安を取り除ければと思って……」


「どんなことをしてもアケリアを救おうと思わなかったのか? そんな小さな親切よりもさ、もっとやることあるだろ」


「あんたに何が分かるんだよ! だから救世主を待ってたんだ! ドディが太陽神の光に飲み込まれる前に言ってた」


今度は曇った表情。


「分かった分かった。さっさと俺をアケリアの王宮に案内してくれよ」


「あ、あたしはこれで……」


そう言って、フォンシーヌは去っていく。もう会うことはないだろう。


俺はアルティナについて駅に向かっていく。こいつ、お姫様のくせに汽車で街に出かけてたのか。自分の創ったキャラながらとんでもないことをしてると思わないのか?


まあいい。


――俺氏、アケリアの姫君に出会いました。とんでも姫君に。

更新遅れました。サーセンww

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ