俺氏、とりあえず救世主として世界を救うつもり
俺は自分のかつて創った厨二世界に召喚されてしまった。
そう分かったのは何もタンリュウモン、いや単龍紋という腕の痣のためだけではない。まあ呼び名からして、いかにも厨二病患者が創った単語だが、それ以前に、部屋の様子がまるで現代日本と違う。
中世ヨーロッパ。ではない。むしろ十九世紀の世界が科学の時代へと進むころのイメージ。中二のころはやたら歴史とかそういう本を読み漁っていたので、その影響だろう。今、目の前にいる少女の部屋はまるでパリのアパルトマンだった。窓の外から見える景色もまるで欧州だ。
彼女の容姿はといえば、セミロングのウェーブのかった黒髪、垂れ目がちで瞳の色は日本人と変わらない。そしてスタイルは抜群だ。さっき揉んだ感覚だとかなりある。さすが俺の厨二妄想だけある。すごくかわいい娘だ。髪の色や瞳の色から察すると、彼女はイクソニア人。ということは、ここは『コンティエント大陸』のどこかなのだろう。
そして、確認のため俺は彼女に尋ねた。
「あ、あの、ここどこなんだ?」
少女は胡乱げな様子でこちらを見つめている。当たり前だ。俺は彼女のおっぱいをもみもみしてしまった。
しばらくの沈黙。俺はまず彼女に謝ることにした。
「さっきのはさ、不可抗力というか、いや、ごめん。本当に悪かった」
とりあえず謝っておけばいい、という風潮はあまり好きではない。だが、一番無難でてっとり早く相手の機嫌を直す方法といえばそれくらいしかないのだ。
「……アケト・アケルナよ」
やはりそうだった。その言葉で完全に俺がかつて創った異世界、英語で言えばアナザーワールドに転生したことを確信した。
アケト・アケルナ。それはコンティエント大陸にあるアケリア王国という大国の都だ。え? 厨二臭いだって? 当たり前だろ。中二の時創った世界なんだから。
俺はそのことだけを確認すると、外に出ることにした。ここにいても気まずい。まあよくある異世界召喚ものだと、ここで彼女とフラグが立つはずだが、そんなことはどうでもいい。俺は早く現実世界へ戻る方法を探したかった。無難な現実の生活、それが一番だ。こんな世界で生きていくのはまっぴらだ。
「あー、そっか。アケト・アケルナね。ありがとな。じゃ俺はこれで」
「待って」
俺が出て行こうとすると少女が声をかけてきた。だがあえて無視する。だが、少女がかけよってきて、俺の手を掴んだ。温かい……いや、こんなものに騙されてはならない。
いや、と俺はここで思い直す。ここでもう少し彼女から情報を得てみたかった。俺はくるりと振り返り、彼女のほうを向いた。けしてスケベ心が湧いたわけじゃないからな。
「あなたの名前は?」
「俺? 直人。比企屋直人さ」
「ナオト、西方のジャヴァン人のような名前ね」
そう、おれはこの世界に日本のような国も設定で創っていた。コンティエント大陸がアメリカの位置、そしてここから西大洋といういかにも中二臭い名前の大海原を越えたところにあるのがジャヴァンだ。
「あたしはフォンシーヌ。フォンシーヌ・ブランベルゼ」
中学生のころはドイツ語名とかイタリア語名とか分からなかったので、名前とかけっこう適当につけてたものだった。まあ彼女はフォンシーヌというらしい。
「俺のこの紋について何か知ってるのか?」
「それはそうよ。だってあなた、救世主なんでしょ?」
「救世主?」
そういう設定は創ってはいなかった。ただ、召喚されたからにはそういう設定もありなのだろう。
「世界がどうかなってんのか?」
「どうにかなってるどころじゃないの。マダールの神が復活に成功して、ユーロペはほとんど彼らの支配下に置かれたのよ。コンティエント大陸もアケリアの国王や亡命した人たちががんばってるけど……もう時間の問題。あたしたちイクソニア人はマダール人の奴隷にされちゃうのよ!」
そういって彼女は首を横に激しく振った。
「で、俺が救世主ってのはどういうことなんだよ」
「あのマダールの王、レン・ダスターとかいうやつがレダ神の宝珠を使って神の力を手に入れようとしたときね。それを防ごうとした二人の男女がいたの」
レン・ダスター? おいおい、ちょっと待てよ。俺が創った設定によれば……。
「その二人ってドディとジャンヌって名前じゃなかったか?」
「まあ有名だものね。その二人がレンを止めるのに失敗して、一緒に戦ってた仲間を逃がすときにその仲間に告げたの。『異世界から救世主がやってきて、かならず世界を救う』って。その救世主には創造神エテルナの紋章、単龍紋があるって。だからナオト、あなたは」
「――救世主ってわけか」
くだらない。どうしてこうなった。本来の設定なら、俺が創った物語なら、ドディとジャンヌはレンを止めていたはずだったのだ。
どこで話がネジまがった?
俺をこの世界に召喚したあいつのせいか?
「さ、お城に行きましょ」
やっぱそうなるのか。お城と言えば、アケリアの宮殿、ヴァルト宮殿だ。
「分かったよ……俺は救世主だ」
俺は流れに乗ってみることにした。それしかこの世界から出られるきっかけがないから。
――俺、救世主としてこの世界を救ってみることにしました。めんどいけど。
なんとか更新できた……。話がどう転ぶのか自分でも分からない。ノープロットサーセンww