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折り重なる答え

 泣き止んだ後も暫くは雅人さんの胸を借りてしまった。その後、頭を撫でられて、雅人さんは何処かに行ってしまった。少し時間が経ち、我に返った僕は今羞恥心に襲われている。


(ああ―…穴があったら入りたいって言葉がすごくよくわかる)


体育座りをしながら顔を埋め悶えていた。絶対人に見せられない顔をしてるに違いない。それにいくら心が弱っていたからって醜態をさらしてしまうなんて馬鹿なんだろうと!!

ため息一つ吐く。やってしまったのはどうしようもないのだけれど…。

 後ろからカチカチッと何か音がする。たぶん食器の音。ソファの背もたれに隠れつつちょっとだけ後ろに振り返る。そこに見えるのは雅人さん。料理をテーブルの上に並べている。


(ああ、届いたのかなぁ)


そう言えば電話で頼んでいたもんな。本当なら手伝いとかしたいのだけれども、もうちょっと落ち着かないと手伝う事も無理そうだ。

 でも生徒会長様が食器を並べてるなんて不思議な光景。用意してもらうならすぐに想像は付くけど、その逆なんてつい凝視してしまう。

 珍しいからのじっと見てしまった着眼点も時間が経てば、見るところは変わってゆく。やっぱり見とれてしまうのは美人だからなのか。


(本当に綺麗だよなぁ―…っていかんぅんんん!!一体何を考えているんだあああ!!!!)


我に返って、すぐにソファに隠れる。資料室でも思ったことだが、まさか自分が二回も見とれるとは思わなかった。おっ恐ろしや抱かれたいNO.1。

 気を紛らわしすために何か別のものを考えた方がいいだろうと辺りを見渡す。すぐに目についた時計を見て驚いた。もう21時30分過ぎている。いつの間にそんな時間が経ったのだろう。目を疑った。そして冷や汗と息を飲む。


(……怒ってなきゃいいけど)


思い出したくないけど、同室の転校生の姿が浮かぶ。考えるだけで気分が重い。


(今日はどうかな……)


気まぐれで、当たられたりするから、日によるけど。何故か僕が遅く帰ったりすると不機嫌で問い詰められたり、変な言いがかりをされたりする。転校生自身はお泊りとか、遅く帰ってきたりするくせにね。本当めんどくさい。どうしてこう思いつくことは嫌なことばかりなのだろう。頭が痛くなりそうだ憂鬱でしかない。いっそのこと寝ている時間にこっそり帰ろう。シミュレーションをしてみる。ひっそりとドアを開けて素早く自分の部屋に入る。簡単に想像出来るが、


「どこぞの旦那か…」


引いた自分にボソリっと自分に突っ込む。どうしてそこまで…


「何が旦那だ?」


後ろから突然声が聞こえ、びっくりして振り返ろうとしたら、後頭部を鷲掴みされ、わしゃわしゃ髪を撫でられた。いつのまに雅人さんが居たのだろう。全然気づかなかった。


「よくわからんが、まぁ…支度できだぞ。食べようぜ」


振り返ると笑顔の雅人さん。何故だかご機嫌らしい。すぐに頷き僕はソファから立ち上がった。が、雅人さんが一瞬きょとんとして、僕を見詰めていた。


「ああ、……まぁ、後でいいや」


「?」


よく解らず首を傾げてを雅人さん見詰めてしまう。が、雅人さんは何事もなかったようにそのままテーブルの席についた。


(なんだったんだろう?)


疑問に思いながら雅人さんの向かい側に座る。料理はデミグラスソースのハンバーグで、コーンスープとサラダも付いている。とても美味しそうな香りがして、空腹を刺激する。色々ありすぎて忘れてたが、僕もお腹空いてたんだなって今更自覚した。


「それじゃ」


「はい」


「「いただきます」」


手を合わせて先ずは一口。肉のうま味とデミグラスソースが絡んで美味しい。さらに進む。でもたぶん誰かと食べるってことが一番の幸せなんだろう。好意的に誰かと食べるなんて久しぶりだったからなんだから嬉しくてつい、口元が緩む。無理やりに付き合わされた食堂の料理なんて、居心地が悪くて全然味がしかなった。そう考えるとこの時間を大切にした方がいいなっと素直に思う。


「美味しそうに食うな」


「へっ」


手を止める。まさか見られていたとは、カッと頬が熱くなる。微笑みながらこっちを見なくてもいいのに。ちょっと目線を逸らしながら、言葉を選ぶ。


「いや、だって…、美味しいからつい」


「うん、美味しいもんな」


雅人さんもそう言って一口食べてる。ああ、平穏ってきっとこういうときに使われる言葉なんだろう。また一口分口に運んだ。


********

 談笑を交えながら食事が済んだ。他愛もない話だったけどとても楽しかった。あっという間の30分。そしてまさかデザートまでも出てくるとは思わなかった。冷えたゼリーは甘くて美味しい。スプーンを刺したところで、


「資料室でのことなんだが、なんでこんな所で作業してるかって聞いてきたの覚えてるか?」


切り出したこの話題に雅人さんを見つめてしまう。まさか話してくれるとは思ってなかったから。


「覚えてます。不思議でしたから…」


「やっぱり不思議だよな。普通は生徒会室でやるからな」


雅人さんは苦笑しつつ、話を続ける。


「たぶん、実と繋がってるだろうなって思うだが、まぁ原因は“転校生”だな。聞いたことあるだろう?あの噂」


「あの噂…生徒会メンバーの生徒会長以外を落としたって噂ですよね?」


「そうそう。実際事実だしな…アレにはすごく迷惑してる」


迷惑してるって言葉の辺りが寒気を感じだ。よほどイラついているのだろう。目が据わってる気がするし…。


「で、今生徒会室がどうなっているかというと…」


「たまり場ってわけですよね?」


予想が付くから言ってしまった。思い当たる節がある。


「よくわかったなぁって…実ってじつは生徒会室きたことあるんじゃねえ?」


「ええ。だぶんですけど…豪華な部屋には連れまわされた記憶があるので」


これも思い出したくない過去だが、今はあの豪華な部屋を思い出してみる。教室2個分ある入るんじゃないかって部屋で、ドア付近にソファがテーブルを挟むように置かれていて、ちょっと言った先にパソコンが数台置かれた机が有り、ところどころに紙束が詰んであったような気がする。あとはずっと自分の足元を見ていたからよく思い出せない。


「連れまわされたってことは…やっぱり転校生の関係者かぁ」


「関係者というか同室なだけなんですけどね」


「えっ」


驚いた表情をした雅人さんにこちらもちょっとびっくりする。


「そんな驚かないでくださいよ。だからめんどくさいことに巻き込まれちゃいますよって注意したじゃないですか」


「なるほど。それでか…そういう繋がりねぇ」


今度は妙に納得した表情になっている。それもそのはずだろうっと僕も納得し始めているのだから。たぶん雅人さんも同志なのだろう。


「そうですよ。ただでさえ、『お前と俺は友達でお前の友達も俺の友達』とかいうわけのわからない考えの持ち主なんですから…」


「ああ、そうだった。厄介だよなぁ…」


なんとなくだが影を感じて、何かあったのだろうっと不安になりつい、


「やっぱり生徒会室でも何かあったのですか?」


「…備品壊されたり、パソコンのデータ飛ばされたり、作業の邪魔して遊ぼうとか言ってきたり…な。色々だよ。それに皆がまさかアイツに惚れるとは思わなかったさ。もう可笑しいほどに。……だから資料室が今の生徒会室みたいなもんだ!全然処理が追いついてないけどな」


始めは困った言っていたように見えたが、最後は絶対笑みで誤魔化していた。きっとこの笑みは嘘なんだろう。だって、今まで見てきた中で不自然だ。きっと悔しい思いも裏切られた悲しい思いもしてきたのだろう。だから余計言葉が出てこなかった。


「で、実も落ち着いたと思うから聞くが、その手首は…」


「ああ、転校生ですね。馬鹿力なんで」


そっと片手で隠しながら淡々と答えた。今更相手を隠す必要もないから言うがやっぱりこの手首を見られるのは少々嫌だが両手首だから隠しきれるわけがないのだけれど。


「そうかぁ。後で湿布貼ろうな」


「えっいいですよ」


「早く治した方がいいだろう!大人しく治療されとけ!!」


「あっはい!!」


さっきの優しさはどこへやら…。一瞬で出会ったときの雅人さんに戻った気がする。ここは大人しくしてよう。口に運ぶのを止まっていたスプーンを動かしゼリーを食べようとした瞬間。


「あっ実。いい忘れてたが、明日から生徒会長補佐だからよろしくな」


食べようとしていたゼリーがテーブルに落ちる。今とんでもないことをサラッと言ったよなこの男は?

自身の耳を疑いたくなったが、聞く勇気もなくて、固まっていたら、また同じ事を言われ絶望に落とされるまで後数秒。

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