何もかも広い
静かな廊下を雅人さんに抱えられながら進む。
今日は色んな事がありすぎた。なんでこんなに事が悪い方向に向かうだろう。誰にも関わりたくなかったのに。こうなってしまったものをどうにもできるわけじゃない…。もう考えたくなくて顔を隠すように埋めると、またタオルが頭にかかった。どこから出したか不思議だけど…。
「大人しくしとけよ」
答える気力もなく。ただ運ばれるままにじっとしていた。
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暫くしていくつかの機械音を耳にして、あるところで止まり、なんだろうと思ったら、タオルを取られた。ずっと目を瞑っていたから視界がぼやける。何回か瞬きした後、確認してみたら、どうやらここが目的場所らしい。きっとここが雅人さんの部屋なのだろう。そっと横抱きからは解放された。流石に自室には開けれなかったのだろう。もっと早く下ろしてくれても構わなかったんだけど、たぶん雅人さんのプライドだろう。
それにしても豪華だ。通路だけでも息を呑む広さと静けさだ。さすが私立と言うべきだろう。忘れていた事だが、生徒会メンバーには、特別フロアが設けられている。このため特別な用がなければここには一般生徒は入れない。まぁ考えれば入れない理由はすぐに思い当たる。
(……一様、お呼ばれはしたけど本当にいいのかなぁ)
今更ながら弱気な考えが浮かんでしまう。落ち着かずそわそわと辺りを見渡す。
通路の紺色の絨毯はもふもふと柔らかいし、照明も優しく照らしてお洒落だ。ホテルと言われても違和感がないくらいになのだ。それに部屋の鍵は漆黒のカード。僕の部屋の鍵は、白地に部屋番号が書かれたカードなのに、雅人さんが使った漆黒のカードは何も書かれておらず、特別な感じをひしひし感じる。
色々なことに呆気に取られていたら、玄関先で笑っている雅人さんに、
「そんなところに立ってないで来いよ」
「はっはい」
思わず、声が上ずってしまった。
(……恥ずかしい)
熱くなる顔を隠しながら、小走りに部屋の中へ入るが中も予想通り広かった。それ以上かもしれない。 ダイニングキッチンがなにより惹かれる。広いし、使いやすそうなのでつい見いってしまった。
(あんなところで作れたらなぁ……)
しかもリビングも広い。白と黒ので統一される。大きいテレビが置かれており、それを観賞するためのソファーがふかふかそう。くつろぐには最適そうだ。ソファーなんて僕が横になっても余裕だろう。いや、余るなこれってほどでかい。
「すごいですね」
「ああ、広すぎだろう。まだ部屋あるしな」
思わず漏れた言葉にしれっと返した雅人さんだが聞き捨てならない。ついつい反射で、
「えっまだ有るんですか!?」
食いつくように聞いてしまったが、どうやらそれがおもしろかったのだろう。綻んだ笑みを僕に向け、
「驚きすぎ。ここじゃ寝られないだろう?」
「そっそうですね」
考えればわかることなのに、言われて気づくなんて恥ずかしい。きっと可笑しな顔になってるだろうから、さりげなく辺りを見ている風にしてそっと顔を反らした。上手くいったかはわからないが、雅人さんは、構わず他の部屋の事も教えてくれた。
「他に寝室と風呂、後は使ってない客間が数部屋かな。…まぁ物置に近いが」
「へー」
「広すぎて使いこなせてないがな」
苦笑する雅人さん。こんだけ広ければ、僕だって使いきれないと思う。感心しすぎて、周りをついきょろきょろ見回していたら、雅人さんが急に僕の手を握り、
「こっち」
足がもつれそうになりながら、引っ張られ先は衣場と風呂場。こっちも広くて驚いたが。しかし何故急にこんなところに連れてこられたんだと困惑していると、
「まだ夕飯来てねぇし、今は乾いたかもしれないが、入っておいた方がいいだろ」
「えっでも!!」
「シャワー浴びてる間に浴槽は溜まるだろうから、じっくり暖まってこいよ。いいな!!」
念を押されて雅人さんは行ってしまった。なんだか会話のやり取りがどこかの家族みたいだったなぁと頭に過りちょっと笑える。
確かにいくら乾いたとはいえ、気分的には嫌だったので、ありがたい心遣いだった。お言葉に甘えて入らせていただこう。
脱衣場も広かったが、やはり風呂場も広かった。結構な人数が居ても余裕だろう。これ以上驚かないためにも、私立の生徒会の特権はこうなんだと思い込むしかなさそうだ。