自己紹介
それから着替えたのだが、美人の“ちょっと”には騙された。このジャージかなりでかく同じ男として悲しい気持ちになった。この美人さんこんな大きかったのか。
確かに僕は身長低めな方だけど、これは凹む。邪魔くさい裾・袖は捲ったが、ダボダボ感は否めない。風邪よりはマシと考えて準備出来ましたって言ったのに、この美人さんときたら、驚いた顔でマジマジとこちらを見って固まってた。どうやら小さい僕に驚いたんだろ…。
(どうせジャージに着せられてるよ!!)
無性に腹が起ったものの、…あそこまで驚かなくてもいいじゃないかって思ったりする。
気にしたら負けと思い美人に、更に声をかけた。
「なにしたらいいですか?」
「ああ、悪りぃ。あの書類を期限が近いのと、そうでないのと分けてもらってもいいか?ここに使ってないファイルあるから、まとめやすかったら自由に使って構わん。後読んで重要そうなのがあれば抜き出しとかも出来たらやってくれ」
「わかりました」
頷いてから行動に移す。言われた通りにドア付近の紙束を取りテキパキと別ける。内容を読んでみると、どうやら行事の資料や決まり事の報告などの書類。中には請求書なんかもあった。というか請求書が大半を占めている。損壊されたものの買い直しのようだ。しかも値段がゼロの数多い。さっさすが私立と言うべきか。ってこれ会計の仕事じゃないのか…。
首を傾げるが考えてみる。思い付いたの事は、この美人さんは会計さん?…だが、その考えはすぐに消えた。前に一度会計さんに会ったことがある。
『優に近寄らないでね〜邪魔だし、俺君嫌いだし、関わりたくないだよね』
にこやかに忠告された記憶がある。でもその笑いが怖かった。作った笑みだからだろう。それにそのときの会計さんはチャライ感じだったし、髪も茶髪でちょこんと後ろ髪を結わえていた。ちらりと美人さんを盗み見るが、記憶と全く違う人物。美人さんは赤髪の短髪で綺麗な顔立ち。チャライよりも、強引の方があってるし…。でも今はせっぱ詰まってるからちょっと強引なのかもしれない。それにしても凄い勢いで書類を片付けてる。つい見入ってしまったが、はっとして僕も手を動かす。
(ダメだダメ!!邪魔をしてしまったんだし、さっさとこの書類を処理して遅れを取り戻さないと!!)
気合いを入れて書類整理を勤しむ。
没頭して作業をこなし、なんとか数束の山の書類を分ける事が出来たが、まだまだである。例えるなら山の一角をちょこっと片付けただけで終わりは遥か先だ。
(終わりが見えないよ)
泣きたくなるが、時間は刻々と過ぎていて今は19時くらいだ。空なんてとっくに真っ暗。流石にこれは閉め出されるんじゃ…。
「あの…」
「…あっあ、なんだ?」
「時間大丈夫ですか?」
「へっ?…ああ…もう、そんな時間か」
不安になって聞いたら、美人さんが驚いていた。よっぽど集中してたんだなって思う。でも、片付かない書類に参っているのだろう。表情が暗い。
「終わりにしないとなぁ。あっそっちどうなった?」
「えっあの…早急に提出が必要なのはこっちで、こちらはまだ大丈夫です。後、資料はファイルにまとめておいたので、必要なときはこっちから…ぐふぅ、ちょっなん!!」
説明途中で抱きつかれた。ぐっと捕まれたために、変な声が出だしなんなのこの状況!??
「ありがとう」
「えっ」
「マジ助かるわ!!もうこう人材欲しかった」
なんかよくわからないけど、喜んで貰えてよかった。頑張って仕分けた甲斐があった。僕も嬉しくなるが、こう強く抱き締められては苦しい。息が詰まる。もがいても意味がないし…、
「…くぅっくるしいですぅ。」
「あっすまん」
必死に声を出して、なんとか解放してもらった。息を吸い込んで呼吸を整える。落ち着いたときに見上げたが、あることに気がついて愕然とした。やはりこの身長差に悲しくなる。さっきはしゃがんでたから気づけないけど確実に頭一個分は違う。
体格もいいから、どおりでこのジャージがダボダホなわけだ。べっ別に悔しくなんてないだから…、なんて考えていたら、
「本当今日助かったわ。ありがとう」
「はっはい!!」
急に声をかけられ我に返った。声が上ずってしまったのは仕方ない。でも元を返せば、こっちが悪いわけで、誉められることはしていないはず、首を振って、美人さんに、
「でも、こちらが迷惑をかけてしまったのでその言葉はもったいないですよ」
「そんな謙遜すんな!!こんな量こなせるやつそうそう居ないぜ」
笑う姿にドキッとした。これだから美人は特だと思う。まぁたぶんもう会うことないから、別にいいんだけど。あっでもジャージは返さないと…って美人さんの名前を知らないだ。いや、うん、気づいてはいたんだけど、今更感があって非常に聞きづらくて…。でもこのままってわけにはいかないから渋々声をかけ、
「えっとすいません。今更なんですけどお名前聞いてなくて失礼ですけど、お名ま…」
「はぁ!???」
“教えてください”と言う前に美人さんの声が被った。なぜか凄く驚かれた。が、すぐに笑いに変わり、何故だか頭を撫でられた。
「マジか知らないって!!お前天然記念物だな」
「ええっ!!そんなこと言われても…それに天然記念物なんですか!!ってなんの話ですか!!」
話が見えないし、考えたけどやっぱり失礼だよこの人!!
「ククッ…わりぃ。というか笑わせんな」
「勝手にあなたが笑ってるだけですよ」
呆れて反論する。が、効いてない模様。何様だ!!
「まぁいいじゃねえか」
「良くない気がしますけど」
「まあまあ。俺の名前は加賀雅人だ」
「っ!!」
加賀雅人でピンッときた事がある。聞き間違いだと信じたい。いや、同姓同名の可能性もあるし、そんなまさか生徒会長さんなわけが…
「ちなみに生徒会長だからなぁ」
あったぁあああ!!
そんなことがあった!!!!
否定してたところに爆弾落とされるとかそんなことって!!!!
それに再度ドヤで言われました。
ていうか本人か!!!
まさかの本人なのか!!!
驚きすぎて、目を見開いてしまい、声も出せなくて、呆然としてしまった。だって予想もしてだけど、でもまさか人気No.1の人が目の前にいるってありえない。普通なら遠い存在の人だから…。
見つめすぎたのだろう。生徒会長さんが心配そうに、
「大丈夫か?さっきから固まってるが」
「…えっあっはい!!大丈夫です。ちょっと驚いちゃって」
固まった頬を無理やり、口角を上げ笑みを作るが声が震えてしまう。でも笑みを作れた事だけでも自分を褒めたい。
「そんなに驚いたか」
優しい笑みが僕に向き、またよしよしと頭を撫でられた。生徒会長さんは撫でるの好きなのかな。撫でられるのは嫌いじゃないからそのままにした。
が、生徒会長さんの顔を見ていたらふと思うことが…普通なら生徒会長さんが仕事をする所って生徒会室じゃないのかな。こんな資料室に生徒会長が仕事しているはずなんてないのに…。
(あれ……?なんでこんなところに要るんだろう)
思わず首を傾げてしまう。が、生徒会長さんがなんだっと覗き込んできてビックリした。顔近いし!!どぎまぎしながら、
「えっと…なんでこんなところで作業してるんだろうって思って」
「ああ…」
さっきまで笑顔だったのに、僕のその一言で曇らせてしまった。こんな表情になるなんて思いもせず慌てた。聞いてはいけなかった事を考えなしに言ってしまった事にどうすればいいかわからずオロオロしてしまう。何か言いたいのに口を開いても言葉が続かない。弱気な心がつい表面に出てくる。
「別に無理なら話さなくても」
「あっいや、すまん。俺が雰囲気悪くした……。だからそんな顔すんな!!今ちょっと話せないけどまた後で話すから」
「でも…」
「話す!!でも時間かかるから…って、あっえっとごめん俺もお前の名前知らなかった」
すまなそうに話す姿に思わず笑ってしまった。知らないのは当たり前なのに、ちょっと強引だけど素直な人なんだなぁ。
「良いですよ。佐藤実と申します」
「佐藤実。実な」
生徒会長さんも笑い返してくれた。こういう暖かい人との接し合いが久しぶりで心がほくほくして嬉しい。つい口許が綻ぶ。
「よし、それじゃ飯だ飯!!」
生徒会長さんはもう食べるき満々なんだろう、とてもはしゃいでいるように見える。これは邪魔したらいけないな。それに僕の腹の虫も暴れ始めてついお腹を押さえる。早く退散しよう。僕は一礼して、
「じゃこれで僕は失礼しますね。じゃっ「ちょっと待って」えっ?」
ジャージの事を聞こうとして際切られた。あのはしゃぎようから一変してどうしたと言うのだろう。きょっとんとしてしまうが、生徒会長さんは拗ねたように、
「てっきり俺と一緒に食べると思ったんだが…」
「……えっなっはっ??」
彼が言った日本語のせいで頭が真っ白になる。
「……だから一緒に食おうって言ってんだ。ちゃんと聞こえてるか?」
「えっはい!!」
呼ばれて我に返った。まさか一緒に夕飯を食べるとは思ってなくて、戸惑ってしまう。
(誘われたんだよ…ね?)
そう考えるととても嬉しくて、笑みを浮かべそうになるが、すっと暗い影が頭の中で過る。
「でもご迷惑じゃ…」
「迷惑じゃねぇよ!!こんな時間に食堂行っても込んでるし、俺の部屋で食ってけ」
有無を言わせない笑顔で言われた。確かに今の時間帯だったらピークだろう。混雑してるし、それにもしかしたら、あの人たちが居るかもしれないから尚更避けたい。が、まだ荷物が教室に置きっぱなだ。取りに行かないといけない。ここからだと別の棟なため、教室までかなり距離がある。生徒会長さんを付き合わせるのは申し訳がない。
「やっぱりごめんなさい。気持ちはとてもありがたいのですが、教室に行かなくてはいけないので」
「そんなことか」
思いもしない言葉が聞こえた。このまま解散だと思ったのに、僕の肩をポンッと叩いて、
「付き合うぜ。一人で飯食うより、二人の方が美味いからな」
「でも、ここからだと距離ありますし!!」
「ごちゃごちゃうっせなぁ~さっさと来い」
言うなり、生徒会長さんは荷物を持って、ドアのところで待っててくれてる。僕も慌てて、濡れた制服を掴み生徒会長さんの所に駆け寄る。教室に向けて歩き始めると生徒会長さんが、
「そいや教室はなん組だ?」
「……2年A組ですけど」
「えっマジ!???」
声を上げて詰め寄られた。なにもそこまで驚かなくてもいいのに思うほど、驚き方だった。
「本当ですよ」
にこやかに返す。やっぱり驚いてしまうよね。そりゃ同い年だもんね。緑のジャージ渡された時点で僕は気づいてたけど(学年別に色分けされていて今年は一年は赤、二年は緑、三年は青となってます)。やはり見た目が小さいから、勘違いしてたんだなって苦笑いになってしまうけど。
「ごめん。まさか同い年だと思わなくて」
「いえ、慣れてますから気にしないで下さい」
しゅんと謝る姿が、なんだか可愛らしく思えてしまう。出会ったときの印象と反対だからギャップに驚いてしまうけどこっちの生徒会長さんの方が好きだなぁってちょっと思う。自然に頬が緩み、
「それより急ぎましょう。お腹ぺこぺこなんでしょ?」
「ああ」
呆気に取られた生徒会長さんを急かして向かう。
(……でも僕の荷物無事だといいんだけどね)
嫌な予感がしてるけど僕たちは2年A組に向かう。