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ピンチ

 僕は荷物を持ち、孝太さんの後ろに付いていた。孝太さんはドアに張り付くように向こうの音を伺っていて、安全を確かめているみたい。もし開けて誰か居ても僕を見せないためとか言ってたけど、多少時間は経ってるからそろそろ諦めてくれたと信じたい。

 カチッと小さな音が聞こえる。鍵を開けて確かめてるみたい。今なら行けるかなっと期待したのだけど、多少の隙間しかなかったドアの間から第三者の指が入り込んだ。


「ひぃ!!」


思わず声が出てしまった。孝太さんも瞬時にドアを閉めようとしたけど一行にその間は塞がらず、今起こってる現状を例えるならやくざの取り立ての攻防戦みたいだ。それを孝太さんと誰かが僕の部屋のドアで繰り広げてるとか信じられなくて、ただただ呆然としてしまう。


「もうぅ!しつこいー!!そのうち相手に嫌われるぞおおお!!」


「余計なお世話だあああ!!!!」


二人の声が野太い。ドアはその位置で動かないところを見ると力の加減が互角なんだろう。このまま続くとドアが壊れそうな攻防戦の勢いにハラハラし、さらにこの騒ぎで向こう側の人が気付いてこの人と協力されたらもう…暗い考えしか思い付かない。が、急に扉が開いた。思わず孝太さんの背中を掴んでぴったりと隠れる。心臓がバクバクッと煩く脈打ち、緊張してしまう。


(これで叫ばれたら、もう終わりだ。皆来ちゃう)


想像するだけで冷や汗もの。ぞっと恐怖に襲われてぎゅっと孝太さんの背中の裾を掴む。すると孝太さんの片手が僕の片手を包み込んでくれた。大丈夫って言ってくれてるみたいで少しだけ思考が戻る。

 二人共体力を使ったから息が荒い。静かな部屋に響いていたが、口を切ったのは孝太さん。


「はぁ…。足技とか卑怯!というか、やめてくれない。超迷惑だわ」


「はああ…。折角オネエ言葉やめてくれたのかと思ったのにつれないね、こ・う・ちゃ・ん・は~」


「やめろ、キモイ、ウザイ、変態とでも言ってあげましょうか?」


「やだ~俺そんなキャラじゃないし~」


今まで聞いたことがない低い声を孝太さんが出して驚いた。それに軽く流すこの声にも。なんで、なんでこの人…会計さんがわざわざ無理やりにでもこの部屋に入ってきたのかわからなくて混乱しかけてた。


「それにしても、平凡くんの部屋何もないね。あっもしかして辞めるのかな?それなら嬉しいかも」


「…」


「でも、なんで孝ちゃんがいるのかな?すごい不思議なんだけど~」


「…」


「もう急に無言でも困るな」


「…喋るだけで空気汚れるから黙れこのゴミが」


「わぁこわい」


全然相手には効いてないようで笑って流してる声が聞こえる。今絶対笑える雰囲気じゃない。冷たい、いや、あのおおらか孝太さんがここまで変貌するくらいだから、過去になにかあったに違いない。と思うけど、僕は何も出来ないし、グッと唇を噛む。


「それに、隠れてるつもりだけどもう一人いるよね?まぁ姿はちゃんと見えてないけど、鞄とかあからさまだし」


バレてた。体がビクッと震えてしまったけど、所詮身長で完璧に隠れていたとしても足元見ればバレるよね。それに僕ジャージのままだから色でもわかりやすいし…笑いたくなっちゃう。


「お前には関係ないだろ。それより退け」


「俺としてはもうすこーしお話したい!あっ向こうのやつらは気にしなくていいよ。たぶん、ホットプレートでお好み焼き作るのに集中してるから当分来ないから」


本当かどうかわからない口調で言うこの会計さん。


「いいから!!」


「もしかして俺が居たこととか気になっちゃう?気になっちゃう?」


「気にならないし、邪魔だし、存在から消えて貰えませんかね?」


「うーん、そっか気になっちゃうか」


会計さんはとても愉快に言うもんだから、本当に神経図太いだか、それともズレてるのか判断出来ない。けど、ここのままだと確実に孝太さんのストレスが爆発しかねない。早くなんとかしないと!!でも最善の逃げるという経路は完全に会計さんが邪魔をしてるようだし…。

 色々無い頭で考えても良い案なんてすぐ思いつくわけもなく、孝太さんと会計さんの話は進んでいく、


「ダメだよ~孝ちゃん?ちゃんと静かに話さなきゃ。ダダ漏れだよ?」


「…」


「でも安心してよ。皆には言ってないからさ。…まぁ俺平凡くんには全然興味ないからどうでもいいんだけどね?孝ちゃんの声が聞こえてきたときびっくりしたけどさ」


嬉しそうな声で喋ってる会計さん。きっと表情も嫌な笑み浮かべてるんだろうな。そう思うとぞくりっとする。でも皆に知らせてないということはまだこの状況はマシなのだろうか…いや、全然良くないけど。


「でもダンマリも飽きたなー。せめて、もうひとつ答えてくれたらいいよ」


「…なんだ」


「やった。この部屋で何してたの?」


「チッ……、佐藤の荷物を頼まれてまとめてただけだ」


あからさまな舌打ち。これ耐えきれるのかな?だっ大丈夫なのかな。もう不安しかない。やっぱり飛び出すべきなんだろうか。


「へー。でもなんで孝ちゃんが?」


「答える気はない。ひとつの約束だ。その綺麗だとほざいてるチワワを泣かせるようなくらいの整形してやろうか?」


「あー…それは勘弁してよ。優にも気に入ってもらってるだからさ!それに痛いの嫌いだし」


舌打ちにも動じず、あいかわず愉快に話す会計さんの神経を疑いたい。


「まぁたしかに、質問はひとつだったもんね。しかたない。見逃してあげるよ」


「…気持ち悪い」


「そういうの孝ちゃんだけだからね」


「あと後ろ向いてろ!」


「えっ何当然?なんでさ」


「…痛い思いしたくないだろ?」


「はいはい」


握られていた手が急に引かれる。さっきまで見えなかった会計さんはちゃんと後ろを向いていて約束を守ってくれてるようだった。そんな光景も一瞬で靴なんて履かずに僕の部屋を後にし、とにかく誰もいない廊下を駆け抜けた。なんどか落としそうになる鞄をなんとか持ち直して、もつれそうになる足をなんとか動かしてとにかく逃げた。


********

 立ち止まったところは孝太さんと橘さんの部屋の前。よく孝太さんの足のコンパスでこけなかった自分を褒めたい。でも息が上がってもうのどが痛い。長距離の陸上をしたときの痛さだ。でもなんとか顔も見られず、帰ってこれたみたい。


「あとちょっとだから、頑張りましょ?」


「はい」


そう言った孝太さんはいつもどおりの笑顔で本当に安堵したのはこのときだった。


「さあ!おいしいご飯作るからね。楽しみしてて」


「楽しみだな」


「うふふ。腕によりをかけちゃうんだから。もちろんみっちゃんの手料理もいつか食べさせてね」


「精進します」


なんて会話をしながら孝太さんと橘さんの部屋に戻るのでした。

(会計視点)


ああ、孝ちゃんからかうの楽しかった。

それにしてもあんなに威嚇されるの珍しかったしな…。いつも大抵無視なのに。うーんそんなに後ろ子大事だったのかな?

後ろ向いてって言われただけだし、鏡くらい使ってもいいよねって思って使ったけど…。チラッとしか見えなかったなぁと。たぶん可愛かったと思う。

だからなのかなぁ…


「うーん、調べてみるべきなのかな…」

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