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回避した先には

 廊下を突き進むが誰ともすれ違わない。時間が遅いからだろう。通りがかた教室で時計を見たら、17時30分くらい。まだ夕日は見えるが空は暗く染まってきている。

ここまでくる間にくしゃみを数回している。


「ヤバイかなぁ」


健康が取り柄だったのに、皆勤賞逃したら悲しすぎる。とぼとぼ歩きながらまた、ため息を出しそうになった。

その時、遠くから声が聞こえた。これだけシーンとしてれば声が通るけど、この声は明らかにあの転校生の声だと察知した。しかも副会長の声も聞こえる。頭の中で警告音が鳴り響く。咄嗟に辺りを見渡し表札に「資料室」と書かれた近くの部屋に逃げ込み、素早くドアを閉める。夕日のおかげでまだ明るいが、若干部屋は薄暗い。ドアを背にしながら両手で口元抑え縮こまり耐えた。ドキドキと煩い音が大きく聞こえ、見つかりませんように祈った。だんだんと近づいてくる音は暫くしてからここの前を通り、そして小さくなって聞こえなくなった。


「よっよかったぁ」


完全に回避した安堵から力が抜けた。

今日2回目の災難なんて耐えられそうもないから余計に。

気を抜くとまたくしゃみを1つ。本格的に危ない気がしてきた。


「……帰ろう」


「おい」


「えっ」


言い聞かせのつもりで呟いた言葉に返信が来て驚いた。声のした方に向けば、赤毛の美人さんが仁王立ちで僕を見下ろして…。

しかもイライラしているようで、眉間のシワが深く刻まれて睨んでいる目付きも怖い。思わず固まってしまった僕は動くことが出来ず、呆然とこの美人さんを見つめてしまった。


「お前のせいで気が散ったじゃねえか!!」


「へっ?」


何の事だかさっぱりわからず、生返事になってしまった。


「へっ?なんだよ!!お前のドア開ける音が煩かったって言っていんだ!!おかげでこれ見ろ!!!」


突き出されたのは一枚の書類。文章がずらずらと書かれており、下の方にサインする所が有るよう。だが、名前の下記途中しかも、名字の一文字目でシュッと一本線が書かれて、明らかに何かに驚いて付いた線だった。と言うことはさっきのドアの開閉の音でこの美人さんを驚かしてしまった事がカチッと頭の中ではまる。それは怒るのは当たり前だ。


「ごめんなさい!!!」


血の気が引く顔で土下座する勢いで謝った。が、思いもしない言葉が、


「俺は謝罪が欲しいわけじゃないねえんだよ」


「えっでも」


じゃ何で返せばいいのかと僕は困惑していると、


「こっち来て手伝え」


手招きされて言われたが、行けるわけがない。でも美人さんが来ない僕を不振に思ったのか、僕の手を掴み「いいから来い!!」と言ったものの、すぐにその手は離れた。「冷てぇ」と声が上げて。そりゃそうだよ。僕は水で、ずぶ濡れなのだもの。美人さんの予想道理の声が上がる。


「なんで濡れていんだ!?」


ひどく驚いた顔してらっしゃる。そりゃ驚くよね…濡れてれば。言葉を紡ごうとするが、非常に答えにくい。制裁にされましたとか言えるものじゃないし…。迷っていたら、


「…よく見たら派手に浴びたなこりゃ」


どう答えるか躊躇している間に、冷静に観察されていたようだ。とにかく謝らないと気持ちが先行して、


「その…不甲斐な思いをさせてすいません」


「……」


深々と頭を下げたのだけど、沈黙が怖くて顔を上げられない。美人さんに不愉快な思いさせちゃったなぁとしゅんと落ち込む。不可抗力だけど、この部屋に入った僕が悪いだから……。


 不意に白い何かが頭に、かかりびくついてしまった。すると美人さんが「変なことしねえよ」言うなり、がしがしと頭をこねられた。何かはどうやらタオルようで、荒っぽいが髪を拭いてくれているみたいだ。突然のことにぽかんとしてしまう。


(あれこの美人さんさっきまで怒っていたのになんで!?)


頭が混乱してくる。思わず顔を上げ美人さんを見てしまう。


「なんだ?そんなに見つめて」


「いえ!!……その、えっと」


すでに混乱しているのにそう聞かれると、更にどうしていいのかわからなくなる。何か口ずさむが上手く言葉を紡げない。


「俺がやっちゃおかしいか?」


「いえ!!そうではなくて、僕なんかにやってもらうことなんてないじゃ…」


「無論タダじゃやらん」


申し訳なくて言ったのに、美人さんにドヤ顔で言われました。それはそうですよねぇ苦笑って頷き、もしかしたら理由がわかるかもとさりげなく周りを見る。


「…あっ」


ここからでも見える書類の山。かなり膨大な書類があることが簡単にわかった。それにさっきの“手伝え”って言葉を察するに…


「この書類を片付けるお手伝いをすればいいんですね」


「おっ察しがいいなぁ。こんなの一人で終わらせられるわけがねぇ」


「確かにこれは無理がありますね」


立ち上がって見渡したかぎり、隙間なく積み上げられた書類はとんでもない量だ。……でもなんの書類だろ?こんな書類が必要な所って、考えを導き出す前に、美人さんから、


「その前にコレ」


渡されたのは緑色のジャージと体操服。きょとんとして美人を見れば、にっと笑って、


「そのままだと風邪引くだろ。ちょっとでかいかもしんねぇーけどまぁ我慢しろよ。よろしく頼むな」


頭を撫でられた(タオル越しだけど)。子供じゃないのにとちょっとムッとしたのは仕方ない。


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