僕の部屋
孝太さんと一緒に僕の部屋に向かう。いつもと違う通路だから迷いそうだったが、なんとか迷わず着けた。自分の暮らしてる寮なのに迷うとか恥ずかしくなってしまう。本当真っ直ぐに着けてよかった。
ここの部屋もカード式で、いつも通りの制服の内ポケットに…
「あっ」
思わず顔をひきつらせる。今自分の格好は制服ではなくジャージだ。当然カードキーはなく、開けることのできない扉に呆然としてしまう。
「みっちゃん」
孝太さんに肩を叩かれ正気に戻る。カードが無いことを伝えようとしたのに、唇を人指し指で押さえられて孝太さんを見上げる形になる。
「まさくんから預かりものあったのよ」
小さめな声で言われ、制服の内ポケットからカードが渡される。それは間違いなく僕の部屋の番号がかかれたキーだ。どうして孝太さんから出てくるのかわからず、疑問だらけに頭を悩まされていたら、
「不思議そうね。クリーニング出すときに気付いたんですって」
「そうなんだ」
「そうなのです」
孝太さんがノリよく答えてくれた。つい面白くて僕も笑ってしまう。でも、なんで僕にじゃなくて孝太さんに渡されてんだろう。考えていたら、
「まさくん急いでたし、玄関で気付いたからみっちゃんに渡すチャンスなかったみたいよ」
「なるほど」
僕は頷く。確かに雅人さんたちは急いでいたな。やっぱり書類の溜まる早さは尋常じゃないのだろうか。それを手伝うことになってる僕も果たして役に立つのか不安になってくる。
しかし、こう微笑まれて孝太さんと話してると和やかになるのはなんでだろう。釣られて僕もわらってしまうのだけど。雰囲気から和らいでいるからなのだろうか。でも今はとにかく、荷物を持っていくことを優先にしないといけない。孝太さんから受け取ったカードキーで鍵を開ける。そっとドアを開ければ静まりかえった廊下。その廊下の左側のドアは僕の部屋。そして右側のドアはあの転校生の部屋。奥に行くとリビングで、リビングの手前が左側にある部屋がトイレ兼お風呂だったりする。
さっき、雅人さんからメールをもらったときは学校にいると言っていたし、安心して入っていいだろう。孝太さんとそっと中に入り玄関を閉める。
「居ないとわかっていても、なんかスリルあるわね」
「あはは。でも早く済ませたほうがいいのは確かにだもんね。僕の部屋はこっちだよ」
個人の部屋も鍵がある。プライバシーの関係でだと思う。めんどくさいけど、ここもカードキーをかざして開ける。だが、これもあの転校生には効かなくてあまり鍵の意味をなさない。何故だか知らないけど、マスターキーでも持ってるのか何度か入ってきて、無理矢理に連れ回された記憶がある。でもそれは内鍵がなかった話。今は寮の管理人さんに許可を取って簡易式だが自分で取り付けた。そのおかげでたいぶ侵入は防げたけど、今度は騒音が煩かったけど。連れまわされるよりはマシだ。
「…厳重ね」
その言葉に振り向くと孝太さんが怪訝そうに内鍵を見て呟いた言葉だった。それもそのはず、鍵をあと2個付けた。と言ってもつっかえ棒式のだけど。
帰ってこないだろうけど、不安で鍵を閉じてしまうのも癖だ。
「あはは。応急処置だよ。ちょっと待ってね」
孝太さんは何か言いたそうだったけど、それよりここから早く出たい。移動できるとわかったらそう思う。
クローゼットから大きな肩掛けバックを取り出す。そのバックに貴重品や衣類、残っていた勉強道具そして携帯を詰め込んだ。無駄使いしないように貯めたお金もいくらかあるから日用品は後でいいだろう。ざっと辺りを見回してこの部屋はこのぐらいかなっと、孝太さんに声をかけようと思ったら、
「それにしても、随分すっきりした部屋ね」
頬に手を当てて、何か悩んでいるようだ。首を傾げていると、
「…にしても物が無さすぎよ」
これには言葉を詰まらせるしかない。どうやら、待っている間に部屋を目星していたのか、なにか孝太さんの気に触れたようだ。
僕の部屋はいたってシンプルだ。ベットと勉強机とクローゼットしかないけど。
「綺麗にしてるというより、出ていく準備がされてる感じ」
「それはですね。えっと…思ってるとおりです」
もう的確に言い当てるのだから頷くしかなかった。どうしてこう雅人さんの周りはこう勘が鋭いのか。ため息を吐きたくなる。
「つまり、出ていくつもりではいたのね」
「ええ、いつでも辞めれるようには準備はしといた方がいいかなって…」
だから、荷物もいらないものはこないだまとめて捨てたし、家にだって送り返した。要る物もまとめておいたからこんなに早い支度できたのだ。あとはキッチンにある大事な道具を持ってくるだけ。
今までは何とか耐えてきたが、これがいつまで続くかわからないし。
「にしてもよ!これじゃ本当にただ勉強するだけの部屋じゃない!!日々を耐え抜こうっていうのに息抜き無くてストレスとか溜まるでしょ!もう趣味とか娯楽とかないの?」
またマシンガントーク。僕にとっては早いけど。そんなに気になることだったのかな。苦笑し出てこない。一様、あるにはあるがはっきり言って僕の趣味はそんなに得意ってわけじゃない。自炊を始めたら意外に料理を作るのが楽しくて、ついつい色々試すようになった。美味しいのが作れると楽しいし、今ではお菓子作りだってやるくらいだ。転校生が来るまではの話だけど。
「とにかく!みっちゃんは楽しいこと見つけましょ」
「わっわかった。でも、もう荷物まとめたし、あとキッチンのもの取に行くだけだから」
「キッチン?」
「ええ。これだけは絶対持っていきたいので、ちょっと待って下さい」
半ば聞かれる前に部屋を飛び出してた。ちょっと孝太さんの早くは苦手だ。いい人なんだけど。
リビングに入り、キッチンにそのまま行く。器具の棚を開き見つめる。本当は鍋も持って行きたいところだが、重すぎるからこれは諦めよう。やはり、包丁とお玉、菜箸、泡だて器も持っていきたい。あとはフライパン。さすがに重いかもしれないけど、これだけは置いていけない。包丁は危ないから近くに重ねてあった布巾を何枚か使って刃を覆う。それを持って孝太さんのところに戻った。
戻った時には孝太さんは僕のベットに椅子代わりに座っていた。
「それは料理器具?」
「うん。趣味?だよ」
「…なんで疑問なの」
「えへへ」
笑って誤魔化したら、ため息を吐かれた。何がいけなかったのだろう。
「それで全部?」
「はい」
でも抱えるように持ってきたらこれも鞄に入れなければ。孝太さんの隣に一旦抱えてた道具を置き。もう一つの鞄に詰め込んだ。
よし、終わったっと息を吐くと、孝太さんが立ち上がり、なぜか勉強道具とか入ってる。重い鞄の方を持っている。
「えっ僕がもっ」
「二つともみったんが持ったら意味ないでしょ。これは私が持つから」
「えっでも」
「それに荷物が少ないおかげで一回で終わるとは思ってなかったし。…あまり長いも良くないでしょ?」
うん、と頷いた。正直いつまでも転校生が学校の方にいるとは限らない。早く出た方が賢明だ。
「それじゃ、私の部屋に戻りましょ」
そう話した時だった。ドアが開く音がしたのは…




