どっどっどうしよう
取り残された不安もあるけど、こんなに視界が広いのは久々すぎてどうしようもない。孝太さんに任せて切ってもらった結果を鏡で見せてもらったが、全体的に短くなった。軽くワックスも付けて貰って清潔感と好印象を与える髪形らしい。
「どうかしら?マゼル、リラックスショートっていうのに挑戦したんだけど」
「いや、視界が開けてその落ち着かないというか」
「それは慣れよ!大丈夫」
そうかなっと切ったところを触る。短くて触り心地は良いけど。とても気恥ずかしい。
「本当は染めたいだけど。いいかしら?」
「えっ」
「確かにそのままでも十分なんだけど。ガラッと印象を変えるには染めてもいいと思うのよね」
微笑んでくれる孝太さんが待っててくれてるけど、自分では決めかねる。興味はあるけど、染めるのはちょっとって内心思っていたり、おどおどしていたら、くすっと笑われて、
「やっぱり嫌かしら?」
「その…ごめんなさい」
「いいのよ。それに見せ方は色々あるのよ?」
自信満々に言われ、目をぱちくりしてしまう。
「例えば化粧してみましょうか?」
「えっ!」
驚きの声を上げるつかの間にぐっと肩を掴まれて、
「大丈夫。落とせるし、見てから決めてもいいじゃない」
有無を言わさない状況に首を縦に振るしかなかった。
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まず、眉毛を整えられて痛かったり(抜かれてとか、ちっさなハサミでカットされたりとか)、目もビューラー?とか筆ぽいので書かれたり、うっすらファンデーションをぬられたり。なんか色々された。じっと待っていた結果はスッキリした爽やかな印象と化粧のおかげで目がちょっと大きく見えるきがする。僕と結び付くにはちょっと時間がかかるかもしれない。
これを素早くやってしまう孝太さんがすごい。まじまじと鏡を見てその技術に感動する。
「どう?変われたでしょう?」
「はい。髪型と化粧でだいぶ印象って違うんだね」
「ええ。素材が良いし、これで大抵はメロメロよ!!」
またウィンクされながら言われたが、それはないと思うことは黙っておこう。
「まぁこれは簡単な化粧だから、みっちゃんでも簡単に出来るわよ」
「僕にも!」
「そう。暫くは私が指導するけど。毎日はさすがに無理だからみっちゃんも覚えましょうね」
「はっはい!」
まさか、自分が化粧を覚える日が来るとは思いもしなかった。それにしても、ちょっと変えるだけでもこうも印象を変えるなんて、改めて孝太さんすごいなぁ。
「どうしての?みっちゃん」
「ええっ!あっちょっとぼっーとしちゃった。えへっ」
つい、笑ってしまった。が、孝太さんが両手で口元を押さえ、こちらを見てるなって思ってら急に肩を掴まれる。
「みっちゃん!」
孝太さんが急に声を荒げ、肩の掴む力も強いからビクッついてしまった。まさかこんなガッシリと掴まれるなんて思いもしないし、怖いし、固まるしかなかった。が、思いもしない言葉が耳に届く、
「可愛すぎる」
「へっ?」
「そんな無防備に笑うとか!もうぅー可愛すぎて私クラッてよろけちゃったじゃない!!みっちゃん、私の前とかまさくんの前ならいいけど。他の男子の前に無防備にやっちゃダメよ!可愛すぎるから、絶対ダメよ!!!」
「はぁ…はい」
何故だか興奮している様子だ。逆らわない方が良いだろうと素直に頷いておく。が、僕的には可愛くなれた気はない。孝太さんのおかげで良くなったとは思うけど、誰かを振り向かせるくらいかと、言われれば違う気がする。
もやもやと考えていたら肩を叩かれ、
「さぁ、行きましょうかぁー!」
孝太さんに微笑まれた。
「ちょっと待って…あの一体何処に?」
行きましょうと言われたが、心当たりがない。というか、今日は休まされて皆は居ない時間じゃないだろうか。壁にかかるシンプルな白い時計はまだ9時の半ばくらいだ。この時間は授業を真面目に受けていれば生徒が居ないはずだ。それを出歩くというのは気まずい。
「そんな困った顔しないで。ただみっちゃんの部屋に荷物の移動するだけだから」
「えっ」
「移動してる最中にあの転校生と鉢合わせしたら大変でしょ?だから、今生徒が居ない内がチャンスなの」
呆気に取られて、優しく言ってる孝太さんの話を頷くことしか出来なかった。
ここまで早く話が進むとは思っていなくて驚くばかりだ。
「まさくんのメール貰ったから、確実に彼は学校に行ってるみたいだし、ね」
「そうなんだ…」
居ないってわかるだけでも安心する。
「今のみっちゃん頭すごく撫でたいけど!セット崩れるから我慢するわ!!」
「へっ」
「理由もわかったところで行きましょう!」
掛け声を上げたと思ったら手を握られ微笑まれる。なんだこのイケオネェ!?
動揺しながらも頷き、この部屋を後にする。




