無自覚かバカなのか…(金髪さん視点)
佐藤を見送った後、素早く立ち上がり寝室に向かう。ノックもせずに入るのはいつも通り。幼なじみだから、遠慮するつもりはない。
扉を開けると大体着替え終わった雅人がネクタイと格闘してる最中だった。こっちに気がついた雅人が呆れた顔をこちらに向けくる。
「相変わらずだなぁ」
「良いだろう。別に~。お前の着替えなんて興味ないしー」
気にせず雅人を横切りベットに座る。
「はぁ…。で、話し合いはどうだった?」
「うーん。良かったかな。…ちょいビクビクしてたね。苛めたくなる感じ」
佐藤を思い出してくすっと笑ってしまう。が、雅人が嫌そうに睨むから、ついこっちはおどけて、
「冗談だよ。からかうのは面白そうだけどね」
「…ドSだもんな」
「まぁ否定はしないけど」
ため息を吐く雅人を尻目にして笑う。まぁ今さっきのやりとりの感じは、佐藤は真っ直ぐな子だと思う。バカチワワを相手にするより、断然楽しいそう。
まぁ俺が楽しい、楽しくないは別として、一番は雅人に危害が出るかどうかなんだけど。
「で、そっちはどうだったのか報告してくれない?」
「ああ」
支度をし終えた雅人が俺の隣に座り、試した結果を聞く。それに昨日の詳細も…。
*********
佐藤の今までの事を聞いた。電話では、資料室のことと教室のことを簡単に聞いていたくらいだったから、雅人に対してどうなのかと思ったけど。雅人に手出しするどころか、逃げだすくらいだから問題はないだろう。
雅人の行動でぐらつく輩では生徒会補佐なんて勤まらない。仕事が増えるだけとかごめんだからな。にしても…、
「佐藤は完全被害者だな」
「ああ。もう憤りを感じるくらいにな」
苦虫を潰したような顔をしてる。たぶん俺も渋い顔してただろう。
教室の荷物を回収した物は俺でさえ動揺するぐらい酷かったし、佐藤の手首も酷かった。
ここまで放置されるって事は風紀委員会もバカの息がかかった奴がいるのか…。調べる必要がありそうだ。後で探りを入れるか…。
「あのモジャ野郎を早くどうにかしたい!」
隣の彼は相当参っているようだ。目が据わっている。あはは、笑えない。
「それは俺も思ってるよ。過労で倒れる前になんとかしないと」
「…また被害が出てたりしてるのか?」
「出ない日があると思ってるの?」
質問を質問で返した。こんな質問返すのもめんどくさい。お互いに無言になり、暫く沈黙が訪れた。
そりゃ暗くなるだろう。こっちの問題は全然先が見えないのだから。いくらため息を吐いたって立ち止まってちゃ悪化するだけだ。
黙ってても話が進まないから、咳払いして話すきっかけを作る。この際ぶっ込んだ話も聞かなきゃならないし、
「まだこっちは聞きたい事が有るんだけど」
「なんだ?」
「なんで佐藤を抱きしめてたのさ」
「……」
雅人の目が見開いて固まる。そんなに驚く事だったのだろうか。寧ろ俺の方が驚いた事なんだけど。一緒の部屋で過ごしてみろっとは言ったけど、抱きしめて確かめろとか頼んでない。なんでそんな行動したのか。しかし、意外だな。雅人が初対面に近い人をここまで構うことに。そんなに佐藤が気になるんだろうか?
じっと雅人を見つめても固まったままだし、俺なりに暫く待っても返事か来ないし。色々考えているみたいだけれど、なんか頬赤いような。こんな表情をしている雅人を見ていると、ふと変な風に思考が浮かんだ。待つのにも飽きたし、俺のからかい心が疼くわけで、固まってる雅人の肩に手を置いて、ぼそりと呟くように、
「まさか好きとか?」
「…ばっバカ何言って!?」
俺の手を叩いて立ち上がり距離を取られた。
「いくらこの学園が可笑しくても俺は染まらねぇよ!!実はその…友達だ。たぶん」
否定してくる割りに顔が真っ赤なのはどうしてかな…。そして最後らへんしょぼんっとへこむ表情を見てて、お前はヘタレかと突っ込みたい。しかし、ここまで大げさにアクションを返してくれるとは思わなかった。これは、…確定だな。
「はぁ…なるほどね…」
「なんだよ!!」
「別に~」
予想外の雅人の反応が面白くて、ニヤニヤしながら言ってやったが、雅人に睨まれた。まぁ赤くなった顔で睨んでも効果はない。
「まぁ鈍感そうだからなぁ」
「なにがだよ」
「まぁ、頑張れ」
「意味がわからん」
不貞腐れた顔で言われた。が、とりあえず、俺は見守っていこう。面白そうだし。
なんとなくだが、雅人は無自覚ぽい。隠してるにしてもあからさま過ぎて叩きたいくらいだ。
(…鈍感そうだから落とすの大変そうだけどな)
ちょっとした時間での判断だからなんとも言えないけど。
「今なんか言ったか?」
「いや、何も」
危ない。声に出てたか。でも雅人は聞き取れなかったようだ。それならそれで流す。気になるようで目線が熱いが教えるつもりはない。
まぁ聞きたいことも聞いたし、
「そろそろ行かないとさすがに佐藤を心配させるんじゃない」
「ああ。そうだな」
納得はしてなさそうだけど無視して立ち上がる。突っ込まれても困るし、ふと目線を上げた先、見えた時計に思わず口走る。
「えっもう7時!!俺が早く来た意味ないじゃん!!」
「まだ十分早い」
余裕をかますバカを叩いて、思い出させる。
「バカっ!このフロアーから脱出しなきゃいけないだろ!朝からあの野郎とは会いたくないですがねぇ~面倒なんですがねぇ~」
「あー…」
雅人も渋った顔をする。特にあのクソメガネくんとは会いたくない。鉢合わせするリスクは少なくても、会うときは会うのだ。自分たちで回避出来るなら全力で回避するにこしたことはない。
「うーん。じゃ移動しよ」
「どこに」
「紗輝の部屋に移動してご飯食べよう。孝太にも話があるし、そこで話し合えばいいじゃね!うん、名案!」
「は!?ちょっなに決めて!!」
決まったとばかりに雅人が部屋を出て行く。慌てて追いかけるが、雅人は聞く耳を持たず、のんきに「お腹空いたなぁ」とか言いやがる。イラッとしてもう一発背中に叩きこんでおいた。




