面談
僕と親衛隊長さんは先にリビングに移動していた。雅人さんは着替え中。髪のセットやらなんやでお支度あるらしい。
その間に親衛隊長さんが僕に話したい事と、渡したい物があるからと、こうして向かい合って座っているわけですが、さすが!!親衛隊長さん噂で聞いていた通りの美人さんだ。西洋お人形さんのように整った顔。でもキリッとしてて、なんか男らしい。雅人さんの起こし方もすごかったから、大人しくは…ないだろうな。金髪は片方の肩口に流すように一つ結びされていて綺麗で、これは街中を歩いていたら振り返りたくなるくらいの美人さんだ。
そんなことを考えていたら、
「えっと確認だけど名前…佐藤実だよね?」
「はっはい。合ってます」
ちょっとどもってしまった。しっかりしなければ!!
親衛隊長さんは気にしてない様子で、テーブルの上にいくつか物を出した。それは見覚えがある物で予想外の物に驚いてしまった。
「それっ!!」
「昨日のうちに雅人から連絡もらって、佐藤の荷物は回収しといたから、鞄と体操着、ジャージね」
「あっありがとうございます!!」
座ったままだけど深く頭を下げる。だって嬉しかったから。雅人さんに駄目だと言われても、やっぱり手元にないと不安だ。結局処分することになるけど、また変なことされても困るし…。
だからまたこうして戻ってくるとは思いもせず、つい鞄を持った。
「手首どうしたの?って聞いても平気?」
驚きすぎてすっかり手首を治療されてたこと忘れていた。
「えっと…」
どう答えようか迷った。そりゃ湿布とテーピングで巻かれた両手首を見たら誰だって不思議に思う。素を曝してなかっただけよかったのではと考えるべきだな。
「……うまく言えないですが、あの転校生に掴まれて。えっと見た目よりは全然大丈夫ですよ」
「そう」
なにやら考えている様子だけど。親衛隊長さんはその一言だけであとは何も言わなかった。流してくれるなら、それでいいや。
受け取った物を確認してみる。が、やけに鞄が薄っぺらい。筆箱と…いや、筆箱しか入ってない。首を傾げていると、
「ああ、教科書とノートはこっちで預かったからね。あっ大丈夫、変な事には使わないよ。まぁ犯人探しはするけどね。お馬鹿な主犯の手書きだし、こいつらとっちめるには、いい証拠になるでしょ?」
「は、はあ」
笑顔で言っているが、さらっと怖いこと言う。正当な事だから、なんとも言えない。
でもどうしてもわからない事がある。今までの親衛隊の対応と違うし、身構えていたのに、どうやら味方ぽい気がする。
「あの…どうして」
「良くしてくれるかって?」
言葉を遮られて、的確な言葉を当てられた。びっくりして一瞬固まってしまったけどすぐに縦に首を振った。だって、今までの経験上一緒にいるだけでも反感を買ったのに、まだ何もされていない。差し障りのない注意くらいだ。そんな戸惑っていた僕を親衛隊長さんはくすっと笑って、
「雅人に頼まれたからもあるけど。あの泣き顔が良かったからね」
「えっ」
「雅人と取ろうとして挑発してくる子は居たけど、あんなに叫びながら不可抗力ですって言ってくる子は佐藤が初めてだよ」
親衛隊長さんは楽しそうに笑っている。が、発言に思わず引く。やっぱりなんか怖い。でもあのときの僕の顔はよっぽど酷かったのだろうか…。必死だったから仕方ないけどちょっと落ち込む。
「昨日のうちに調べさせてもらったけど。君は高校から入ってきた子だし、ノーマルでしょ?」
「はい。女の子の方が好きです!!」
そこは大事だから全力で答えた。実際に女の子の方が好きですし、勘違いされても困るから、僕は真剣に言ったはずなのに、
「ぷっあははっ」
突然豪快に笑われた。そんな面白いこと言ってないのにこう笑われるとどうしていいか解らずただ困惑する。何がツボに入ったかわからないが、女の子が好きだって言っただけで、こう笑われるのもいい感じはしない。が、ここは大人しく親衛隊長さんの笑いが落ち着くのを待つ。
わりとすぐに親衛隊長さんの笑いはおさまった。柔らかい笑顔でこっちを見られ、
「ごめん、ごめん。もう清々しいくらいに言うからつい。でもすごく珍しいよ。染まらない子がいるだけで貴重だし」
「は、はあ」
この場はとりあえず笑っとく。これは褒められているのだろうか…。
結果的に苦笑いしかならなかった気がする。
(そんなに珍しいのだろうか…。まぁ…うん)
周りの子を思い出してみた。が、確かにアピールする子は結構すごいし、特に親衛隊を思い出すと否定は出来ない。
つい、飛んでいた意識が親衛隊長さんの声で戻される。
「佐藤とこう話してても普通な感じがするし、俺から見ても合格かなとは思う。まぁ雅人と話し合いするけどね」
「…はい」
頷いたが何が合格なのかさっぱりわからない。が、頷いて流しておこう。この際、変な事でなければなんでもいい。
それに親衛隊長さんから欲しかったものを貰えたことが何より嬉しい。
「あの…着替えて来てもいいですか?」
「ああ。確かにそれじゃなぁ」
今まじまじ見られた気がするけど、気にしたら負けだ。僕はめげないと言い聞かせ、椅子から立ち上がり頭を下げた。
「ありがとうございます」
「いいえ。じゃ、いってらっしゃい」
親衛隊長さんに見送られて脱衣場へ。さすがに雅人さん居ないだろうし。やっと自分に合った服を着れるのがなによりも嬉しい。この残念な格好とはおさらばだ!!
「あっ佐藤」
「へっ」
急に呼ばれて振り返ると、にこにこした顔で、
「ちょっと雅人と話してくるから、もし着替え終わってもここで待ててくれるか?」
「あっはい。わかりました」
親衛隊長さんにもわかるように頷いて、今度こそ向かう。




