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朝だ

 暖かくて居心地がいい。幸せを感じながらもう少しこのままでと微睡んでしまう。が、もぞもぞと寝返りをうとうとするが上手くいかない。薄らと目を開けてみる。


(…誰かと一緒?……夢かな?)


暫くぼーと眺めて、思考が(かすみ)また目を瞑ってしまう。眠さは勝てないが……、


(こんなに暖かかったっけ?)


さっきよりも覚醒した頭で再び目を開ける。やっぱり誰かが目の前に居た。とても綺麗な顔。赤い髪流れて朝日に当たって綺麗でこんなに近くて…近い?


「〜っ!??」


びっくりして飛び上がった。…つもりだった。腰回りをしっかりと捕まれて距離を取ることが出来ない。なんでこんなことになってるのかもわからず慌てるしかなかった。

 確か僕はベッドから抜け出して、床で寝てたはずだ。


(多少寒かった気もするけど居心地は快適だったし、まさか寒さで潜り込んだ!??

……いや、いや、いや、そんなことあるはずかない)


首を振って思い直す。だってちゃんと雅人さんが寝てから実行したわけだし、こんなふうに抱き締められて雅人さんと寝ているわけがない。


(大丈夫。うん大丈夫)


なんとか自分に言い聞かせて、少し落ち着いた頭で改めて雅人さんに近さを考える。特に顔と顔の近さだ。拳一つ分あるかないかの距離。近すぎる。


(これは……緊張しないわけが…とっとにかくこの状況を打破しないと!!)


雅人さんの手を退かそうとして、背中に手を回すが、Tシャツもしっかりと掴まれてるようで引き剥がすのは無理だ。これは起きてるんではと思うくらい力強い。…僕が非力なのかもしれないけど。

 夢の中に旅立っている本人は幸せそうな寝顔をこちらに向けている。僕も同じように寝てたままだったら幸せだったなぁ。ため息を付く。

 起こすのは忍びないけど、僕が耐えきれないからもう起こすしかない。最初は遠慮しがちに声をかけた。が、変わらず穏やかな呼吸音。足りないのかと更に声を大きくして呼び掛けた。これでもまだ足りず、仕舞いには揺らしてみる強行策に出たにも関わらず反応しない。


「全然駄目だ」


途方にくれる。雅人さん爆睡じゃないか。寝不足だったから余計に起きないのだろうなぁ。

 それにしても…綺麗だなぁ。染々見つめてしまう。見つめるしかやることがない。が、やっぱりこんなに近いとドキドキとしてしまうのは他人とはここまで寄り添ったりしないからだろう。それより…、


「詰んだ」


試せることはやった気がする。これはもう現実逃避するしかない。この際勇気を出していたずらでもしてみるとか…。

 一瞬悪い考えが浮かんだそのとき、大きな音がこの部屋を響かせた。『バンッ』とでも言うのだろうか、何かが破裂した音に近い。驚いて音のした方へゆっくりと顔を向けようとしたとき、


「お前らいつまで寝てんじゃボケぇえええ!!!!」


罵倒が飛んだ。聞いたことがない男の人の声。ちらっとだが誰かが入ってくるのが見えた。稲穂のように輝く金色だ。でもそのことだけで一瞬で体に緊張が走る。


(なっなんで生徒会会長の自衛隊長様がここに来てるの!???)


さっきまでの癒されてた暖かさは何処かにぶっ飛んで冷や汗しか出てこない。今のこの現状を見られたら絶対殺される。抜け足せないこの状況。すぐにでも土下座して謝りたいのに動くこともできず、血の気が引いて手先が冷たくなっていく。

 きっとまた殴られたりするんだろうか。覚悟しておいた方が良いだろう。痛みに耐えられるに両目をぎゅっと閉じて必死に歯を食い縛り衝撃が来るのを待った。が、頬に風を切ったと思ったら隣の方から『うっ』と呻き声がした。恐る恐る目を開けると雅人さんが片手を後頭部に押さえていた。


「俺を呼び出しといて熟睡すんな!!アホ!!!!」


更に罵倒があああ。呆然としてしまって考えが抜けてしまった。けど、たぶんさっきのは雅人さんを叩いたのか…金髪さんはご立腹な様子。


「で、そこのちっこいの」


「はっはい!!」


存在にバレてたことで声が裏返る。いや、だっだって怖いだもの。何故か雅人さんを殴ったし、予想が出来ない。不安を隠せず、金髪さんを見れば罰が悪そうに、


「そんな取って食ったりしないからビビんなぁ」


「はっはい!!」


そう言われても緊張が取れないのは、何度も思うけど怖いからで、必死に頷くけど、


「……まぁ変な気起こしたら別だけど」


最後の言葉で笑顔になった彼は目が笑ってなかった。ビクついてしまうのはしかたない。変な気なんて起こそうなんて滅相もない。怖すぎるし……でも、もしかしたら今の状況を説明しとかないと大変なことになるじゃないかととにかく金髪さんに声をかけた。


「あっあの」


「なんだ?」


「申し訳がないですが、“これ”どうにか出来ませんか?けっ決して僕の意思でこうなったわけではないのですが、ああ、もうごめんなさい!!!!」


最後はもう叫びだ。昨日も泣いて今日も泣く勢いだ。


「…ああもう、うっせな!!」


「ひぃっ」


これまで頭を押さえていた雅人さんが起きた。これまた口が悪い。声を上げてしまったのは反射である。焦点を金髪さんと雅人さんに交互に合わせる。


「せっかく気持ちよく寝てたのに」


「昨日、俺に連絡したのはお前だろうが」


「……まぁそうだな」


「ああ。……っていい加減離してやれよ!!!」


たぶん僕のことだろう。ああ、嫁ですもんね。嫉妬しますよね?だから雅人さんも、離して


「えー」


軽い。言い方軽いし!!寝起きだからなの!?

内心ですごくツッコミたい。


「『えー』じゃない!!大体朝っぱらからなんで俺が来てるのわかってんの?」


「あっ……はい」


「たくっ…。キリキリ起きる!着替える!!」


金髪さんがアレコレ言いながら雅人さんの世話してる。急にオカンに見えてきたのは何でかな?ああ、あれが夫婦か。

 何にせよ雅人さんから開放されたからほっとしてる。……安心していいのか分からないけど。後で修羅場になるとかだったらやだなぁ。あたふたしてる二人を起き上がって見守った。

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