事の始まり
この学園を一言で言うと「王道」って言葉がぴったりだと思う。友達だった人に読まされた本からの得た知識だけど。
ここは有名な私立であるにも関わらず、通うのが無理だろうと思ってしまうほど山奥。でも何故か生徒も先生も美形が多い。
しかもお坊っちゃまって言葉が似合う方々もこの学園にいるため、野太い声や黄色い声も聞こえる。
でもここで疑問が…。
これでも男子校だよ!!
普通はありえないのだけれど、現実なのだから受け止めるしかない。
実際に目の辺りにしたときは呆然と固まってしまったのは一年前の記憶。
そして声援が飛ばされるのは人気の生徒会の皆さんだ。生徒会選挙は抱きたい・抱かれたいので上位で決まるというおかしな決まりがあって、しかも美形揃い性格は良いとは言えないけど…。ファンには堪らないようで、もう生徒会はアイドルみたいにちやほやされている。
僕には全然興味ない遠い存在だったのだけれど…。
絶賛巻き込まれ中。
変な時期に転校してきた“三橋優”が元凶。容姿は驚くほど髪がぼさぼさで、よく前が見えるなぁと感心してしまうほどだ。見ようによっては、まっくろくろすけ。でも不思議なことに彼は編入した日に生徒会のメンバーを次々惚れさせ、今では生徒会長以外を骨抜き。満足気にいちゃついている様はうんざりする。でも僕を抜きで勝手にやるならいい。どうでもいいのに。たまたま三橋くんと同室になったばかりに、
『親友なのだから、実も来なきゃダメだぞ』
可笑しな事を言って、三橋くんが僕までも引き連れ歩く。しかも馬鹿力だからとてもじゃないけど敵う相手ではなくアザも絶えることがない。手首は人に見せられたものじゃないくらい酷い。それに行き先は生徒会メンバーの所だ。そのときの周りの冷たい目線が痛い。妬み、嫉妬がグサグサと身に突き刺さり、いつも冷や汗をかかされた。
冷たい目線の理由はわかっている。理由は2つ。まず僕が平凡で、背も低い、決して生徒会に釣り合う容姿を持っているわけじゃないから。それなのになんで生徒会に付きまとっているのだと、的はずれな嫉妬が胸に突き刺さり精神的にも、肉体的にも辛い。突然殴られたときには戸惑った。好き好んであんなメンバーの所に行っているわけじゃないのに……。
そしてもう1つの理由は転校生を本当は制裁したいのに出来ないでいること。副会長や会計等に溺愛さているため、この彼に手を出せないだろう。代わりに親衛隊さんがより頑張って僕に手を出しているわけで…。
日に日にエスカレートしていく。そろそろ限界に近い。
今現在も可愛い子達に捕まって、憂さ晴らしいとばかりに水をかけられて牽制され中。満足げに笑うこの子たちは可哀想な子と思ってしまう。こんなことでしか気が晴らせないのだから。
「佐藤実!!!!ちょっと話聞いているの!!」
「聞いてないと困るんだけど!!!!」
ぼーっとしたのがいけなかったのだろう。複数の可愛い子達がキャンキャンと吠え始める。返事をしない僕に苛立ったのか一人が平手打ちをして、
「とにかくもうあの方たちには近寄らないでよね!!!!」
睨み付けた後ぞろぞろと出ていく。痛む頬を擦りながらその背中を見送った。小さくため息をひとつこぼし、
(もう疲れたなぁ……帰ろう)
同室に帰るのも重荷にしか変わらないが、今の格好は寒くて辛い。びちゃびちゃの制服はじっとりとして重く気持ち悪い。なんと古典的という手口とうか、トイレで水をかけるとかいつの時代だよ。もう苦笑しか出てこない。
6月なのがまだマシな気はするが寒いものは寒い。これが冬だったら風邪を引いちゃっていたな。二の腕を擦りながら、トイレを後にする。