表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

かげろう 4

この後、初めての体験をいくつかした。

自転車の2人乗りも初めてやった。

『俺の家、こっからまあまあ遠いんや』

ハンドルをフラフラさせながら、ぎこちなく自転車を漕ぐ俺。

『でもアレやで。自転車の2人乗りはアカンのやで』

『うん、アカンなぁ』

『…ぼく走るから、これに乗る?』

『イヤ、ええよ』

『エエって…』

『怒られたら謝ろうや。それしかない』


自転車の2人乗りなんて、小学2年生の俺にはまだ早いって思った。

子どもの俺にはまだ早い、なんて確信したのも、あの時が初めてやったな。


必死で自転車を漕ぐ俺に、有村は大声で話し掛ける。

『俺の家の近所に100円ばあちゃんがおんねん』

『100円ばあちゃん?』

『そう、100円ばあちゃん。1人やったら怖いけど、2人やったら怖ないで。今日は100円ばあちゃんの生態を調べるんや、2人で』

『せいたい?』

せいたいって何だろう。

その前に、100円ばあちゃんって何?

…ま、見れば分かるか。


俺は有村に気に入られようと、必要以上に必死で自転車を漕いでいた。

『100円ばあちゃんはきっとな、蜂と同じ習性を持っとる』

『ハチ?』

『そう、蜂。あれは光に向かって歩きよるんや。同じとこをグルグル回りよる。ま、俺の勘やけどな』

…ばあちゃんで、ハチ?


出だしから変わった奴なのかもと思ったが、有村は思った通りの実に変わった人間だった。

あいつが転校してきたことで、俺の学校生活は随分と変化して行った。

口癖のように『逃げたい』、そう考えていた学校生活が、『早く放課後にならないかな』に変化して行く。

俺には『学校にいたくないから家に帰りたい』そう考える理由もなく、何かと、何かにつけても『早く終われ』と考える嫌な癖があったのだが、これも少しずつ形を変えていった。


イジメられとったのは変わらへんのやけど、ほんで有村はその行為をずーっと無視しよったけど、あいつの言う通り巻き込みとうなかったからお誂え向きやったな。

あの頃も、平日であろうと何であろうと、学校終わったら毎日あいつと会いよったな。


2人野球、磔鬼、かくれんぼジャンプ、……有村は2人だけでできる遊びを次々と考え出した。

『これ、覚えて』と差し出されたノートには、有村の編み出した遊び方のルールが図解で分かりやすくまとめられていた。

毎日毎日そんな遊びを繰り返していたが、2人きりでやっていても飽きることはなかった。


『あのな』

『ん?』

『何でぼくを遊びに誘うたん?』

『ハア?何で?』

夏休みに入り、朝から夕暮れまで毎日会っていたある日、有村に問うてみた。

有村の家の近所には同級生がいない。

転校生2人がいるが、自分に対するイジメに関して女子は関係なく、最近はずっとその近辺で遊んでいた。

『巻き込まれんの嫌やー言うて、何でぼくと遊ぼう思うたんや?』

『ああ。…そうやねぇ…見とってオモロかったからかなー』

『ええ?』

『だってな、どう見てもタクちゃんの方が強そうやん。何で黙ってやられとんかな思うて。こいつアホちゃうけ思うたんや』

『……ぼくが強い?黙ってやられてるの、アホ…?』

『そうやん。試しに一回ドツイたったらええんや』

『………』


誰にでもできる作業を、ごく簡単にこなしているつもりでいた。

俺はあの頃からいろいろと慣れとったからな。

親戚同士の集まりに、

『お前も来たんか。何で?』

普通にそう言われる、そんな扱いを受けていた。

……ぼくは、おったらアカン人間かもしれんな。

他の人とは全然ちゃうんかもしれんな。

いつもそんな風に考えていたから。


『イヤ、多分勝てんよ。3人もおるし』

『じゃあ1人1人狙うたったらエエやん』

『………』


あの頃は俺も子どもで、有村の性格が実に計算高く、ある意味狡賢いということをまだ理解できていなかった。

やけに勉強ができるということにも気づいていなかった。

ただ、ちょっと遅刻しただけで半泣きで謝る有村は、ある種真面目な奴なのだということは知っていた。

…あいつのあの姑息なまでの計算高さには、あれ以降も随分と助けられた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ