妄想は暴走する
人は妄想する生き物である。
そして女は妄想を暴走させる生き物である。
彼氏がいないあたしと美弥と彩。あたしたち三人はここのところ三人でよく遊んでる。つまるところ、常に暇なのが集まってしまう哀しい現象といえる。
だってしょうがないじゃないか。暇なんだもん。
なにが悲しくて女三人でドライブなんかしてるんだろう。男がいない女ってこうやってつるんで孤独を癒すのだろうか。いや、しょうがないのだ。人は独りでは生きられない。
今日の目的はアウトレット。地方のとある場所にあるアウトレットには、あたしたちのお気に入りブランドのお店が入ってる。ドライブがてらそこに行くことになったのだ。
男がいない時に女がやること。それは、女磨き。美しく着飾ることを嫌悪する女もいるけど、結局男は綺麗な女が好きなのだ。好きな男を振り向かせるため、女は常に自分を磨く。
ああ、寂しいかな、女は男に振り回される生き物なのか。
いや、待て。男も女に振り回されてる。うん。男も女も互いにぶんぶん振り回しているんだな。男も女も大変だ。
あたしたちの住んでいる地域からアウトレットまでは車で一時間半ほどかかる。あたしたちはぼりぼりお菓子を食べながら、どうでもいい会話をかわす。
「彼氏出来たらさあ、皆で海とか行きたくない?」
美弥がせんべいをむしゃむしゃ食べながらそんな提案をした。せんべいのかすがぼろぼろ落ちてる。男が見たらどん引きだな。
「皆って、彼氏とうちらってこと?」
「そうそう。グループデートってやつ」
「楽しそうだね」
車を運転する彩の顔がルームミラーからちらりと見えた。ちなみに席順は彩が運転席、助手席に美弥、後部座席にあたし。
彩はグループデートを想像してか、気持ち悪いほどにんまりしてる。てか、きもい。
「バーベキューしてさ、花火してさ。彼氏同士も仲良くなっちゃってさ」
「いいねぇ」
美弥の妄想は続く。同意する彩の声色は桃色だ。
「でさ、結婚とかしてもさ、仲良しでさ。うちらと旦那で毎年海に行くの!」
「いい! それいい!」
「その内子ども生まれてさ。子ども連れて皆で海行ってさ。子ども同士も仲良くなってさ」
「超いいじゃん!」
……うまく行き過ぎじゃね? そんな人生あるか?
後部座席にいると、どうも話に入っていく気がしない。あたしは猛スピードで過ぎ去ってゆく景色をぼんやりと眺める。眠い。
「子どもの歳はなるべく合わせようね」
「その方が色々相談とかし合えるからいいよね」
「最初はやっぱ女の子でしょ」
「え〜あたしは男の子だな」
産まれる予定も無い子どもの話を始めちゃったよ。むなしくないか? 聞いてるあたしはむなしいぞ。
「どうする? 将来的に子ども同士が恋愛しちゃったら!」
「やべっ! うちら親戚になるんじゃん!」
「やだあ。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそぅ」
無い無い。そんな都合のいい話無いって。
「じゃあ、やっぱ私、女の子産むわ」
「じゃあ、あたし、男の子ね」
「めっちゃ楽しみだね〜」
「ねえ〜」
なんだこの会話。寒いっ寒いわ!
アウトレットまで遠い。いつまでこんな会話が続くんだろう。なんだか涙が出そうになるのは何でなんだろう。だんだん意識が薄れてゆく。後頭部が引っ張られるかのように、眠りがあたしを遠い世界に誘おうとしてる。
前に座ってる二人は二人で盛り上がってるし。寝てしまおうか。互いにチュウチュウしたがる上まぶたと下まぶたのラブラブッぷりにあたしは根負けしてしまった。……おやすみなさい。
「ちょっと、サチ! 寝てたでしょ!」
美弥が助手席から身を乗り出し、あたしの膝を揺すってきた。
「眠いんだよ」
「寝ちゃだめ!」
なんでだよ! お前らは見えない未来について楽しく妄想していたじゃないか。あたしは見えない未来を夢の中で勝手に見てるから放っといてくれ。
「ねえ、サチは最初の子どもは男派? 女派?」
なにそれ、それって派閥なの?
「…てかさ、まずは彼氏作る方法を考えたら」
「……」
「……」
沈黙の後の乾いた笑い。全員が引きつり笑いをしていた。
「合コンの予定は」
「無いな」
「芋づる式で探そう」
芋づる式。それは合コンで出会った男の携帯番号は必ず聞き、そこから次々に合コンを開催し、いずれいい男を見つけようという、女の浅ましい作戦。
「頑張ろうぜ」
「グループデートのために!」
燃える二人の会話を尻目に、あたしは再び目をつぶる。眠いんだって。
女の妄想はどんどん暴走する。傍から聞いているとなんとも物悲しいが、当人たちは楽しんでいるのだ。
放っておくのが吉。
おやすみなさい。
ほんとに超不定期で申し訳ないです……。
あとニ,三話近いうちに更新してこの短編集を終了させたいと思います。
しょうもないお話ばかりですが、楽しんでくださっている方がいたら嬉しいです。




