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ニオイと愛の関係性

短編集です。女のくだらない会話を題材にした小説をちびちび超不定期で更新していきたいと思っています。

一話一話につながりはないので、暇な時にぜひどうぞ。

 私はある悩みを抱えている。

 少し前に付き合いだした彼氏のことだ。

 

 言っちゃあなんだが、かっこいい。少し長めの黒髪はいつもワックスでいいかんじにきめてるし。スクエアタイプの黒縁眼鏡も似合ってる。涼しげな切れ長の瞳に見つめられるだけで、とろけてしまいそうだ。

 彼と出会ったのはバイト先のカフェ。カッターシャツに黒いエプロンが本当によく似合っていて、いつ見ても胸が高鳴った。恋に積極的になれない私は、いつも遠巻きにラブ光線を送る日々。

 その暑苦しい光線に気付いたかなんだかわからないけれど、彼はよく私に話しかけてくれた。そして、ある日。「付き合わない?」と告られてしまった。

 有頂天にならないわけがない。私は幸せだった。ラブ光線の強度は強まる一方。彼を焦がしてしまうんじゃないか心配になるほどだ。


 普通の恋人同士がそうであるように、私たちは手をつなぎ、キスをし、セックスをした。だんだん近付いていく彼との距離。体を寄せれば寄せるほどに、心も寄り添いあっていくものなのだ。

 彼との初めてのセックスを終えたとき、私は天にも昇る幸福感でお腹一杯になりながら、彼の腕枕にすり寄った。

 その時に感じたふとした違和感。

 

 あれ? なんていうのかな。これ、好きじゃない。

 そう思ってしまったある事象。

 

 それは日に日に強まっていった。手を絡めて歩く時。彼が私を抱きしめるその瞬間。彼の腕の中にいる度に。

 一度感じた違和感はなかなか拭うことができない。私は違和感が嫌悪感であることに少なからず気付き始めた。

 そう、私は嫌悪しているのだ。


「なにそれ、ワキガ?」

 友人は苦笑いを浮かべてそう言った。久しぶりに会った友人との食事の最中。安いワインを口に運びながら、私は悩みを打ち明けた。

 酔いが回って、口が軽くなっていたのだ。

「いや、そうじゃないよ。そういうニオイじゃないの」

「じゃあ、どんなニオイよ? くさいってことでしょ?」

「くさくなんかないっ」


 そう、私の悩み。

 彼のニオイがどうも気に入らない。


「くさいってわけじゃなくてさ、どうもこのニオイ好きになれないっていうのあるでしょ? 例えばさ、にんにくのニオイ。料理屋さんから漂ってくるといいニオイだけど、食べ終わった後の口臭はくさいじゃん。そういう感覚なのよ」

「それ、違くない?」

 たとえ話というのは難しい。わたしのこのもどかしい気持ちをどう彼女に伝えればいいのだろう。全くもっていいたとえが浮かばない。


「じゃあさ、香水。人が好きっていう香りでも、自分は好きになれないのってあるじゃん? 私はシャネルのNo.5とか、好きになれないもん」 

 伝わっているのかいないのか、彼女は半笑いで首をかしげている。反応に困っているのがあからさまにわかる。ちくしょう。もどかしい。


「どんなニオイがするのよ、彼は。加齢臭じゃねえの」

 ニオイをかいでもいないくせに、彼女は鼻の前を手で仰ぐ。「くさいくさい」というセリフが聞こえてきそうだ。

「カレーのニオイじゃないし!」

「あんた加齢臭はカレーのニオイじゃないからね」

「え! そうなの?」

 知らなかった。ずっとカレー臭だと思ってた。カレーくさいオヤジのニオイではなかったのか。

「加齢臭はオヤジが放ってるポマードみたいなニオイよ。あれはくさいよ。つっても私は意外と好きだけどね。あのオヤジくささが」

「あんたオヤジ好きだもんね……」

 彼女は通称オヤジキラー。二十以上年上のオヤジを常に狙い、この前までは五十のオヤジと付き合っていた。信じられない。私はイケメンが好きだ。オヤジには触手が動かない。


「金持ってるオヤジって最高よ。ブランドもん、いっぱい買ってくれるし。ってそれより、彼はどんなニオイなの?」

 昔でいう、貢君みつぐくんじゃないか。どんどん増えていくブランドもんは男の力によるものだったのか。うらやましいが、まね出来ない。

「ああ、ええと。彼のニオイね。なんつーんだろ。……土臭い」

「……それってどうなの?」

 彼女の顔が微妙になっている。眉間にしわを寄せながらも、口元は笑いをこらえてひくついている。だって本当に土臭いんだもん。

「ニオイってさ、相性があるの、知ってる?」

 

 食事を終えた彼女はタバコを手に取る。昨日ネイルサロンに行ったという爪がキラキラと輝いていてきれいだ。

「爪、いいかんじだね」

「でしょ? つうか、話聞いてる?」

「あ、ごめん」

 タバコの煙と共に、ため息が吐き出された。話聞いてるって。爪に見とれただけなんだって。


「人間ってさ、視覚とか聴覚とかより、嗅覚のが敏感なんだってよ。そういうのを感じ取るのにさ。だからね、『この男のニオイ好き!』っていうのって、相性いいんだって。体が相性の良さを感じ取ってんだよ」

 じゃあ何か? 私と彼の相性が悪いってのか? んなばかな。こんなラブラブなのに。

「怜奈の彼氏さ、ワキガなの、知ってる?」

「そうなの? あいつの彼氏、イケメンじゃん」

「あんた顔しか見てないから、相性の悪い男とばっか付き合う羽目になってんだよ。喧嘩別れしたの何人よ?」

 くっ。痛いところをついてくる。でも、私がイケメン好きなように、あんたは金が好きじゃないか。人のこと言えないじゃん。

「怜奈さ、彼のニオイ、好きなんだって。ワキガ、気にならないどころか好きなんだって。愛のパワーってやつよ。あんたは土臭いごときのニオイで愛が冷めようとしてんのよ。つまり、その程度ってことよ」


 ぎゃふんっ! その通りかもっ!

 くそ。こいつは鋭すぎる。強敵だった。相談する相手を間違えた。


「どうすんの」

「……とりあえず、私の好きな香水の香りを振りかけます。サムライとか」

「くさいものには蓋」

「うるさい」


 私にはまだまだ真実の愛ってのがわからない。

 香水、彼の誕生日に買ってあげよう。しばらくは蓋して我慢だ。いいニオイのイケメンが現れるまで。ってあれ。私、もう次の男のこと考えてるじゃん。

 うーん。やっぱり彼女の言うことは常に的を射ている。おならも出ない。げっぷも出ない。間違えた。ぐうの音も出ない、だ。

 ニオイと愛には密接な関係性があるのではないか。昨日出された課題のレポートはこれを書こう。


 ああ、それよりなにより、私はなんてだめ女。 


  

作者はしょっちゅう友達とくだらない会話をしています。そんな会話の数々から、ネタになるものをかなり脚色して書いていこうかなと思ってます。

いいネタがあったらメッセージかコメントで教えてくださると、嬉しいです。


ほんとはエッセイ風にしたかったんですけど……。書き方がいまいちわからない(^^;


皆さんは、ニオイ、どう思ってます? 私はけっこう気にします。ニオイフェチです(笑)


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Sleeping on the holiday and sunny day.

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