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君と俺と、ドライブ。

作者: 澤田しずく






山本くんと、ドライブに出かけることにした。

なぜなら、山本くんが地元に帰ってきているからだ。

お盆休み、ばんざい。




運転はもちろん俺。

なぜなら山本くんはペーパードライバーだからだ。


高校を卒業して、県下トップの国立大学に進学した山本くんの行動範囲は、一人暮らしのアパートから自転車圏内に全ておさまっている。

そりゃ車がなくても生きていけるはずだ。


同じ県内にいるのに、車がないと出勤すらできない、地元就職の俺とは大違いだ。




車をびゅんびゅんとばして山道を行く。

少々の山道なら、仕事で慣れっこだ。


「先月君んちのアパートで会って以来だったっけかな」

「うん、ちょっと久しぶりだね」

「そうだな、高校のときは普通に毎日会ってたもんな」

「懐かしいねえ、あの頃は若かったなぁ~」


山本くんはへらへらと笑う。

ちょっとぬけてるところがあるけど、そこもまた君といて楽な理由のひとつだ。






車内には今流行りのロックをガンガンにかけている。

ロック調のアニソンのほうが俺は好きだが、山本くんの趣味は最近若者が好きな音楽路線になってきたので、俺が好きな、でも山本くんも好きそうな流行曲に変えた。

まあ俺達ふたりとも、二十歳を過ぎたばかりなんだが。



「なあ、最近山本くんは、俺に話しかけてくれないよねえ」


「…そうかなあ」

山本くんは軽く首をかしげる。



「俺もっと君と話がしたいんだけどさあ、そこんとこどうなの?」

「…別に話してると思うんだけど」


そうじゃなくて、もっと俺とたくさん話をしようよって、

そう、今までみたいに、テンション上げて、どうでもいいことで馬鹿騒ぎして、楽しんでいたいって、

そんなふうに思うんだけど。

そこんとこどうなの、山本くん。



助手席に座った山本くんは、黙って進行方向を見つめている。

運転しながらの横目でもわかる。



「そういえば山本くんは、もともとあまり自分から話しかけてこないよねえ」

「まあ、そうだねえ」


小学校の頃から引っ込み思案だった山本くんを、俺はいつも引っ張りまわしていた気がする。

山本くんはノーと言わないタイプだから、たまにしぶしぶ従っている感じがあった。

気付かないほど俺もバカじゃない。

ノーと言わない君にイライラすることも多々あるが、主張しない山本くんがわるいんだ、ということにしていた。






わかってはいるんだ。

さみしいんだ、俺は。

山本くんが、遠くに行ってしまった気がして。


俺と君は、この団地に引っ越してきてからずっと一緒で、

小学校だって、中学の部活だって、科は違うけど高校だって、ずっとずっと一緒だったじゃないか。



わかってはいるんだ、人はいつかは去っていくって。


仲のいいダチだと思っていたヤツでも、次の日には会話もしなくなることだってあるって。

まだ人生ほんのちょっとしか生きていないが、それなりにたくさんの友達らしき人に出会い、それなりにたくさんの遠ざかっていく人をみてきた。

セーブがきかず自分からケンカを売ってしまうことも多々あったし、

気付いたらまったく連絡をとらない、メールを送っても返信がこなくなる人にもたくさんたくさん会ってきた。


そうだ、人間関係は諸行無常なんだ。

わかってはいるんだ、ずっと前から。




でも、君は違うんだと思っていた。

君だけは、俺とずっと仲のいい幼なじみであってほしいと思っていた。


我ながら、ものすごいエゴだ。

そんなエゴも、山本くんは許してくれると、期待と過信を抱いていた。




山本くん、君は、いつか俺の誘いも断るようになって、

どこか遠くへ行くんだろう?

故郷の田舎町よりももっと遠い、俺の車では行けないほど、遠くへ行ってしまうんだろう?






「…ねえ、墨田くん」

「おおやっと君は、自分から話しかけるようになったか」


決してやさしい口調ではないと、自負している。

どこかで君が呆れているかもしれないのも、感じている。



「僕さ、彼女ができたんだ」

「へっ、このリア充が」

大学行ったからって調子にのんなよ。

俺は厳しい上下関係と肉体労働と闘ってんだぞ。

お前みたいな、大学で遊びながらのんきに彼女作ってるやつなんかとは、クオリティが違うんだぞ。



「彼女によく、墨田くんのことを話すんだ。

いつもしっかりしていて、話題が豊富で、かっこよくて、

僕の大親友なんだ、って。


よかったら、今度、彼女と会ってみない?

実際の墨田くんを見たら、びっくりすると思うんだ」


「…それは、」

俺のことを高卒の田舎者だと言って馬鹿にしたいのか、

それとも、いちいち俺の期待に応えてくれるのか、

それでも俺を『親友』と称すのか、


君の顔はほんのり紅く、まっすぐに進行方向を見つめている。



実際に大親友かはともかく、もうちょっと仲良くしているのも悪くはないかもしれない。



「いいよ、面白そうだし」



中古の軽四をふかしまくって、山道を上りきった。

左手一面に、高原が広がってきた。







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