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桜の下で、君は笑った

作者: はちみつ
掲載日:2026/03/17

春。

校門の前の大きな桜が満開になっていた。

「うわぁ…きれい」

思わず立ち止まると、後ろから声がした。

「おい、遅刻するぞ」

振り向くと、そこには幼なじみの れん が立っていた。

少し長めの黒い髪。

クールな顔。

女子の間ではかなり人気だけど、本人は全然気にしていない。

「もう、蓮はロマンがないなぁ」

「ロマンで遅刻したら意味ないだろ」

そう言いながら、私の手首を軽くつかむ。

「ほら、行くぞ」

「わっ!」

引っ張られて走り出す。

昔から、こうやって蓮に振り回されてばかりだ。


教室に入ると、すぐに女子たちの声が聞こえた。

「ねえねえ、聞いた?」

「転校生、めっちゃイケメンらしいよ!」

私は席に座りながら首をかしげた。

「転校生?」

そのとき、ガラッと教室のドアが開いた。

先生と一緒に、一人の男子が入ってくる。

「今日からこのクラスに来た、**神谷蒼かみや あおい**だ」

教室が一気にざわめく。

たしかに、かなり整った顔だった。

柔らかい茶色の髪に、優しそうな目。

「よろしく」

にこっと笑うと、女子たちの小さな悲鳴が上がった。

そして先生が言った。

「神谷の席は…あそこだな」

指さされたのは——

私の隣。

「えっ!?」

私は思わず声を出してしまった。

蒼くんは笑いながら席に来た。

「よろしくね」

「よ、よろしく…」

ドキドキしていると、後ろから机を軽く蹴られた。

振り向くと、蓮がいた。

「……」

無言。

でも、なんだか少し機嫌が悪そうだった。


放課後。

私はいつも通り、校門の前で蓮を待っていた。

すると後ろから声がする。

「帰らないの?」

振り向くと、蒼くんだった。

「誰か待ってるの?」

「う、うん。幼なじみ」

その瞬間。

「悪い、待たせた」

低い声がした。

蓮だ。

蒼くんは少し驚いた顔をする。

「もしかして、この子の幼なじみ?」

「ああ」

短い返事。

空気が少しピリッとする。

蒼くんはにこっと笑った。

「そっか。じゃあまた明日」

そう言って去っていく。

私はホッと息をついた。

「いい人そうだよね」

そう言うと——

蓮が急に立ち止まった。

「お前さ」

「え?」

「…ああいうの、好きなの?」

「え?」

「優しくて、王子様みたいなやつ」

なぜか少し怒っているように見える。

「別にそういうわけじゃ…」

「ふーん」

蓮は前を向いたまま言った。

しばらく沈黙が続く。

夕日が道をオレンジ色に染めていた。

そして突然、蓮が言う。

「俺、あいつ嫌い」

「え!?なんで!?」

「なんとなく」

「それ理由になってないよ!」

すると蓮は立ち止まって、振り返った。

少しだけ真剣な顔。

「……お前、あいつと仲良くすんなよ」

「え?」

「なんか…」

言葉を探すように少し黙る。

そして小さく言った。

「取られそうだから」

一瞬、時間が止まった。

「え?」

「……」

蓮はハッとした顔をして目をそらした。

「今の忘れろ」

「ちょ、ちょっと待って!」

でも蓮はそのまま歩き出してしまう。

私は慌てて追いかけた。

心臓がドキドキして止まらない。

桜の花びらが風に舞っている。

その中で私は思った。

もしかして——

蓮は、私のこと…


◯揺れる気持ち

次の日の朝。

私は教室のドアの前で深呼吸していた。

(昨日の蓮の言葉…)

『取られそうだから』

思い出すだけで顔が熱くなる。

「いやいや、そんなわけないよね…」

ぶつぶつ言いながら教室に入ると——

「おはよう」

突然声をかけられた。

「ひゃっ!?」

振り向くと、蒼くんだった。

「そんなに驚く?」

「ご、ごめん!」

蒼くんはくすっと笑う。

「昨日、一緒に帰ってた子って幼なじみなんだよね」

「うん」

「仲いいね」

「まあ…小さい頃からだから」

そう言うと、蒼くんは少し考えるような顔をした。

「ちょっと羨ましいな」

「え?」

「俺、転校ばっかりでさ。そういうのないんだ」

少し寂しそうに笑う。

「だから」

蒼くんは私を見て言った。

「よかったら、友達になってくれない?」

「もちろん!」

そう答えると、蒼くんは嬉しそうに笑った。

その瞬間——

ガンッ

後ろの机が鳴った。

振り向くと、蓮だった。

明らかに機嫌が悪い。

「……」

「お、おはよう蓮」

「……おう」

短い返事。

そして席に座る。

なんだか空気が重い。

蒼くんは気にしてない様子で言った。

「今日さ、学校案内してくれない?」

「え?」

「まだ全然わかんなくて」

「う、うん!いいよ」

そう答えた瞬間。

後ろから声がした。

「無理」

「え?」

振り向くと蓮が腕を組んでいた。

「こいつ今日、俺と帰る約束してるから」

「えっ!?そんな約束…」

「今した」

「ええ!?」

蒼くんは少し驚いた顔をしてから、笑った。

「そっか」

でも次の瞬間、さらっと言う。

「じゃあ昼休みでいいよ」

「え?」

「昼ならいいでしょ?」

私は蓮を見る。

蓮は少しムッとした顔で言った。

「……勝手にしろ」


昼休み。

私は蒼くんと一緒に校内を歩いていた。

「ここが図書室」

「へえ」

蒼くんは楽しそうに見ている。

「なんか学校っていいね」

「え?」

「前の学校はすぐ転校だったから」

そう言って笑う。

私は少し胸がきゅっとした。

そのとき——

「何してんの」

低い声。

振り向くと、蓮が立っていた。

「蓮?」

腕を組んで、じっと私たちを見ている。

蒼くんが言う。

「学校案内してもらってたんだ」

「ふーん」

蓮は近づいてきた。

そして突然——

私の手をつかんだ。

「ちょっ、蓮!?」

「もう昼終わる」

「まだ時間あるよ!」

「俺は終わり」

ぐいっと引っ張る。

蒼くんが少し驚いた顔で言った。

「ずいぶん独占欲強いんだね」

その言葉に、蓮の目が細くなる。

「別に」

「でもさ」

蒼くんは笑いながら続けた。

「この子、まだ誰のものでもないよ?」

空気が一瞬で静まり返る。

ドキドキする。

蓮は少し黙ってから——

私の手を強く握った。

そして低い声で言う。

「……それでも」

私を見て、はっきり言った。

「こいつは俺のだから」

「えええ!?」

顔が真っ赤になる。

蒼くんは少し驚いたあと、ふっと笑った。

「そっか」

そして意味ありげに言う。

「でも、まだ勝負はこれからだね」

その言葉に、また空気が張りつめる。

私はただ思った。

(な、なんでこんなことにーー!?)

桜の花びらが窓の外で舞っている。

そして私の恋は——

思っていたより、ずっと大変なことになりそうだった。



◯文化祭の距離

数日後。

教室はいつもより騒がしかった。

「文化祭、何やるー?」

「カフェがいい!」

「お化け屋敷も楽しそう!」

黒板の前でクラス委員がまとめている。

私はぼーっとその様子を見ていた。

(最近、なんか大変すぎる…)

蓮と蒼くん。

二人とも、なぜか私の近くにいる時間が増えていた。

そのとき——

「決まりました!」

委員が言った。

「うちのクラスは メイドカフェ です!」

教室が盛り上がる。

「やったー!」

「絶対かわいい!」

すると女子の一人が言った。

「男子は執事ね!」

その瞬間。

女子たちの視線が一斉に向いた。

蓮と蒼くん。

「絶対似合う!」

「イケメン執事じゃん!」

二人は同時にため息をついた。

「めんど…」

「まあ仕方ないね」

そしてさらに事件が起きた。

「じゃあメイド係はこの3人!」

委員が指さす。

その中に——

私がいた。

「えっ!?私!?」

「絶対似合うよ!」

女子たちが盛り上がる。

顔が真っ赤になる。

そのとき。

後ろから小さく声が聞こえた。

「……見たい」

振り向くと蓮だった。

「え?」

「別に」

すぐそっぽを向く。

でも耳が少し赤い。

すると蒼くんも笑って言った。

「俺も見たいな」

「やめてよー!」

私は机に顔を伏せた。


放課後。

文化祭の準備が始まった。

私は飾りつけ係。

脚立に乗って、壁にリボンをつけていた。

「もう少し上かな…」

背伸びする。

その瞬間——

ぐらっ

脚立が揺れた。

「きゃっ!」

落ちる——

と思った瞬間。

誰かの腕に支えられた。

「危ない」

低い声。

蓮だった。

「れ、蓮…」

かなり近い。

顔の距離がすごく近い。

心臓が暴れそう。

「ドジ」

そう言いながらも、まだ腕を離さない。

そのとき。

「はいはい、そこまで」

横から声。

蒼くんだった。

「助けてくれてありがとう」

そう言いながら、私を蓮から離す。

「もう大丈夫?」

「う、うん」

蒼くんは少し真面目な顔で言った。

「怪我したら大変だよ」

そして、ふっと笑う。

「文化祭でメイド姿見れなくなるし」

「またそれ言う!」

私が抗議すると、二人が笑った。

でも次の瞬間。

また微妙な空気になる。

蓮がぼそっと言う。

「…どうせ蒼のとこばっか行くんだろ」

「え?」

蒼くんは肩をすくめる。

「嫉妬?」

「してねーよ」

「顔に書いてある」

「うるさい」

私は二人を見て思った。

(なんでこの二人、こんなに張り合うの!?)

そのとき、委員の声が聞こえた。

「メイド衣装届いたよー!」

女子たちが集まる。

「試着しよ!」

私は半ば引っ張られるように更衣室へ。

そして——

数分後。

私はメイド服を着ていた。

フリルのエプロン。

黒いスカート。

鏡を見ると、自分じゃないみたいだった。

「うわぁ、かわいい!」

「似合ってる!」

女子たちが盛り上がる。

私は恥ずかしくて仕方ない。

そのまま教室に戻ると——

男子たちが一斉に見た。

「おお!」

「すげー!」

私は顔を隠した。

そして恐る恐る、蓮を見る。

蓮は固まっていた。

「……」

「な、なに…?」

すると蓮は目をそらして小さく言った。

「……かわいい」

「え!?」

聞き間違いかと思った。

その横で蒼くんが笑う。

「ほんとだね」

そして私の方に少し近づいて言った。

「文化祭、人気出そう」

そのとき。

蓮が急に言った。

「人気出なくていい」

「え?」

蓮は真面目な顔で言った。

「お前は笑ってればいい」

「……」

「それだけで十分だから」

胸がドキッとした。

私は思った。

(どうしよう)

蓮も、蒼くんも。

どっちも優しくて——

どっちも、気になってしまう。

文化祭まで、あと1週間。

そして私の恋は——

もっと大きく動き出そうとしていた。




◯君のとなり

文化祭当日。

学校は朝からすごく賑わっていた。

「人多いね!」

「やばい、緊張する…」

クラスの女子たちがそわそわしている。

私もメイド服を着ながら鏡を見ていた。

(今日で終わるんだ…)

蓮と蒼くん。

二人の間で揺れていた気持ち。

今日、きっと何かが変わる気がしていた。


教室のドアが開く。

「メイドカフェへようこそ!」

お客さんが次々に入ってくる。

「すごい人気!」

「席足りない!」

大忙しだった。

「ご注文どうぞ!」

私はテーブルを回る。

すると——

「やっと見つけた」

聞き慣れた声。

振り向くと 蒼くん が立っていた。

「蒼くん!」

蒼くんは少し真面目な顔をしている。

「ちょっと話せる?」

「え?」

私は外に呼ばれた。

廊下には人が少ない。

蒼くんはしばらく黙っていたけど、やがて言った。

「俺さ」

「うん」

「君のこと好きになった」

心臓がドキンと鳴る。

「短い時間だけど、一緒にいると楽しかった」

蒼くんは優しく笑った。

「もしよかったら——」

そのとき。

「悪い」

低い声がした。

振り向くと、蓮 がいた。

真剣な顔。

蒼くんは少し驚いたけど、ふっと笑う。

「来ると思った」

そして私の方を見る。

「この先は君が決めて」

そう言って、静かに去っていった。

廊下には私と蓮だけ。

ドキドキして息が苦しい。

蓮は少し黙ってから言った。

「……聞こえた」

「え」

「蒼の告白」

私は何も言えなかった。

蓮は目を伏せる。

「俺さ」

「うん…」

「ずっと前から好き」

胸がぎゅっとなる。

「小学校のときから」

「え!?」

「お前が他のやつと話すだけでムカついた」

少し照れたように笑う。

「でも幼なじみだから言えなくてさ」

そして私を見る。

真剣な目。

「だから」

蓮は一歩近づいた。

「もう逃げない」

私の手をそっと握る。

「俺と付き合え」

心臓が壊れそうなくらいドキドキする。

私は思い出していた。

小さい頃。

一緒に帰った道。

転んだとき、手を引いてくれたこと。

いつも隣にいた人。

気づいたら——

私は笑っていた。

「蓮」

「ん」

「私も…好き」

一瞬、蓮が固まった。

「ほんと?」

「うん」

次の瞬間。

蓮は安心したように笑った。

「よかった…」

そして少しだけ恥ずかしそうに言う。

「もう取られないよな?」

「うん」

「絶対離さない」

そう言って、私の手をぎゅっと握った。

そのとき。

窓の外で風が吹いた。

桜の花びらがふわっと舞う。

初めて会ったあの日と同じ景色。

私は思った。

これからもきっと——

この人のとなりで笑っていくんだ。




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