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リトルスター〜鄙びた旅館の女将になった私がテッペンを取るまで。  作者: 間宮芽衣


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【第九話】立ちてぇ場所。


「──こちらのエアパックのページをご覧下さい。


 …ではそこのえーっと…『湯宿 のんびりや』さん!これを見て何か感じる事はありませんか?」


(あ、当てられた!!)


「えーっと。あ、あれ?飛行機の値段と合わさって値段が表示されるから、この施設さんが管理画面でいくらで出しているのか、元値がわかんねぇです!」


思わず訛ってしまい、赤面してしまう。だが、茶化すような人は誰もいなくてホッとしてしまう。


「そう!それなんですよ。

 ですから、高く出したい日、または安く出したい日をパッケージプランで値段設定すると、お部屋出しの値段の自由度が上がるんです。


 パッケージ商品は、航空券や交通費とセットで総額表示になります。


 そのため単体価格と切り分けて見られにくいのが特徴です。これを上手く活用すると、販売戦略の幅が広がります。


 このように、タイミングや価格やターゲットもそうですが、サイトの特色を理解することも、レベニューマネジメントでは非常に重要になってきます。」


そう言って先生はニヤリと笑う。


(な、なるほど!確かに。今までパッケージにお部屋出してなかったの、勿体なかったな…。)


「ところで『旅館 紫陽花』山下様。稼働率は何%ですか?」


そう言われて担当の人が答える。


「──108%です。」


その言葉に会場がどよめく。


(ひゃ、100以上?!施設のお部屋数以上にお客様が来たってこと?!そんな事可能なんだべか!)


すると先生がニコニコと頷く。


「──このように、部屋数以上の稼働率を叩き出しているホテルや旅館様は一定数存在します。


 では、こちらに来て、お話を伺ってもよろしいですか?」


どうやら事前にお話をすることが決まっていたようで、担当の人が笑顔で前に出る。


「当旅館は元々宿泊以外のお食事需要や、日帰り温泉の方も多くいらっしゃいまして。


 その方達をターゲットに、ランチプランをお部屋付きでデイユース…宿泊はなしで打ち出したんです。


 周りに気兼ねなくランチを食べられると奥様方や赤ちゃん連れのユーザーに非常に需要があったんです。」


その言葉に先生がニコニコと頷く。


「このように宿泊施設様のお部屋は『泊まる為のもの』と思われがちですが、それは固定観念です。


 一泊の回転だけでなく『昼と夜で二回売る』ことで100%を超えることが出来ます。


 客室という『空間』は、時間単位で販売できる資産です。デイユースは稼働率の更なる上昇と共に、施設様のウリをアピールするチャンスとなるのです。


 まあ、詳しいデイユースの打ち出しについてはトイレ休憩の後にさせて頂きます。」


私は知らなかったことや、考えた事もなかった事を一気に提示されて感心しっぱなしだった。


◇◇


「河南さん、お昼ってもう誰かと約束した?

 よかったらうちの工藤と桜庭さんも誘って、4人で一緒に行かない?」


川中さんの言葉に思わず気分が上がってしまう。


「えっ!!いいんですか?!行きたいです!

 ──あ、賢治!!みやびホテルの川中さんがお昼に誘ってくれたから皆で行こうー!」


講習が終わって向こうからやってきた賢治に声をかける。


「おー。」


工藤さんもやってきたので四人で近くのファミレスに行く事にした。


「河南さん、初めての『新春シンポジウム』はどうだった?」


川中さんがハンバーグを切り分けながら、気を遣って尋ねてくれた。


「はいっ!パッケージプランって今まで出した事なかったんですけどあんな裏技あったんですね!


 もっと早く出しておけば良かったです!

 うち、単価上げたいなって思ってたからすっごく参考になりました。」


すると、工藤さんと川中さんが顔を見合わせた。


「…確かにパッケージはうまく活用すると、宿泊単価をいつもより上げたり下げたりしやすいんですけど…。


 ここだけの話ですよ?


 違うエリアのボロボロの一泊3000円の施設が、某アーティストのコンサートで街中のホテルが予約できない時にパッケージで素泊まり3万でお部屋を出したんです。


 ──そしたら口コミ欄が大炎上したそうなんです。


 宿としては確かに単価を上げられるのは嬉しい。

 レベニューの手法としても、悪い事はしていない。


 ──けれど、お客様の立場だったら、河南さんはどう思いますか。」


「えっ。3000円が3万…?! …それは確かにお客さんが気の毒でねぇかなって思います。」


その言葉に工藤さんが頷く。


「──でしょう?

 確かに間違ってはいないんです。でも、あくまでも私達施設の仕事はお客様に来て頂いて笑顔になって頂くことですよね。


 だから、最低限のモラルは持ってレベニューをやりたいなぁと僕は思っていて。


 まあ、ここだけの話、逆に閑散期に安くパッケージで出してるホテルさんも多いんですけどね。


 多少安くても、稼働を上げたり、先々の予約をさっさと取り込みたいと考えている施設は沢山ありますし。」


「なるほど…。参考になります。」


(うーん。そうなんだ。ネットエージェントさん側と施設さん、両方の意見聞きながらやった方がいいかも。


 確かに自分達の売り上げも大事だけど、お客さんに『また来たい』って言ってもらいてぇもんな。)

 

そんな事を考えながらチキンステーキを頬張る。


「そういえば桜庭さんは、写真やページの作り方の講座を受けてたんですよね?


 どうでした?」


川中さんの言葉に賢治が頷く。


「そうですね。凄く参考になりました。


 まずは写真の数を増やさなければですけど、それ以外にも、どの写真がどこに表示されるかも大事ですし…。


 ──なぁ、そう言えば日菜子知ってた?検索した時に出てくる外観写真ってこっちで直せねぇんだって。


 ──桐谷さんにお願いしないといけないらしい。」


「え、そうだったの?! 通りで直せねぇなって思ってた!いい事聞いた!賢治どうもね!」


そんな私達を工藤さんがジッと見てくる。


「──もしかしてお二人はご夫婦で旅館をやっているのですか?」


その言葉に私は思わず固まってしまう。一方賢治の顔は何故か真っ赤だった。


「え、えっと…。」


賢治がしどろもどろになってしまった。


「だって、二人ともさっきから下の名前で呼び合ってるじゃないですか。どう見てもご夫婦にしか…」


「違いますっ!!ただの幼馴染ですってば!!」


私の言葉に、賢治はいつもみたいに悪戯をせずに、少しだけ視線を落とした。


「ふーん…お似合いなのに。ねー。工藤さん。」


川中さんの言葉に少しだけ狼狽えてしまった私だった。


◇◇


(本当は某大手のサイトコントローラーを入れてぇけど、うちの予算じゃ無理だなぁ。)


午後の講習では、色んな施設さんがそのサイトコントローラーを推していた。


 無料のものもあるらしいが、性能や使い心地は某大手のものがお勧めだと推された。


(…まあ、でもうちは18部屋しかないからな。

 無料で使えるだけありがてぇ。


 だから、まずは連動するOTAに部屋出ししなくちゃな。)


──講習が終わり、いよいよ表彰式になった。


 会場が暗くなって、スクリーンには『ステイリンクアワード』と表示される。


なんだか『素敵な第二の人生』的な番組で流れてそうな音楽が流れてくる。


「ステイリンクアワード、東海ブロック金賞『旅館 紫陽花』様!」


(あ、さっき講習で108%って言ってた施設さん。)


次々と受賞施設さんの名前をアナウンスされ、担当者達が壇上に上がっていく。


 名前を呼ばれた支配人や女将達の顔は興奮で輝いていた。


 トロフィーを渡されて誇らしげにそれを掲げる支配人。


 周りに立つ受賞ホテルのスタッフさん達は喜びの涙を浮かべている。そして、涙ながらにステイリンクの担当のコンサルタントさんと抱き合っている。


 なんだかこちらまで感動して泣きそうになってきてしまった。


 ──心臓がどくどくと高鳴る。


 表彰式が終わってからも、目を見開いて壇場を見つめ続ける私に賢治が訝しげに声をかけてくる。


「…日菜子?どした?」


すると、アナウンスがかかって立食パーティーの食事が運ばれてきた。


 そんな私に、桐谷さんが声をかけてきた。


「…河南さん。どうでしたか?」


私の中に熱い高揚感が生まれ、拳を握りしめる。


「──桐谷さん!!私、来年、あの壇上さ、立ちたい!!」


その言葉に、桐谷さんと賢治が目を丸くした。


(…うちの宿が、ここに並べるって証明したい!!)

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