【第八話】レベニューマネジメントって何ですか。
「──『湯宿 のんびりや』。
河南 日菜子様、桜庭 賢治様ですね。
本日はご来場ありがとうございます。」
受付をしている社員だと思われるお姉さんがパソコンにチェックをしながらパンフレットをくれた。
ちなみに『新春シンポジウム』の舞台となったのは都内の某有名ホテルで会場がめちゃくちゃ広い。
「ありがとうございます…。」
(ひえええ、こんな豪華なホテル、来たの初めてだ…。)
すると、後ろから声をかけられた。
「──河南さん。」
(…この声は!!)
「…桐谷さん!!」
私が振り向くと、国宝級イケメンが笑っていた。
「東京までわざわざお越しになって下さりありがとうございます。是非、楽しんで行ってくださいね。
──初めまして、桜庭さん。
僕が『湯宿 のんびりや』様ステイリンク担当の桐谷 翔真です。」
桐谷さんが名刺を賢治に差し出した。
一方賢治はというと、何故かショックを受けたように目を見開いて固まっている。
「…初めまして、桜庭 賢治です。
『のんびりや』の写真撮影やページ作りを手伝う事になっています。」
そう言って、ちょっと無理したような笑顔で爺ちゃんが今日の為に作ってくれた名刺を差し出した。
(…賢治? 緊張してるのかな。)
「…そうなんですね。本日はページの『魅せ方』講座なども豊富にありますので、是非お楽しみ下さい。」
一方桐谷さんはというと、前に来たときと同じように国宝級ビジネススマイルを浮かべていた。
「…ありがとうございます。」
「まずは、開会の挨拶とオープニングプログラムの説明が社長の中谷よりございます。お席にご案内しますね。」
そう言って桐谷さんは私と賢治を席まで案内してくれた。
──目の前には巨大なステージがあり、その上には巨大スクリーンに『ステイリンク 新春シンポジウム』という文字が映し出されている。
隣には、30代くらいのショートカットの女性が座っていた。私がペコリと頭を下げると、女性は口元を綻ばせて名刺をくれた。
(なんだか目元が優しそうな人だべな。)
「『青森みやびホテル』レベニュー担当の川中です。」
東京で青森の施設さんと話せると思っていなかった私は、すっかり嬉しくなってしまった。
「初めましてっ!『湯宿 のんびりや』河南ですっ。ウェブエージェントさんを使い始めたのは本当に最近で、新参者なんですが。
──宜しくお願いしますっ!」
私がアワアワしている横で、賢治も名刺を渡す。
「桜庭です。宜しくお願いします。」
「まあ!浅虫温泉の!存じてます。
確かご夫婦で経営されていて、OTAは使っていないとお伺いしてました。支配人様は結構お年の方だったと記憶していましたが。
若女将、ということはもしかしてご親族の方ですか?」
その言葉にブンブン頷く。
「っはい!!孫なんです!最近女将として継ぐことになりまして。」
「──まあ!!ほんだば、お爺ちゃん、わった喜んだでしょ。
…なるほどねぇ。確かに河南さんくらい若い方であれば、OTAを利用されますよね。
ふふ、良かったら仲良くしてくださいね?
ねえねえ、工藤さーん!この可愛らしい女性、『のんびりや』さんの新しい女将なんですって!!」
そう言ってなんと自分の仲のいい施設さんや上司に川中さんが私の事を紹介してくれた。
「ええっ?!この女性が?!
はじめまして。みやびホテル支配人の工藤です。
──河南さんめちゃくちゃお若くないですか?」
「あ、私。今大学生でして…。まだ勉強中なんですけれども…。」
その言葉に川中さんと工藤さんが驚いたように顔を見合わせる。
「えー?!河南さんまだ学生なの?!
えらいね!!お爺ちゃんの跡取りですか?
僕、もうおじさんけど、良かったら宜しくね。
──そうですか、そうですかー。頑張って下さいね。」
そんな感じで励ましてくれた。色んなホテルや旅館の支配人さんが名刺を渡してくれて、みんな優しくてホッとする。
結構施設さん同士で横の繋がりが強いようで、競合というより情報交換しながら『同志』のような感じで動いている人が多いようだ。
中には凄く仲良くなって、施設の担当者さん同士で飲みに行ったりしている人もいるらしい。
「…みんな良い人そうでよかったべな。」
そう言って、賢治は色んな人と名刺交換した私を微笑ましそうに見ている。
「うんっ!!よかったよ。東京で青森弁聞けると落ち着くべな。」
──そんな話をしている時だった。
「あ!始まりましたよ!」
川中さんの声に振り向くと会場が暗くなり、壇上にパッとスポットライトがついた。
「──皆様。本日は『ステイリンク新春シンポジウム』にご来場下さいまして誠にありがとうございます。社長の中谷よりご挨拶がございます。」
社員の女性のご挨拶と共に舞台袖から威厳のある40代くらいの男性がステージに歩み出た。
「全国のホテル、そして旅館の皆様。
お世話になっております。社長の中谷です。
この度ステイリンクは起業から二十周年を迎えました。昨今旅行業界は民泊やインバウンド需要や新型コロナウイルス。様々な変化がありましたが、これからも皆さんのパートナーとして、革新するOTAとして支えていきたいと思います。
今後我が社はAIとユーザーのcookieを利用したマーケティングデータを活用した宿のリコメンド機能などを取り入れ、これからも施設様、並びにユーザーの皆様の為に進化し続けるメディアであろうと思います。」
その言葉にパチパチと拍手が上がった。
ちなみにcookieとは、サイトを利用した履歴などをもとに、ユーザーの興味関心を分析するためのデータのことらしい。
個人名が分かるわけではないが、行動の傾向は見えるのだとか。
(うーん…時代だべな。
こりゃ、爺ちゃんや婆ちゃんがやりたがんねぇのも納得…。私ですらよくわかんねぇこといっばい言ってるもんな。)
社長の話が終わり、講座の時間になった。
「んだば、俺行ってくるわ。あとでな。」
賢治の言葉に頷いて手を振ると、川中さんが声をかけてくれた。
「──河南さん、何の講座取ったんですか?」
「えーっと。次の時間はレベニューマネジメント講座です。」
私が答えると川中さんがぱっと笑顔になった。
「私もです!じゃあせっかくだから、一緒に行きましょう!同じ青森の『仲間』なんだし。」
そう言われて思わず嬉しくなって私はブンブン頷く。
「…っはい!あ、あの!!
川中さんの方がずっと経験がある先輩なので、敬語、使わなくて大丈夫ですよ?」
私の言葉に彼女は目を丸くする。
「…ふふ。んだば、二人の時だけタメ口で話しちゃおうかな。」
こうして私は初めての施設仲間が出来て、ワクワクしてしまった。
◇◇
「レベニューマネジメントの基本は、タイミング、そしてターゲットユーザーの状況やイベントなどの外的要因。
全てを考慮した上で最適な価格でお部屋出し、そして必要に応じて手仕舞いをする。
そうすることで売上を最大化していく事です。
また、チェーンホテルであれば自分達のホテルの格式に合わせたラックレートに沿った最低基準があるかと思います。」
講師の先生の言葉に私はヒソヒソ声で川中さんに尋ねる。
「…ラックレートって何でしたっけ?」
「ホテルの基本料金の事だよ。基本宿の価格は変動性なんだけど、本来ならどこのホテルも正規料金があるはずなの。パンフレットとかに記入されてる1番高い値段。」
その言葉に思わず私は目を丸くする。
「ほえー…そうなんですね。」
(う、うちの宿、パンフレットがそもそもなかったような…。)
ちなみに手仕舞いとはお部屋出しを止める事である。ステイリンクの管理画面の場合、ぽちっと手仕舞いボタンを押せばいいだけだ。
「──ですが、当サイトではもっと自由に価格を設定出来る裏技があります。
それが『ステイリンクエアパック』。
所謂、パッケージプランです。」
その言葉に、私は言葉を失う。
(…パッケージプラン?
確かに宿単体の値段の他にそう言えば価格を入れるタブがあったけど。
なんだか難しそうで出した事無かったべ。普通のプランとは一体何が違うんだ?)




