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リトルスター〜鄙びた旅館の女将になった私がテッペンを取るまで。  作者: 間宮芽衣


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【第六話】私、東京さ、行くだ。


「ただいまー。父ちゃん、母ちゃん!

 …あれ? 誰か来てる?」


女将になって初めての休みになり実家に帰ると、家族以外の靴が二足あった。


 すると、母がリビングからパタパタと出てきた。


「おかえり。日菜子。

 さっき琴音ちゃんと賢治が来てね。結婚の内祝い持ってきてくれて。


 せっかくだから、今日日菜子も帰ってくるし、ご飯食べていきなさいって。」


(なんか、最近賢治との遭遇率多いな…。)


そんな事を思いながら手を洗い、リビングのドアを開けるとカレーの匂いがした。


「おかえり、日菜ちゃん、お邪魔してるよお。」


そう言ってカレーを食べながら琴音ちゃんが笑顔で手を振ってきた。その横で賢治が『よっ。』といいながら手を挙げてきた。


「ただいま…。二人揃ってなんて珍しいなぁ?」


言いながら席に着くと、琴音ちゃんが何故かニヤニヤしている。


「んー。賢治が日菜ちゃんち行くって言ったら来るって言うはんでさぁ。」


「──姉ちゃんっ!」


何故か賢治が耳を真っ赤にして琴音ちゃんの言葉を遮る。それを見た母は面白そうに口元を綻ばせた。


「…ふーん? なんか用事でもあったっけ? あ、父ちゃん、福神漬取って。」


私の言葉に、父が無言で薬味の入った容器を取ってくれる横で賢治が呟いた。


「…旅館の写真撮って欲しいって、話してたべな?


 んだはんで、いつがいいか聞こうと思って。」


「えー、覚えててくれたの?!嬉しいっ。」


私が思わず笑顔になると、賢治はプイッと顔を逸らした。


「…当たり前だべな。」


(おーおー。何だかんだで優しいなあ。)


そんな賢治を見て、何故か琴音ちゃんと母がさらに笑みを深める。


「えー、賢治が日菜ちゃんのとこの旅館の写真撮るの?」


「ああ。カメラ貸して欲しいって言うから。そいだば、いっそ俺が撮るべかなって…。


 って、なんだよ、姉ちゃん。気持ち悪ぃ顔すんなよ。」


賢治の言葉に琴音ちゃんの眉毛が吊り上がる。


「はぁ?あんた、今なんつった?」


琴音ちゃんはカレーを食べながら、ゲシゲシ賢治の膝をどついた。昔からこの二人はこんな感じだ。

 

「──あ。そういえば私、再来週、東京さ行く事になった。なんかステイリンクさんのイベントあるってな。」


すると隣で賢治が目を丸くしている。


「…どんなイベント?」


「宿泊施設同士の横の繋がりを深めたり、売上を上げる為の講習を受けたり出来るみたい。


 写真の見せ方とか、ページの作り方とか。あと…表彰式もあるんだって。」


私がそう言うと、賢治が少し考え込むような素振りをした。


「…へば、俺も行こうかな。写真撮るの、俺だはんで。」


「いいの?!でも担当の人、イベント出るのに三万お金かかるって言ってたよ?」


思わず前のめりになる私に、賢治が頷く。


「いいよ、そんくらい出せるから。有給も使ってないから取れるし。」


「ええっ。本当に?! 賢治どうもねっ!!


 ──あ、そういう感じだから。父ちゃん、母ちゃん、その時マンション解約してくるね。大家さんにも、もう電話した。」


私がそう言うと、父は少し黙り込んでから微笑んだ。


「…そうか。部屋の片付けとか、一人で大丈夫か?」


その言葉に思わず頭を抱えてしまう。


「…あー!!そうだっ!片付けっ!!やだもう。頭から飛んでた。どうしよ…。」


私がオロオロしていると、賢治が真顔でこう言った。


「んー…なら、俺が手伝います。どうせ同じイベントに出るんだし。」


「いいのか?ありがとうな。賢治君。そうしてくれると助かる。」


父がホッとした顔をしたので、私も思わず賢治を見上げてしまう。


「…いいの?賢治、ありがとうね。」


──こうして、私は東京のイベントに何故か賢治と二人で行くことになり、ついでに部屋の片付けまで手伝って貰うことになってしまった。


 何故か賢治は満足そうに頷いていた。


◇◇


「──日菜子、行くぞ。」


あれから三週間。あっという間に『ステイリンク新春シンポジウム』の二日前になった。


 今日出発して、三泊四日で青森に帰ってくる。


今日は賢治がわざわざ『湯宿 のんびりや』まで迎えに来てくれた。


「じゃあ爺ちゃん、婆ちゃん!私、東京さ行くだ!」


「ああ、気ぃつけて行けよ。お土産は東京バナナでいいからなぁ。」


(ちゃっかりお土産要求されたんだけど!)


ちなみに爺ちゃんの腰は少しだけ回復したようだ。


 だが、WEBのお部屋だしなどはあまり理解していないので、私が就活用に使っていたノートパソコンで東京でも管理することになった。


 二人で新幹線に乗っている間、私がパソコンで予約を何故か賢治がジッと見てきた。


「──何?」


私が訝しげな顔をすると、賢治が少し目を綻ばせた。


「…いや、女将、けっぱってるんだなって思って。」


その言葉に何だか少しテンションが上がってしまう。


「…へへっ。最初はあの飲み会で『美人女将』って言われて、調子に乗って引き受けただけだったけど。


 まだ三週間だけどさ。宿の単価が大分上がってきてね?二食付き一部屋8000円で売ってたのが、今は平均2万3000円で出せててさ。


 爺ちゃんと婆ちゃんや、スタッフさんも喜んでくれて。


 …なんか、私がやったことでさ。『誰か』が喜んでくれるって、嬉しいもんだなあって思っちゃって。


 お客さんもさ。帰る時、『若女将、頑張れよ』って言ってくれて。」


すると賢治が黙り込んだ後、わしゃわしゃ頭を撫でてきた。


「…偉いぞ。」


「えー。ちょっとやだ、やめてよー。髪ぐちゃぐちゃになっちゃうっ!」


すると、賢治がパッと手を離して顔を赤らめた。


「悪い。つい、その。…なんか可愛いなって思ったはんでな。」


賢治が何か言ったタイミングでゴオオオオオオオオオッとトンネルに入った。


「んー…何? 聞こえない!!」


私がそう言うと、賢治が固まった後はぁーっと溜息を吐いた。


「やっぱいいわ…。」


賢治はプイッと窓の方を向いてしまった。


(…?今なんて言おうとしてたんだろ?)


少し小腹が減った私はカバンを漁る。


 そして『ラグノオささき』のポロショコラを二つ出す。


(これ、うめぇんだよねぇ。)


『ラグノオ』は青森のお菓子屋さんだが、今や成城石井やカルディでも売っている。このお菓子こそ、『青森の奇跡』かもしれない。


「はい、賢治。一個あげる。」

「…さんきゅ。」


二人で黙々とお菓子を食べる。濃厚なチョコの味がじんわりと口の中に広がっていく。


 新春シンポジウムはめちゃくちゃ楽しみだったが、実は少しだけ、青森から来た自分が浮いてしまわないか心配だった。


「ねえ、賢治。


 …もし東京行って、もっとすごい宿見て、自信なくなっちゃったらどうしよう。


 それにさ。経験あって凄い人ばっかり来てたら、浮いちゃわないか、不安だな。


 ──その、毎年出てる人もいるだろうし。」


「大丈夫だって。宿の人、優しい人が多いはんで。

 仕事で結構関わること多いんだけどさ。

 基本おもてなし精神で動いてる人達だべな。


 だから、けっぱろうとしてる日菜子のこと、馬鹿にしてくる人なんてそんなにいないって。」


その言葉がジワジワと心に染み込んでいく。


「…うん。そうだよね。

 まずは、色んなこと吸収できるようにけっぱる。


 ちなみにセミナーはね、一人じゃ全部見切れないから別々なのに申し込んだよ!


 私が『レベニューマネジメント講座』と『サイトコントローラーについて』『デイユース集客について。』


 賢治が『魅力的なページ作り、写真の撮り方講座』『広告活用術』『インバウンド戦略について』」で申し込んだから、終わったら資料共有してくれると嬉しいな。」


「…了解。けっぱるべな。」


こうして、私達は新幹線を降りて東京駅へと降り立った。

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