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リトルスター〜鄙びた旅館の女将になった私がテッペンを取るまで。  作者: 間宮芽衣


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【第五話】婆ちゃんのへそくり。


「さてと。まずは、女将の仕事だげど、主にやってもらう事は、こった感ずかな。


 お客様のお出迎えと案内、それに事務作業と客室のチェックや、おもてなし全般ね。


 事務作業は爺っちゃがやってた予約管理や、アメニティの発注担当をしてもらうことになります。

 

 ただ、女将は全体見て最終チェックする立場だはんで、現場の流れ知らないと、話になんねぇの。


 今日はスタッフの動き、勉強すろじゃ。


 10時になったっきゃ、婆ちゃんと一緒さ、チェックアウトのお客様ば、対応すっからな。


 それまでは谷口さん達と、一緒さ清掃してきて。」


そう言われて、私は谷口さんや清掃のスタッフさん達に頭を下げる。


「宜しくお願いします。」


すると、皆さんが笑顔で頷いてくれた。


 谷口さん以外の二人のスタッフはどうやら地元の大学生らしい。


 まずはマスクとゴム手袋をして、ロビーや廊下のゴミ箱や、自動販売機横のゴミ箱からからゴミを集める。


「日菜子ちゃん、終わった?」


「はい!」


すると、谷口さんは笑顔で頷く。


「──へば、ひとまずフロント行ってきて。

 今日は婆っちゃのやり方見てれば、いいと思う。


 んで、一通り確認できたっきゃ、お風呂掃除のやり方見せるんで、大浴場さ来て。」


 私は頷くと、フロントでお客様のチェックアウト作業をする。メモを取りながらチェックアウトの手順を覚えていく。


「ありがとうございました!」


言いながら丁寧にお見送りして、お辞儀する。


 一人、七十代ぐらいのお客様が声をかけてくれた。


「へえ、姉ちゃん、新しく若女将になんのか?

 ──若ぇのに婆ちゃんの跡継いで偉いなぁ!

 また来るから頑張れよっ!」


なんだか胸が温かくなってくる。


「…っ、はい。」


そんな私を婆ちゃんがなんだか嬉しそうに見ていた。


 10時にチェックアウトが終わったらお風呂場に直行する。私がチェックアウト作業をしている間に谷口さん達は、空いてる客室から清掃をしてきたようだ。


「滑るはんで、気ぃ付けてね!」


谷口さんの言葉に私はおっかなびっくり頷く。


 まずは1番はじめにお湯を抜き、そして、その間に洗い場を清掃する。


「…はぁー。お湯を抜くばっても、結構時間がかかるんですねぇ。」


私が感心していると、谷口さんが苦笑する。


「そりゃそうじゃ。お家の湯とは規模、違うはんでね。抜くだけで20分はかかるべかな。」


その言葉に思わず目を見開いてしまう。


「そんなに?!」


「そ。んだはんで、段取りが大事だの。今、バイトの岡崎さん達、男湯やってくれてるはんで、日菜子ちゃんは、今日は私と一緒ね。」


言いながら谷口さんが取り出したのは高圧洗浄機だった。


「え?!これを使うんですか?」


「うん。本当は毎日デッキで擦り洗いしたいけど。ばって、人件費の削減でね。週さ二回は、丁寧さ擦り洗いもするんだけど。」


二人で洗い場や床を丁寧に清掃をしながらシャンプーやトリートメント、洗顔ソープなどアメニティの補充をしていく。


 そして、お湯が抜けたら今度は浴槽を洗っていく。


 地味に結構重労働だ。ずっと前屈みの姿勢なので地味に腰にくる。


「ううっ、谷口さーん、腰が痛いよぅ。」


「ふふっ、日菜子ちゃん若けぇはんで、まだまだ大丈夫よー。」


 結局お風呂掃除だけで、二時間以上かかってしまった。


「つ、疲れた!」


私が呟くと谷口さんはクスクス笑った。


「したっきゃ、お昼ご飯食ったっきゃ、ロビーさ集合ね。今度は客室清掃するはんで。」


「…はい。」


(ひー、まだあるのー?!もう腰が限界だよー。)


そんな事を思ってしまった。


◇◇


「…また予約入ってる!」


私はランチにもぐもぐと婆ちゃんの握ってくれたお握りを食べながら、予約管理画面を見る。


 一応爺ちゃんに予約管理画面の使い方を伝えておいたのだが、果たしてちゃんと理解しているのか怪しいところである。


「えがったなぁ。やっぱ爺っちゃ、よくわかんねぇからよ。日菜子はおもてなすと、予約管理の専門にした方がいいな。


 まあ、皆がどったら事、してるかは把握した方がいいばってよ。」


隣で爺ちゃんな嬉しそうにお握りを頬張った。今の所トラブルなども起きていないようだ。


 すると、電話が鳴ったので慌てて受話器を取る。


「はい。『湯宿 のんびりや』河南です。」


『──お世話になっております。ステイリンクの桐谷です。』


(きゃー!桐谷さんっ!癒しっ。)


疲れた身体にイケメンボイスが染み込んでいく。


『実は”ステイリンク新春シンポジウム”のご案内だったのですが。』


その言葉に私はキョトンとしてしまう。


「何ですか?それ。」


『年に一度、施設様達が集まって横の繋がりを深めて頂きながら様々な講習などを受けて頂くイベントです。詳細は、メールで資料をお送りしたので目を通して頂けますと幸いです。


 例えばのんびりやさんなら、管理画面使いこなし講座や、サイトコントローラーについてがお勧めですね。 


 あとは、PVを稼ぐための宿ページ作りや、写真の魅せ方講座、広告活用方法などを始めとした様々な講座があります。インバウンドや、デイユース…所謂日帰りの集客、客層ごとの打ち出しについてなども学ぶ事が出来ますね。


 他には有名レベニューマネージャー様やホテル社長の講演、立食パーティーがあります。


 ──あと、″ステイリンク宿アワード″と言って、ここ一年ステイリンクで売上を上げた施設様の表彰式もあります。』


桐谷さんの説明を聞いていると、面白そうで思わずワクワクしてしまった。


「わった行きたいですっ!!いつ、どこであるんですか?!それ!」


「──東京で2月中旬にあります。ただ…」


その言葉に私は固まってしまった。


◇◇


「ねぇー、爺ちゃーん。お願いー。」


あの後私はなんとか客室清掃を谷口さん達と終えて、事務室に戻ってきた。


 私の言葉に爺ちゃんは渋い顔をする。


「ばってなぁ、その『シンポジウム』っちゅうのに出るばって、三万もかかるんだべな?


 しかも交通費も出ねんじゃなぁ…。


 それに日菜子行ってる間、人手も少なくなるし。」


「ばって、まだマンション解約してないし、交通費はどっちみち父ちゃんと母ちゃんが出してけるよ。


 本当、参加費の三万だけでいいからー!!」


──そうなのだ。なんと、ステイリンク宿アワードに参加するには一人あたり三万円かかるのだ。


 人手的にもお金的にもカツカツでやっている『のんびりや』にはなかなか厳しいようだった。


 爺ちゃんと私が押し問答していると、婆ちゃんが事務室に入ってきた。


「──どうしたの?揉めてらみたいだけど。」


「婆ちゃん!!実は私、このイベントに出たいんだけど、三万かかるって言われて…。」


印刷したチラシを見せると、婆ちゃんが目を丸くして黙り込んだ。


「『ステイリンク宿シンポジウム』ねぇ…。」


「…やっぱ駄目かな。」


私が意気消沈して下を向くと婆ちゃんが口を開いた。


「いいよ。行ってこいじゃ。」


「──っいいの?!」


その言葉に私は顔を上げる。


「…ば、ばって、どっから予算出すんだ?」


そう言って、爺ちゃんがオロオロしている。


「…婆っちゃのへそくりで出してける。」


私は思わず声を詰まらせる。


「っ、婆ちゃん!!」


「──婆っちゃ。おめぇ、そった金。いつの間に貯めてたんだ?」


訝しげな顔をする爺ちゃんに、婆ちゃんがニッコリと微笑んだ。


「…内緒だ。」


──実は婆ちゃんがこっそりSHOWAのファンになっており、推し活費用捻出のために大量にアイドルうちわを作って売り捌いていると知ったのはその数ヶ月後のことだった。


 私が最初にこの宿に手伝いに来た日に疲れた顔をしていたのも、ただグッズを夜鍋して作っていて疲れていただけだったというのも…。


「っ、ありがとう婆ちゃんっ!

 私、きっちりと学んでくるからねっ!」


──こうして私は婆ちゃんのへそくりを使って『ステイリンク新春シンポジウム』に参加する事になった。


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