【第三話】若女将、爆誕。
「…桐谷さん。『ステイリンク』さんみたいな旅行サイトは、どうなんですか?
『ステイリンク』は旅行会社でねぐて、旅行サイトだしょ?」
私が尋ねると、桐谷さんは微妙な顔をした。
「この業界では『OTA』と呼ばれています。旅行サイトにもよるのですが、一応ステイリンクは『旅行会社』ではありますね。
支社にも一人、必ず『旅行業務取扱管理者』の資格を持った者がいますし。
しかし、リアルエージェント様とは違って『ネットエージェント』と呼ばれています。」
その言葉に私は、戸惑う。
「…さっき爺ちゃんが言ってました。
旅行サイトって掲載料はかからないんですよね?
どうやってお金が入ってくるんだが…?」
すると、桐谷さんがゆっくりと口を開いた。
「…私達のサイトですと、宿やホテル様がご掲載頂き、もし予約が入れば手数料として10%頂いています。
──ですから、宿にとっては掲載のリスクは低くはあります。
例えば、23000円でステイリンク上でお部屋を販売頂くと、2300円差し引かれた金額が、翌月末に宿にお支払いされます。」
「…え!めっちゃいいじゃないですか!爺ちゃん、旅行会社さん使うのやめて、うちも『ステイリンク』さんだけにするべよ!」
すると、爺ちゃんが渋い顔をした。
「ばってなぁ。管理がめんどくせぇんだよ。自分で全部管理するのはうちの宿じゃ無理だ。
載せでみるのは、いいばってよ。18室全部ってなれば、婆っちゃも爺っちゃも…できねぇぞ?」
(…あ。)
私は思わず黙り込んでしまう。
すると、桐谷さんがこんな事を言い出した。
「…その為に河南さんが、担当して下さる…という訳ではないのですか?」
その言葉に爺ちゃんがキラキラした目で私の方を見てきた。
「…日菜子ぉ…。」
(うっ…。わんつかだけ手伝うだけのつもりだったのに。)
「担当して頂けるのであれば、これから頻繁に顔を出させて頂きます。
僕と一緒に頑張りませんか…?」
国宝級イケメンが私の方を真剣な目で見てくる。
──僕と一緒に頑張りませんか?
桐谷さんの言葉が頭の中にエコーする。
(え、え、マジで?この国宝級イケメンと、こぃがらいっぱい会えるっつぅこと?
い、一緒にが、頑張る…?)
きゃーきゃーと脳内で自分が悶えて転がりまくっている。
私は思わず答えていた。
「──やります! 私がこれから『ステイリンク』さんの担当をする、『若女将』、河南 日菜子です!
宜しくお願いしますっ!」
──こうして、なんと私はイケメンに釣られて、本当に若女将になってしまった。
◇◇
「…これでよしっ!と。」
――次の日。
とりあえず、私は旅行会社との契約が切れる月以降の部屋を、桐谷さんに言われたように『ステイリンク』上に『お部屋出し』した。
部屋出しの作業自体は結構簡単である。
旅行会社さんと宿は基本的に、『最低何部屋、この期間はうちの旅行会社に下さいね。』という契約を結んでいる。この契約は『アロットメント』と呼ばれているらしい。
…ちなみに、旅行会社の方でも直前まで部屋が売れなかったら宿に部屋が戻されてしまうらしい。だから返された部屋は、自力で売らなければならない。
『のんびりや』の場合は三ヶ月後にこの契約が旅行会社と切れる。なので、それ以降を一年間、お部屋出ししたのだ。
とりあえず、旅行会社が出していた一部屋二名23000円を参考にして、日曜日から木曜日は22000円、金土祝日は25000円でお部屋出しした。
桐谷さんが『混む日とそうじゃない日の価格を分けた方がいい』とアドバイスをくれたからだ。
(本当はいろんなプランとか、写真も入れたいし。勉強すなくちゃな。)
そんな事を考えていると、ピロンと通知音が鳴った。
「え、え、もう予約入った!!」
驚いて二度見すると、来年の8月上旬に何故か集中して予約が入っている。
「え、えええええ?!も、もすかして何かイベントでもあるのかな?
じ、爺ちゃーん!『ステイリンク』さんから、早速三件も予約入ったよ!
来年の8月なんだばって。何かあったっけ?!」
すると、爺ちゃんがこんな事を言い出した。
「あー、この期間『ねぷた祭り』でねぇか。」
その言葉に私は固まる。
「わあああ!忘れてたっ!!」
(もすかして!!)
私はステイリンクのサイト上から予約が入った日の浅虫温泉や青森駅近辺の宿の値段を検索する。
すると、うちの宿が明らかに一番安い値段でサイト上に出てしまっていた。
「…がーん…。これって、もすかして。
いや、もすかしなくても、もうちょっと値段上げてもお客さん、入ってきてくれたってことじゃない…?」
私はショックで独り言を呟く。
(そっか。価格を変動させるって言っても、曜日の要素も勿論あるけれど…。それだけじゃないのか…。
え、へば、イベントとか、他の宿の値段も全部調べなきゃいけねって事…?)
私はそれに気付いて一気に現実を突きつけられた。
「うわー。やってまった。とりあえず、この日の値段はもうわんつか、上げとこ…。」
──『のんびりや』は部屋が18部屋しかないので、出来るだけ単価を取らないと話にならない。
私はその事に気付いて、溜息を吐くのだった。
◇◇
『まあ、最初はうまく出来なくて当たり前ですよ。
大きなホテル様は『レベニューマネージャー』と言って、価格管理をしている専門の人がいるくらいですから。
ちなみに、コンサートや野外フェスなどのスケジュールも確認しておいた方がいいですよ。
来るアーティストによっては予約が一気に入ってきますから。』
私は管理画面の使い方で、マニュアルを読んでも分からなかったところを箇条書きにして、桐谷さんにメールした。
すると、律儀に桐谷さんが電話をしてくれたのだ。
(…イケメンボイス…!!)
思わずテンションが上がってしまう。
「…そうなんですね。」
『ええ。この前他のホテルさんが、人気アーティストのコンサートで『ダブルブッキング』して、大変だったんですよ。』
その言葉に私は目を見開く。
「だ、だぶるぶっきんぐ?…何ですか?それ。」
すると、受話器の向こうから桐谷さんが優しく教えてくれた。
『部屋数以上に予約が入ってしまうことですね。』
思わず私は固まる。
「え、え、そんな事、ありえるんですか?」
『はい。のんびりや様は今の所、ネットはステイリンクでしか予約できないので心配ないですが。
結構皆さん色んなサイトや自社ホームページでも集客してますからね。』
思わず私は息を呑む。
(確かにそっか!
──え、え、そんなの私管理できる気がしないんだけど!)
「…え、わった難しそう。
私、多分流石にそんなに沢山のサイト、管理できねぇです。露出が増えるとはいえ、よく皆さんやりますね…。」
すると、受話器の向こうからクスリと笑う音が聞こえた。
『大丈夫ですよ。皆さんサイトコントローラーを使っていますから。』
その言葉に私は目を丸くする。
「『サイトコントローラー』?
なんですか、そのドラえもんの道具みたいな名前のものは。」
『ぷっ。ドラえもんって。
サイトコントローラーは色んなサイトと繋ぐ事で、宿のお部屋を一元管理するシステムのことです。
有名なものはいくつかありますね。
大手旅行サイト系のものや、独立型のものなど。
まあうちだけにお部屋出しして頂きたいのが本音ですが、色んなサイトに載せると露出、そしてブランディングのチャンスが増えますからね。
サイトによって毛色も違いますし。
まあ、のんびりや様の場合は、まずは自社ホームページも作った方がいいと思います。』
「え、何でですか?」
私が食い気味で聞くと、桐谷さんが教えてくれた。
『…僕が言うのもなんですけど、自社ホームページだと、宿の方は手数料を支払う必要がないですから。
全額宿が総取り出来るんです。
まあ、よっぽど知名度がないとなかなか自社ホームページだけでの集客は大変だと思いますが。』
(なるほど…。んだば、やっぱり、いつかは『サイトコントローラー』を入れなきゃなんねぇな。)
「…ちなみにダブルブッキングしたホテルってサイトコントローラーは使ってねがったんですか?」
「いえ。使ってます。
ですが、お部屋の予約を止めるのが間に合わないくらい一気に予約が入ってしまったんでしょうね。
ちなみにそうなった場合は同じくらいのスペックのまだ空いてる宿に頭を下げて、溢れたお客様を泊めてもらう事になるんですが。
──繰り返してしまうと『またあそこか。』と周囲にも思われてしまったりする訳です。」
その言葉に私は白目を剥きそうになってしまった。
(こわっ! とりあえず混んでそうな日は、高めに出しとこ…。)
──明日からはサイトの管理と簡単な接客だけではなく、婆ちゃんやアルバイトの人と一緒に現場に入る事になる。
私はギュッと拳を握って、逃げねぇって自分に言い聞かせた。




